第13話 姉妹のじゃれあい
「急にお姉ちゃんみたいなこと言うじゃん」
千景はにやけ面でつげた。だから私は当たり前のことをつげる。
「お姉ちゃんだから」
「え?」
「本当はずっとお姉ちゃんが良かった。だから頑張って来たんだよ。優秀なあんたに負けないように。でもあんたは私の思いも、努力も踏みにじった。だからあんたのことは嫌い。でもまた元通りになれるのなら、私は……」
最後まで口にすることはできなかった。不意をつくように、千景が唇を重ね合わせてきたのだ。舌を入れるキスではなかったけど、妹とのキスに慣れるわけがない。
私は顔をしかめて千景をみつめた。
「キスしないって言ったくせに」
「これは馬鹿にするキスじゃないから。お姉ちゃんって優しいんだね。あんなに酷いことをしたのに、私のお姉ちゃんになりたいなんて」
私の主観がそう感じただけで、千景にそんな意図はないのだと思うけど。千景の表情は、どことなく親愛の情を孕んでいるようにみえた。
私は少しだけ優しい気持ちになりながら、口を開く。
「……お姉ちゃんっていうのは、そういうものでしょ。謝りたくはないけど、一応謝っとく。ごめん。お姉ちゃんなのにファーストキスとか処女奪って」
「嬉しいよ」
「えっ?」
「きっと優しいお姉ちゃんは一生、責任を感じ続けると思うから」
千景はにやにやといたずらっぽく笑った。私はすっかり呆れてしまって、肩をすくめた。
「……あんたは変わらないね」
でも結局この子は私の妹で、姉という存在は妹に弱いのだ。これまでたくさん酷いことをされたし、私だって酷いことをした。
でも千景だって、私に多少は歩み寄ってくれている。たった一度犯すだけで、普通の姉妹でいてくれるのだ。私も少しは許さないといけないと思う。
「帰ったらえっちしてくれるんだよね?」
千景はにやつきながら、私の手を握ってきた。私も仕方なく、その手を握り返してあげる。普通の姉妹に戻るわけだから、少しずつ慣れていかないと。
私は首を横に振りながらつげた。
「あれはえっちとは言わない。えっちは愛し合ってる人がする行為でしょ」
「だったら私たちのは何?」
「……姉妹のじゃれあい」
するとまたしても千景はニヤリと微笑んだ。
「でもそのじゃれ合いでお姉ちゃんは罪悪感を覚えるんでしょ?」
またあの、人を見下すような尊大な表情だ。この子が普通になるには時間を要すると思う。でも私は千景を絶対に見捨てないだろうし、変わることを辛く思うのなら、きっと元通りの歪んだ関係になることだって、許容すると思う。
とはいえ、千景の発言に苛立ちを覚えないかと言われたら、間違いなく覚える。だから私も喧嘩腰で返す。
「全く理解できない。私に罪悪感を与えるために、大嫌いな私にそんなことをさせようとするなんて。私ならあんたにあんなことされるのは耐えられない」
「だって私、お姉ちゃんのこと大切に思ってるもん」
私はジト目で千景をみつめて問いかけた。
「大嫌いなのに?」
「うん。その二つって両立するでしょ?」
大嫌いなのに大切。……確かに、私も千景のことは大嫌いだけど、お姉ちゃんとしては大切に思ってる。
「……まぁ私もあんたのことは大嫌いだけど、大切だとは思ってる。この世でたった一人の妹だから」
「でしょ? これからも姉妹としてよろしくね」
「……はいはい」
そんな会話をしながら家に帰る。玄関の扉を開くと、中は静まり返っていた。お父さんもお母さんも夜になるまでは帰ってこないはずだ。
玄関で靴を脱ぐ。二人でフローリングに上がると、千景は「お姉ちゃん。えっちしようよ」とさっそく私を千景の部屋に引っ張っていった。扉を開いて、部屋に入る。
「……だから、私たちのはえっちじゃないって」
「えっちだよ。それとも、レイプの方がいい?」
私はため息をつきながら、なにかを期待する表情の千景をベッドに押し倒した。今の私の精神状態で千景に憎しみをぶつけるなんて、可能だろうか。でもこれで最後なのだ。なんとか憎しみの気持ちを振り絞らなければならない。
私は表情を強張らせながら、乱暴に千景の服を脱がせていった。
〇 〇 〇 〇
