第7話 いびつな関係の始まり

 放課後、私は家に帰って、部屋で勉強をしていた。すると誰かが私の部屋をノックした。扉を開けるとむすっとした表情のお姉ちゃんがいた。


「お姉ちゃんが私の部屋に来るなんて珍しいね。またキスしたいの?」

 

 私が馬鹿にするように笑うと、お姉ちゃんはますます不機嫌そうな顔になる。


「……あんただって面倒なことになってるでしょ。高校。私たちはお互いのために正常な姉妹仲に戻る必要がある。だから対話しない? って言ってるの」


 正常な姉妹仲とやら。そこに私の求める姉妹の形はあるのだろうか。自分を犠牲にしてでも私に屈辱を与えようとする。そんな歪んだ、けれど力強い思いは、たぶん、ないと思う。普通の姉妹のように仲良くして、助け合って。それは確かに綺麗でちょっとは憧れるけれど。


 でも私は普通じゃないから、無理に普通の姉妹を演じようとすればお姉ちゃんは私を障害物みたいに避けて、どこか遠くへ離れていってしまうだろう。私は頑張らなくても、何でもできてしまう。存在するだけでお姉ちゃんを否定してしまうのだ。


 そんなの、周りの反応を見てれば分かる。確かにお姉ちゃんは人よりは出来るけれど、ただの凡人に過ぎない。憎しみ故の執着がなければ、とっくの昔にお姉ちゃんは私を避けてしまっていただろう。


 私が異常だから、むしろ私たち姉妹は異常である方が正常なのだ。


「対話なんてしない。そんな関係じゃないでしょ。私たちは」

「つまりあんたは、これからも私から大切なもの奪うつもりってこと?」

「うん。そうだよ」


 私は笑顔で言い放つ。するとお姉ちゃんは苦い顔をした。


「……もう私には大切なものなんて、何も残ってない。自尊心も自信もなにもかもあんたに全部奪われたの。もういい加減にして」

「やだ」


 私は笑顔でお姉ちゃんにキスをした。舌を入れて口の中を蹂躙する。お姉ちゃんは必死で抵抗しているみたいだけど、私ががっちり頭をホールドしているせいで、抜け出せないみたいだ。


 唇を離して、お姉ちゃんに微笑む。


「どう? 気持ちいい? 妹とのディープキスは」


 するとお姉ちゃんは乱暴に私を突き放した。かと思うと不機嫌そうな顔で、私をそのままベッドに押し倒してくる。


「……あんた、私のこと、なめてるんでしょ」


 すっかり血が上ってしまっているのか、お姉ちゃんの顔は真っ赤だ。何を考えているのか、乱暴に私の服を脱がせていく。制服を無理やり脱がされて、肌着も奪われて、スカートも脱がされて、あっという間に下着姿にされてしまった。


 私はベッドに押し倒されたまま、低い声をあげる。


「……お姉ちゃん。なにしてるの?」


 お姉ちゃんは私に馬乗りになって睨みつけたまま、何も言わなかった。


「……ねぇ?」


 自分の声が震えていることは理解していた。それを隠せないほどに、私はお姉ちゃんを恐れていた。こんなにお姉ちゃんを怖いと感じたのは、初めてかもしれない。


 そのことを感じ取ったのか、お姉ちゃんは蔑むような笑顔で口を開く。


「もしも対話するのなら、やめてあげる。でもしないのなら、私はこのままあんたを犯す。ファーストキスだけじゃなくて、あんたの処女も奪うから」


 そう告げて、お姉ちゃんは私の大切な場所にショーツ越しに触れた。


「……お姉ちゃんにそんなことできるの?」


 私が睨みつけると、お姉ちゃんは視線を外した。そのまま悲しそうな顔でつげる。


「あんたこそ、本当は怖いんじゃないの? こんなことされて。実の姉に、こんなことされる関係で。お互いに、憎しみあう関係で……」

「……」

「小学生の頃を思い出してよ。あんたは素直で可愛くて、私の理想の妹だった。なのになんでこんな風になっちゃったの……?」


 お姉ちゃんに犯されるのは怖い。けど、もしもお姉ちゃんが今の私じゃなくて、過去の私だけしか見ていないのなら。……それはもっと怖いことだと思った。


 お姉ちゃんだけはみんなと違って、本当の私を見てくれているものだと思っていた。私に執着して、私に対抗して、私を「天才」なんて言葉で諦めない。そのために、ずっと頑張ってくれてるんだって思ってた。


 でも今、私の上に馬乗りになっているお姉ちゃんは。


 どうみても、過去の私しかみてなかった。


「……私をみて」

「……なに」

「過去の私じゃなくて、今の私を見て! お姉ちゃんを傷付けるのが大好きで、お姉ちゃんを見下すのが大好きで、お姉ちゃんを絶望させるのが大好きな私を!」


 お姉ちゃんは眉をひそめて私を見下ろしている。


「今の私は、過去の私じゃないの! 私だけをみてよ!」

 

 私がそう叫ぶと、お姉ちゃんは私の体をじっとみつめた。


「わけ分からないこと言わないで。ますますあんたのこと、嫌いになるから。あんたのこと、本当に犯したいくらい憎んでしまうから」

「憎んでよ。犯してよ!」

「……あんた、おかしいよ」


 お姉ちゃんの声は震えていた。私はそっと、お姉ちゃんの手を掴んで、私の大切な場所までもっていった。


「私にも目的はあるの。私はお姉ちゃんの大切なものをほとんど奪ってしまった。だからどうやってお姉ちゃんを傷付けるべきか、悩んでる。……お姉ちゃんは優しいでしょ。きっと私を犯したら、罪悪感をこらえきれなくなるはず。私の望みはね、お姉ちゃんが私に執着することなんだよ。私から離れられなくすることなんだよ」

「……意味が分からない」


 お姉ちゃんは私の大切な場所から、手をどけた。私はその手をまた掴んで、無理やりショーツ越しに触らせる。するとお姉ちゃんはか細い声でつげた。


「……やめて」

「憎しみでいい。好意なんて求めてない! お姉ちゃんは思うままに私を憎めばいいんだよ。それが私たちの普通なんだよ!」


 私はお姉ちゃんの手を無理やり、ショーツ越しに動かした。


「……んっ」


 私の艶っぽい声を聞いたお姉ちゃんは、本気で憎らし気な表情に変わった。


「あんたは、おかしいよ。こんないびつな関係を肯定する、あんたのことなんて大嫌い!」

「私もお姉ちゃんのこと、大嫌いだよ。だから私を憎んで。好きなだけ憎んで」


 私が笑うと、お姉ちゃんは涙を流しながら私にキスを落とした。


「うるさい!」


 そのまま乱暴に私の下着を脱がせた。

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