第11話 昨日と同じこと、してほしい
私は教室で、お姉ちゃんのことを考えていた。
今日のお姉ちゃんは、なんだか優しかった。たぶん、昨日のことに罪悪感を感じてるからなんだろうけど。
でも優しいお姉ちゃんは好きだ、と思う。私は普通の姉妹の関係には実は少し憧れている。ただ、私が普通じゃないからそういう関係にはなれなかった、ってだけで。
私はお姉ちゃんに嫉妬されることを喜んでたし、私に圧倒されて絶望するお姉ちゃんの顔が大好きだったけど。でも今はなんだか……。わけわかんないけど、お姉ちゃんの笑顔をもっと見てみたいって思う。
やっぱり私、おかしくなってるのかな? これまでお姉ちゃんに笑ってほしいなんて思ったことなかったのに。小学生の頃が最後だったのに。散々ひどいことをしてきたって自覚はあるのに、こんなの今さら……。
お姉ちゃんにあんなことさせたせい、なのかな。
きっと勘違いだ。もう一度お姉ちゃんにえっちなことしてもらったら、分かると思う。私は別にお姉ちゃんのこと、好きなんかじゃない。好きになっていいわけないんだ。
だってお姉ちゃんは私のこと、嫌ってる。嫌われるにふさわしいことをしたって自覚もある。こんな状態でお姉ちゃんに恋なんてしてもきっと受け入れてもらえない。そもそも、私たち、姉妹だし。
そう。この気持ちは恋なんかじゃない。ただ、おかしくなってるだけだ。そのことをどうにかして証明しなければならない。否定するためにも私はもう一度、お姉ちゃんにえっちなことをしてもらわないと。
最初は初めてのことだからドキドキする。でも慣れてきたら、きっと私の気持ちはその慣れないことへのドキドキだった、って分かるはず。
でもなんだかこの気持ちが勘違いだって否定されるのは、怖い気がする。どうしてなんだろう? 私にも分からない。お姉ちゃんへの恋なんて、しないほうが安心していられるに決まってるのに。それでも思い違いじゃなければいいのに、なんて思う私もいて。
あぁ、なんなんだろ。自分でもよく分からないけど、胸が苦しい。
でもどうせ叶わない恋なのだ。それならさっさと否定してしまったほうがいい。そのためにはやっぱりなんとかお姉ちゃんにえっちなことしてもらう口実を作らないと。
授業が終わり、チャイムが鳴る。放課後になるとすぐにみんな、教室を出て家に帰ったり、部活に向かったりしていた。
私も一人で昇降口に向かう。相変わらずみんなの視線は冷たいけれど、お姉ちゃんさえいればどうでもいい。お姉ちゃんだけは、私を一人の人間としてみてくれてるから。
幼いころの私じゃなくて、今の、本当に最低な私をみつめてくれたから。
昨日のことを思い出すと、顔がすぐ熱くなってしまう。私は、お姉ちゃんとえっちしたのだ。お姉ちゃんに犯されたのだ。おかしいって分かってるのに、ドキドキしてしまう。
私は小さくため息をついて、お姉ちゃんの靴入れをみた。上履きはない。まだ校舎の中にいるみたいだった。
いつもなら一人で帰るところだけど、今日は校門の前でお姉ちゃんを待ってみる。私をみるみんなの視線は険しい。でもそんなのはどうでもいい。お姉ちゃんさえ私に執着してくれるのなら、……どうでも。
でもその執着が恋に変わってくれたのなら。
なんて不意に思ってしまうから私は慌てて首を横に振って、それを否定する。私は校門の横に寄りかかって、じっとお姉ちゃんを待った。
〇 〇 〇 〇
放課後、私は憂鬱な気持ちで昇降口にて靴を履き替えていた。部活をやめるまでは芽衣と二人で部活に行ってたのに、今は真っすぐ家に帰らないといけない。
今日もあいつは、私に犯すことを要求してくるのだろうか。私はまた、たった一人の妹に抱いてもいない憎しみを、ぶつけなければならないのだろうか。
そんなことを考えながら校門を抜けると、その脇にいた千景と目が合った。千景に友達なんていない。私を待っていたのだろう。でも千景は何も話さず、ただただ私をじっとみつめていた。
放課後だから少し疲れている。積極的に話したい気分じゃないから、無視して一人帰路につく。すると当然、千景は私の後をついてきた。
小学生の頃は、どこに行くにも千景は私の後ろをついてきていた。「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」ってニコニコしながら。本当に可愛かった。
でも今は状況こそ似てはいるけれど、持つ意味は全く違う。私たちはお互いを憎しみあっているし、それをやめようともしない。むしろ千景は進んで憎むように私に要求してくる。
ちらりと振り返ると、目が合った。千景は気まずそうに視線をそらした。一体何を考えているのだろう。何か意図があるようなのに、それを理解できないのはあまり気分が良くなかった。
「千景。後ろじゃなくて、隣に来なよ」
「……うん」
声をかけると千景は随分素直に、私の隣にやって来た。
「どうしたの? いつも一人で先に帰ってるでしょ?」
「……今日は、お姉ちゃんに伝えたいことがあって」
千景は顔を赤くして、恥ずかしそうにしている。私に憎まれたい千景の伝えたい事なんて、きっとろくでもないことなんだろう。けれど千景がこんな風になったのは私の責任で、私には千景の言うことを聞いてあげる義務がある。
「なに?」
問いかけると、千景はその可愛らしい顔を一層赤くして、ぼそりとつげた。
「……今日もまた、昨日と同じこと、して欲しい」
「同じこと?」
「……お姉ちゃんに、私を犯して、ほしい」
そんなか細い声を聞いた瞬間、私は頭を抱えそうになった。
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