第5話
俺はかつてイブリースに聞いたことがあった。
「
────と。
よくウチのバカ悪魔共が、塔の中でファイトしているため、塔の壁や床は壊れる、壊れる。
一応この塔は、最強の魔法使い大賢者によって建てられた物だ。
なんでもこの
普通はできないことを平気でやってのける。
それが理不尽の権化とも言われる大賢者だ。
まぁ、そんな大賢者………親父が作った建物の材料が普通な筈がないと思い、イブリースに来たのだが、案の定普通ではなかった。
「この塔の材料ですか? そうですね……坊ちゃんに質問ですが、この世界で最も堅い物質はなんですか?」
「
「ちゃんと勉強していますね。坊ちゃんに見せた教科書では確かに
「なに?」
「実際は
「親父はなんちゅうもんを作ってんだよ」
「全くです。
「でもウチの悪魔共はよく壊しているよな」
「…………そうですね」
どうやら、この事実はイブリースからしても、かなりおかしな事態らしい。
「前に、魔王様がお亡くなりになり、我々生き残った悪魔達は大賢者に引き取られたとおっしゃいましたよね?」
「あぁ、言っていたな」
「引き取られた、その後に色々ありましてね。大賢者が人体実験…………コホン、まぁ、なんやかんやありましてね…そのせいで我々悪魔共の能力は昔に比べて、かなり底上げしたんです」
おい、今なんか不味いことが聞こえたぞ。
まさかの、親父が悪魔に人体実験をしていた件について。
まじで親父、頭がおかしかったんだな。
「気がつけば、かつての魔王様が雑魚に思えてしまうほど、強くなってしまいましてね」
「流石に嘘だろ?」
「…………」
イブリースはなにも言わずに、遠い目をしていた。
いつも俺に嘘をついて楽しんでいる様子ではない、そんなイブリースの表情に俺も察してしまう。
「う…嘘なんだよな?」
「嘘じゃありませんよ」
間髪入れずに返答するイブリースの顔は、どこか達観してような、あるいは諦めたかのような感情が見える。
やばい、これはマジだ!!
………親父、なにやらかしてんだ。
人類を救おうとした親父が、敵である悪魔を超強化してどうすんだよ!
これじゃあ、俺の知らないところでまたやらかしてそうだ。
そして俺はあることに気づく。
「魔王より強くなったんだったら、お前が魔王やればいいじゃん」
「確かに魔王様より強くなったとはいえ、坊ちゃんは魔王様の血筋というだけでなく、我々魔王様より強くなった悪魔より強力な存在です。そんな坊ちゃんを差し置いて、魔王を名乗るなど烏滸がましいですよ」
……などと抜かすイブリースはマジで腹が立つ。
俺は別に魔王になどなりたくない。
平和主義の俺を魔王などに担ぎ上げないでいただきたいものだ。
───なんてイブリースと話していると、地軸もろとも引き裂くような爆発音が
鼓膜を突き破るような強音に、床や壁、天井が揺れる。
まるで地震である。
だが、この原因は考えなくても分かる。
「……グヒンのバカがまたやらかしたな」
「最近は悪魔としての能力ではなく、人間共が作った魔道具で争う戦争ごっこにハマっていましたから」
「マジで塔の外でやってほしい。今の時間帯はブランのお昼寝の時間なのに」
よく悪魔達は人間の街に侵入しては色んなものを盗んでいるらしい。親父に強化された能力をフルに使って。
だが、盗みなんて可愛いもんだと、今では思う。
今の悪魔達だったら国一つ滅ぼすなんて容易いことなんだから。
……もちろん、盗難はいけないことだが。
「ヒャッハーーーーー!!!」
グヒンのどこぞの世紀末かみたくの雄叫びの声が聞こえる。
「マジでなんであんなにバカなんだろうな、グヒン」
「坊ちゃんの元の世界の言葉を借りるとしたら、世界七不思議の一つですね。長い付き合いがありますが、あのバカさ加減は大賢者の次ぐらいですよ」
長年の付き合いがあるイブリースがそう言うのだ。
もうアイツの頭の改善はできやしないのだろう。
───さて、グヒンの遊んでいる場所に着いたわけなのだが、それはもう死屍累々とした様子が広がっていた。
建物内なのに、天井には空があり、灰色の雲の向こうから、うっすらと太陽の光が覗いてる。
……建物の中なのにだ。
まぁ、別にここは親父が作った塔。
迷宮化もしていることからなんら不思議ではない。
いちいち、理不尽の存在がやらかしたことに理論や理屈などと、くだらないことを当てはめようとするのが間違いなのだ。
