第6話


 転生して15年目。

 時間が経つのは早いものだ。

 この世界では15歳から成人だから、俺も、もう大人である。 

 当然、双子のブランも同い年なのだから、ブランも大人である。

 

 いずれブランが男を連れてくるなんてこともあるのかなぁ、と悲しみにしたる。

 まぁ、連れてきたとしても、俺に勝たなければブランはあげないつもりだがな。



 あ、そうそう。

 親父とお袋のお墓参りに行った。

 そこで俺はいっぱい愚痴を言ってやった。


 例えば、大賢者バベルの塔の主人である親父が死んでから、自動的にその主人は俺へと移行されてある。 

 知識面はまだまだらしいが、魔力量だけなら大賢者を名乗れるとはイブリースから言われた。

 要は二代目大賢者となった俺は、この塔の管理をしなくてはならないということだ。

 ………めんどくさい。



「めんどくさいなら二代目大賢者と名乗らず、魔王を名乗られても────」

「嫌だ」



 いつものようにイブリースが何か余計なことを言っているが、めんどくさくても魔王などを名乗るつもりなどない。

 俺は平和主義者なんだ。




 


***






 この15年間、思い返してみれば色んなことがあった。

 

 俺がグヒンに命じた、戦争ごっこは外でやれと言った件は、大賢者バベルの塔の西に広がる大森林のエルフや獣人から音がうるさいと苦情を受けてしまった。

 

 あれ以降は大賢者バベルの塔の中に新しいフロアを作り、完全防音性、耐熱性、耐震性を兼ね備えた、遊ぶため専用のフロアを作った。


 大賢者バベルの塔は迷宮だからな。

 迷宮核を操れば、新しいフロアを作るなどお茶の子さいさいなのだが、広さの設定をしていなかったせいで、俺の魔力を限界まで吸い取るまで広がり続けたのだ。

 その遊び場所の広さは、地球の表面積より大きい。


 まぁ、そのせいで俺は魔力欠陥症を引き起こし、何日も寝込むことになったのだが、体調が良くなり朝起きてみたら魔力量が増えていたのだ。

 感覚的に2倍は増えた感じだ。

 もはや俺の魔力量は大賢者親父を越したという。

 

 いや、こわ!!

 もうそんな自分が怖くなってきた。

 


 まぁ、そんなことを気にする暇もないほどの悲しいことが起きたんだ。

 それが、ブランが無視しだすようになった。

 俺が話しかけても、見向きもしない。

 

 俺には思いたることがないが、悪いことをしたか聞こうとしても、それでも無視!!

 あぁ、その日から一週間ぐらいは寝込んだものだ。

 それにブランの無視といった反応は俺だけにするのだ。

 イブリースやグヒンには普通に話している。


 その光景を見た時は、本気でイブリースを殺害する計画を脳内で考えたが、イブリースがいないと塔の悪魔の管理ができなくなるのでやめた。



 あ、そうそう。

 悪魔達にはフロアを一つずつあげることにした。そのフロア限定だが、管理者権限も与えた。

 フロアをいじるのはかなり魔力を使うが大賢者に改造された悪魔達であれば問題ないだろう。


 これでちょっとでも悪魔達のストレスが緩和することを祈ろう。

 アイツらに命令し、圧迫させ過ぎてしまうと外に出て、何をやらかすかわからん。

 だからこそ悪魔のストレス解消の一環として、戦争ごっこをやめさせていないのだから。



「坊ちゃん」



 俺が色々と思い出を振り返っていると、イブリースから声をかけられた。

 


「なんだ?」

「今年で坊ちゃんはもう15歳になります。人間基準では成人であり、そろそろかと思いまして…」

「何がだ?」



 俺にはイブリースの言いたいことがわからん。

 だがイブリースはそんな俺にお構いなしにと話を続ける。



「…………坊ちゃんに誕生日プレゼントみたいなものをあげたいと思います」

「お前が?」

「はい」



 俺はイブリースの発言に驚いてしまう。

 最初らへんは何を言っているのか分からなかったが、イブリースが俺のために誕生日プレゼントを用意したと言う。


 