私はあっという間にお姉ちゃんに全裸にされてしまった。お姉ちゃんはベッドの上で、私の大切な場所をかき乱していた。そのたび体が震えて、とろりとしたものが溢れ出してくる。
「お姉ちゃんっ。……そこっ。もっとっ」
「……そんなに、私に触られるの気持ちいい?」
「お姉ちゃん。お姉ちゃんっ……」
「そんなに私のこと呼んでさ。普通は好きな人じゃないと気持ち悪いと思うはずなんだけど。本当にあんたのこと、理解できないよ。気持ち悪い」
お姉ちゃんは明らかに無理して作った、蔑みの表情で私を見下ろしていた。そんなお姉ちゃんがどうしようもなく愛おしくて、気付けば私はお姉ちゃんの背中に腕と足を回して、全身でホールドしながらキスをしていた。
お姉ちゃんは目を見開いて、顔を真っ赤にして、私をみつめている。でも私が舌を伸ばすと、お姉ちゃんもそれに応えてくれた。全身が気持ちいいでいっぱいになって、頭がばかになってしまいそうだった。
幸せを無意識に感じてしまうほどに、私はお姉ちゃんを愛していた。だけどそれに気付いた瞬間、私は慌てて理性でそれを否定する。
でもお姉ちゃんの手が止まってくれないから、気付けば私はそんな葛藤もろとも、快楽で押し流していた。何も考えたくなかった。ただただ、今はお姉ちゃんに愛されていたかった。
違う。愛されてなんてないってことは分かってる。けど、私は頭の中で勝手にお姉ちゃんの憎しみを愛に変換していたのだ。これまで散々酷いことをしてきた。だから私のことなんて好きなわけがないのに。
都合のいい妄想が始まると、乱暴な手の動きもとても優しいように錯覚してくる。ひどい罵倒だって、愛をささやかれているようにしか聞こえてこなかった。私を本気で愛してくれていて、憎しみなんかじゃない。ただ純粋な愛情ゆえに私の体を愛してくれてるんだって。
だから、もう私の胸は訳が分からないほど、ドキドキしてしまっていた。
恋なんかじゃないって否定するつもりだったのに、むしろ肯定する材料しか集まってこないのだ。お姉ちゃんとえっちを繰り返してたら、いつかは慣れて恋じゃないって否定できるのかな……?
そうだったらいいけれど、とてもそうは思えない。
全身を快楽に震わせながら、脱力してベッドの上で倒れていると、お姉ちゃんは私の大切な場所の周りをタオルで拭いてくれた。
「……こんなにびしょびしょにして。シーツも洗わないとだし。今度からはビニールシートとか敷いておかないとだね」
今回で終わりなはずだ。でもお姉ちゃんがまるで、またこんなことをする機会があるみたいな口ぶりで話すから、嬉しくなってしまう。
「またしてくれるの?」
ベッドの上で横になったままお姉ちゃんをみつめる。するとお姉ちゃんはかぁっと顔を真っ赤にしていた。
「……そんなわけないでしょ! でもどうせあんたのことだから、約束も反故にして、何度でも何度でも私にこんなことさせるつもりなんでしょ!?」
私ってそんなに信用されてないのかな。でも当然だとは思う。これまで酷いことしてきたわけだし。
「……お姉ちゃんは嫌じゃないの?」
私が問いかけると、お姉ちゃんは眉をひそめた。
「嫌だっていったらやめてくれるわけ? しなくても普通の姉妹になってくれるわけ? あんたはそんな奴じゃない。私のことが大嫌いでたまらないんでしょ。だったら嫌でもやるしかない。そうでしょ」
お姉ちゃんの顔は真っ赤だった。どうしてか、後ろめたげに肩をすくめている。その感情表現の理由は分からないけれど、やっぱりお姉ちゃんは私のことが嫌いみたいだ。
なんだか、胸が痛い。自業自得なのに。いや、でもこれは恋なんかじゃない。絶対に違う。恋じゃないんだから、嫌われてるからって胸を痛くする必要なんてない。そう言い聞かせても、胸の痛さは止んでくれなくて。切なくて。
気付けば、私は部屋を立ち去ろうとするお姉ちゃんを引き留めていた。
「もう一回、して」
するとお姉ちゃんはため息をついて、戻ってきてくれた。
「……あと一回だけだからね」
なんだかその表情は、嬉しそうにみえた。……気のせいだと思うけど。
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