まぁ、そんなグヒンの遊び場所なんだが、そこら中に瓦礫の山が散乱し、いかにも戦場といった感じの場所だ。
戦車らしき物が100台以上が隊列しており、そこら辺の周りには軍服を着たゴブリンが横たわっている。
どのゴブリンも地球でいう銃らしきものを持ち、中にはロケランらしき物も持っている奴もいる。
もちろん、これら全ては悪魔達が人間の国から盗んできた物。
だからと言って、どうこうしようとも思わない。
まず、こいつらを管理するなど出来やしないのだから。
ゴブリン達は床に倒れ、口や頭から血を流している。中には腕がもぎ取れていたり、足が切れていたりと、ピクリとも動かないで、死んでいると思わしきゴブリンもいる。
「将軍、どうなさいますか?」
「衛生兵! 衛生兵はいないかーーー!?」
「お注射しますから、動かないでくださいね。あ、死んでいましたね」
ここにいるゴブリンは俺達と同じように喋ることができる。
普通のゴブリンは人語などを話す知能などないが、
普通な訳がない。こいつらも親父に改造された口なのだろう。
しかし、カオスだ。
死んだと思わしきゴブリンに別のゴブリンが謎注射をするとあら不思議───
「蘇ったぞーーー!」
「あれ? 三途の川を渡っていたはずなのに、なんで生き返ったんだ?」
───変なことを言いながら、蘇るゴブリン達。
あの謎注射だが、死んでも一定時間内なら蘇生することができるという、とんでもない効果がある。
もっともエリクサーや、蘇生効果のある世界樹の雫とは全く違う材料で作られており、打たれたらハッピーな気分になり、幻覚が見えるという───────
……俺は金輪際、あんなやばい薬を打つことも、打たれることもしたくないな。
程なくして、死んでいたと思わしきゴブリン全てが蘇った。
その蘇った総勢は千は超えてるだろう。
まず俺は、このカオスな状況を収めるしかあるまい。
「全員、お座り!!!」
俺はここにいる全ての存在に怒鳴る。
「えぇーーっ、つまんないよーーー」
数ある内の戦車の一つのハッチが開いて、グヒンが姿を現した。
見かけないと思ったら、あんなところにいたのか。
「す・わ・れ」
好き勝手させるわけにはいかない俺は【
まだ本格的に魔法を習っていないが、この程度だったらできる。
魔法ランクが低位クラス程度だったら簡単だからな。
もちろん、その効力は低位にはとどまらずに、高位クラスに匹敵する効力になるが。
「グ……ッ」
「うべっ…」
「ガババババ」
俺はこの部屋全体に魔法を変えているため、ゴブリンが圧力に耐えれずに口から白い泡を出しているが、お仕置きなので手加減などしない。
「お前ら、塔の中で戦争ごっこするなとあれほど言っただろ。音が反響してうるさいし、やるなら人のいないところでやれ!」
俺たちにとって戦争ごっこなど、ちょっと過激なサバゲーって感じだ。
俺も昔にリアルなFPSゲーム感覚で、銃を持って遊んでいたことがある。
もっとも俺の場合、音速で飛ぶ銃弾なんて目で見ながら避けれるし、全方位から撃たれても全弾回避なんで朝飯前だ。
それに運悪くあたっても、ちっとも痛くない。
溢れ出る魔力が無意識下に【
俺ほどじゃないが、他の悪魔達やブランもそんな感じなのだ。
しかしそのせいで、チートを使っている気分になり、やめてしまった。
そのため、身体能力の関係ない戦車などに乗って遊ぶぐらいしかないのだ。
グヒンが戦車に乗っていた理由が、これだったりする。
俺もかつてやっていた遊びなので、やるなとは言わない。
ただ塔の中でやるな、外でやれということを注意しておいた。
「外だったらいいの?…だったら人間の街の近くで………」
「人のいないところでと言ったはずだろう?」
「チェ…ッ」
こいつ舌打ちしやがった。
まじで街の近くでやったら、本当の戦争が始まるだろうが。
そんなことが起きたら、俺の胃がもたないだろ。
「あと、瓦礫とかちゃんと片付けろよ。今回は罰だからゴーレムも魔法も禁止だ」
「えぇーーーーーー」
「魔法も禁止されたかーー。魔法で吹き飛ばしてやろうと思ったのにーー」
案の定、グヒンはくだらないことを考えていた。
それと泡吹いて気絶しているゴブリンも同罪だからな。
意識を取り戻したら、こいつらも掃除の罰だ。
全く塔の中で物騒な遊びなんてすんなよ。
ブランに悪影響があったらどうするつもりなんだ。
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