「ついてきてください」



 イブリースの魔法で転移する。

 





 イブリースにより案内されたフロア。

 その場に居並ぶは大賢者バベルの塔に住む悪魔達。


 上はイブリース、グヒンという大賢者バベルの塔の中での最上位の実力者から、悪魔序列第7位から第2位がいる。

 その中には最近無視してきて悲しいブランまで。

 下の方には戦争ごっこでよく見かけるゴブリン将軍もいる。



 悪魔序列2位以上の存在は高位悪魔とされている。その高位悪魔が50体程度だが、一体一体が万の軍勢を軽く上回る力を持つ。

 そしてゴブリンの数は軽く1万を超える。

 ざっと見ても10万はいるんじゃないだろうか。

 実力では高位悪魔に遥かに及ばないとはいえ、数はそれだけで力となる。

 

 そんな一同が集う中、イブリースが俺の前で跪き、口上を述べる。



「我らが偉大なる大賢者バベルの塔の主人、何卒我らの王として君臨し、永遠なる悪魔族の理想国家を建国いたしましょう」



 イブリースが言い終わった後、全ての存在が俺に跪く。

 俺はそいつらを眺めがら、フロア全体を眺める。



 一言でこのフロアを表すのなら、果ての無い暗闇に支配された空間であった。


 そんな暗闇の中にローマ神殿を彷彿とさせる柱が並び立つ。

 

 ただしその柱の色は黒であり、高さを常識を逸し、その先を見通すことができない。

 おそらくフロア設定の高さ上限である400kmまであり、柱が黒いのは破壊不能物質イモータル・オブジェクトで作られたからだろう。


 その柱一本一本が最高位魔法を複数回行使する魔力が必要になる。

 そんな柱が、数えるのがバカになる程ある。

 

 床の黒色の大理石も破壊不能物質イモータル・オブジェクトで作られているのだろう。


 そして馬鹿らしいほど並んでいる柱の最奥には数段の階段があり、階上には破壊不能物質イモータル・オブジェクトをメインに、神鋼鉄オリハルコン金鋼鉄アダマンタイト魔法金属ミスリルによって装飾された椅子が置かれていた。

 

 まぁ椅子と言っても、完全に王座だが。

 それも人間の王様が座るようなものではなく、完全に悪の親玉が座るような禍々しい王座だ。


 そして俺はそんな王座の前に転移させられていた。



 何ここ?

 魔王城の王座の間か?

 いや、完全にそうだろ。

  


「坊ちゃん、ためらう必要はありません」



 イブリース1人からはいつものことなのだが、背後には数十万を超える魔物がいる。

 そこから投げられる視線は、後ろを向かずとも感じることができた。

 

 助けを呼ぼうとも、ブランからはいつも通り無視される。

 ………辛い。


 グヒンは論外。

 今もバカみたいな表情をして佇んでいる。


 俺はしばらくの間、その場でじっとしていた。


 とはいえ、何かが起きるなどなく、いつまでもこうしてはいられないため、俺は王座へと向かう。



「おお! ついに、ついに……我らの主人が…」

「我らは永遠不滅の王国となるだろう」

「新たなる魔王様に万歳!」



 俺の背後にいる存在達が騒ぐ。



 正直言って、大勢からの視線の圧力に呼吸困難になりそうだ。

 だが────



 「こんなのには座らない!!!!」



 無意識化にかかっていた身体強化の魔法を意識的に発動させる。

 俺はそのまま王座を蹴り付けて、王座を吹っ飛ばす。


 破壊不能物質イモータル・オブジェクトでできているなんて関係なく、王座は壊れながら転がっていく。

 王座が転がっていく音が部屋全体に響き、それとは反対に悪魔共は沈黙する。



「…………坊ちゃん、いえ…主様、我らの忠誠は貴方様のもの。どうか我らの忠義にお応えてくださらないでしょうか」

「何度も言わせるな、イブリース」



 イブリースがいつものように笑っておらず、真顔で俺を睨みつける。

 そして俺もイブリースに睨む。

 イブリースに宿る魔力が、このフロア全体に届きわたる。

 

 イブリースだけじゃない。

 その他の高位悪魔の全てが、その身に宿す莫大な魔力を迸らせ、フロア全体の空気が高位悪魔の魔力によって瘴気と化す。

 並の人間では死を逃れられない、毒の大気へと変化していく。


 無論、こんなところに人間などいないが。

 

 

 「ぐっ…」



 とはいえ、この魔力の圧に、毒の大気に耐えきれなくなったゴブリンやブランはきつそうだ。


 

「ブラン、怪我したくなければ大賢者バベルの塔からできるだけ離れていろ」

「…………」



 ブランはどこか悔しそうな表情をしながらも頷き、転移で離れる。

 

 久しぶりの妹からの反応に嬉しくなってしまったのはしょうがないことであろう。


 俺は魔力を迸らせている高位悪魔達を見ながら思う。


 こいつらは忠誠などと言っているが、結局のところ自分たちの願いが聞き入れないとなれば、次に取るのは実力行使。

 それがたとえ相手が魔王であったとしても。


 何がなんでもこいつらは俺を魔王にしたいのだろう。

 この場にいる誰よりも強い存在が俺なのだから。


 しかし、配下に強制されてなる魔王などに、果たしてこいつらは満足することができるのか。



 ……非常に面倒だ。

 こういう時こそ、クールで華麗に解決したいが、悪魔達にその気などない。


 完全にやる気満々だ。

 …………仕方がない。

 悪魔の流儀に則るとしよう。



「いいだろう。俺に魔王になって欲しくば、俺に勝ってみせよ!」



 どこか矛盾した発言。

 最強と認められた存在が魔王になるのに、俺を負かして最強の魔王になってやると言ってるのだから。

 

 

 俺は普段抑えている魔力を解放する。

 普段は魔力を抑えていて、側から見れば人間程度の魔力しか持っていない風に見えるだろう。

 だが、魔力を解放すれば、俺の普段抑えている実力に歯止めがきかなくなる。

 


 俺が今やっていることは大したことではない。

 普段抑えている魔力を、外に放出しただけ。 


 ただそれでも、俺の魔力は普通ではない。

 俺が魔力を解放した瞬間に、大気が音を立てて地面を陥没させる。


 空気が鉛のように重くなる。

 これは比喩などではなく、本当に物理的な意味で。

 俺の魔力に触れた空気の質量が増したのだ。


 その圧力に耐えきれなくなった低位悪魔もといゴブリン達の大半が死んでいるだろう。

 まぁ、すぐにあの謎注射で復活するさ。


 中位悪魔達は気絶こそしていないが、動けない状態に。

 まともに動けるのは、俺含めた高位悪魔達しかいない。



「【麻痺パラライズ】」


 

 高位悪魔達は俺の放つ魔力に一瞬気を取られたのか、初動が遅れてしまう。

 俺は遠慮するつもりなどないので、悪魔達に麻痺の効果をもたらす魔法を撃つ。

 

 俺が魔法を発動すると、この王座の間の部屋全体に稲妻が駆け巡り、フロア全体が雷が迸る危険な空間と化した。

 このフロアにいた者に雷が次々と襲いかかり、なんとか生き延びていた中位悪魔たちも意識を………といか死へと誘う。

 


 中位悪魔には、あの謎注射が効かないが、世界樹の雫があるからなんとかなるだろう。

 本来は世界樹の雫など手に入れるのが超難しいらしいのだが、最近は俺の胃薬になっていて、そこまで貴重品という感覚がないのだ。

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