第3話


 俺はグヒンによる魔法の授業を受けた翌日、親父について気になったので、イブリースに親父の話を聞いた。

 親父について聞いていると、俺の生い立ちのことも話もしてくれた。



 その中でわかったことは、イブリースはマジで勇者と戦った悪魔の1人であったのだということ。

 

 もっともイブリースからすれば、「異世界からの勇者? そんな者もいたような気がしますね」らしい。

 親父が圧倒的すぎて勇者など眼中にもなかったのだとか。



 それにしても親父ヤバすぎだろ。

 魔王をフルボッコとか、化け物である。

 ………その魔王も俺の祖父にあたるんだけど。



「だったら俺も悪魔みたいに姿が変わるのか?」



 祖父と母親が悪魔ということで心配になってくるのは見た目だ。

 悪魔の中にはゲテモノみたいなキモい見た目をした悪魔もいる。そいつら普段は人に化けているが、本当の姿は気持ち悪いのである。


 将来俺も、あんな感じの見た目になるのは嫌すぎる。

 せっかく異世界転生したのに、見た目がキモいとか最悪すぎるだろ。



「あ、なりますよ。そりゃぁ、坊ちゃんは将来の魔王様になれる方なのですから」

「終わった」



 最悪だ、誰が好き好んであのキモい見た目になりたいと思うんだ。

 そして俺はあることにハッと気づく。



「ブランもか!?」



 もし妹も見た目が変わるのだとしたら最悪どころではない。

 あの超絶美少女のブランがゲテモノに変わるなどと想像はしたくない…………………まぁ、それでも俺は妹を愛せる自信があるがな!!



「いえ、ブラン御嬢様はなりませんよ」

「本当か!? それはよかった………ふぅ…てことは俺だけか」

「いえ、坊ちゃんもなりませんよ」

「………は?」



 俺はイブリースの言ったことが意味わからなかった。



「は? 俺ならないの?」

「えぇ」

「え?……嘘ついたのか!?」

「えぇ」

「…………」



 この、クソ悪魔!!



「この、クソ悪魔!!」

「心の声が漏れてますよ」



 おっと、いけない。



「坊ちゃん…全部が全部、嘘というわけではありませんよ」

「……なに?」

「例えばブラン御嬢様ですが………」  



 ここでブランの名前が出る。



「………ブラン御嬢様は赤い瞳がありますね」

「あぁ、あの美しい瞳だな」



 この発言をした瞬間、イブリースから残念な子を見るような目で見られたが、気にしない。



「…あの赤い瞳は魔王様の妻であった吸血鬼の名残です。ですが変化と言ってもこの程度で、坊ちゃんが想像しているようにツノが生えたり、珍生物になるなんてことはないですよ。特に坊ちゃんは悪魔の血よりも、大賢者の血の方が濃いようですからね」

「そうなのか、安心した」



 急にブランの名前を出されたので緊張したが、ホッと息がこぼれた。



「本当に残念でありません。どうして坊ちゃんは魔王様のように逞しい姿で生まれなかったのか」



 安堵する俺とは反対に、イブリースは残念そうに口を尖らせた。


 だが、これでいい。

 イブリースが嫌がることは、俺にとっていいことになるからな。

 いつも意地悪されている意趣返しだ。



 さて、イブリースの話を聞く限り、俺含めてブランも人間として暮らすこともできそうだ。

 別に俺はイブリースが言うように、魔王になどになるつもりはないからな。



「坊ちゃん、お客さんが来たよーー」


 

 俺とイブリースとの話がしていると、グヒンが扉を開けて言った。



「………グヒン、扉を開けるならノックはしてください。執事として当然のことでしょう?」

「ごめーん、忘れてた。だから、そう怒らないでよ…イブリース」



 なにやらイブリースとグヒンが口喧嘩しているが、俺はそんなことより早く本題について話してほかしかった。



「そろそろ喧嘩をやめろ……それより客は?」

「なんかデッカいトカゲが来たよーー」



 グヒンの言う、デッカいトカゲに嫌な予感がする。

 そして案の定、俺の嫌な予想は当たる。



「グオオォォォォ!!!! いつまで待たせるつもりだ!!!!!」



 頭の中に怒鳴り声が響く。



「うるさいトカゲが喚き散らしていますね……事前のアポもなしに、こちらに来たのはあちら側だと言うのに」



 イブリースがなんか言っているが、これ以上待たせるのはまずい気がするので、イブリースに転移を頼む。



「イブリース」

「承知しました──【転移テレポート】」 



 イブリースに転移されて辿り着いたのは、大賢者バベルの塔の入り口だった。

 そして入り口で待っていたのは、ファンタジー生物といったらという代表的な生物───



「──ドラゴンか」

「えぇ……飛べるだけのトカゲですが、無駄にプライドが高いんですよ。それに見た感じですが、まだ若いドラゴンですね」



 イブリースの説明を聞きながら、ドラゴンを見る。

 爬虫類特有の縦に割れた瞳孔が俺を貫いている。そこには生態系の頂点としての貫禄を感じさせ、普通は畏怖を抱くのだろうが…………




 ………別に今の俺からすれば、そこまで脅威ではないと本能で感じる。

 俺は日に日に、人間から離れていっている気がする。

 ちゃんと半分は人間の血が流れているはずなんだがな……もちろんその人間の血は化け物といわれる大賢者の血なんだけど。



「お前だな、ウチの山を燃やした奴らは!」



 俺はドラゴンの発言に、昨日の魔法授業を思い出す。

 

 昨日の魔法の授業でやった【火球ファイヤー・ボール】の後始末として山にぶつけたよな。

 まさか、あそこにドラゴンが住み着いていたんて夢にも思わなかったな。



「お前らのせいで食料も、住処も焼き払われてしまった!」

「その件についてはすみませんでした」



 俺は素直に謝る。

 この件に関しては俺も関与しているし、予め生物が住んでいないかなど、ちゃんと確認していなかったのはこちらの落ち度だ。



「謝ってすむ問題じゃねぇーだんよ。これからは生贄をよこせ。それで許してやる」

「………」



 俺にはなにも言えない。

 助けを求めようともイブリースはなにも言わずに笑顔…………いや、あれは静かに怒りをためているな。

 グヒンに関しては能天気なのか、バカなのか、この状況を理解していない様子。

 俺がこの問題について、どうやって解決しようか悩んでいると、遠くから聞き慣れた声が響く。



「お兄さまーーー」



 その声の主は我が家の癒しである妹のブランだった。



「ブランどうしたんだい? 何か俺に用事があったか?」

「お兄様に会おうとして部屋にいなかったから、お外に出てきたの」

「おぉ、そうか」



 俺はブラン抱え上げる。

 そして、その様子を見ていたドラゴンが口を開く。

 


「…なんと莫大な魔力だ。ふん、特別にその娘を差し出せば許してやろう」



 ……………

 …………

 ………

 …

 は? 今なんて言った?






◇◆◇◆






 ドラゴンとは地上の生態系ピラミットにおける頂点に君臨する生物だ。

 故に、そのドラゴンの王──竜王ドラゴン・ロードの息子たるドラゴは、矮小な下等生物など取るに足らない存在だと思っていた。


 

 だからこそ竜王ドラゴン・ロード ───親父が大賢者バベルの塔に手を出すなという忠告が理解できなかったのだ。

 ドラゴンこそが最強の生物であり、もっとも偉大な生物であると信じて疑わなかった。

 今まで挑んできた愚か者共も相手にならなかった。相手の持っていた剣は己の鱗すら傷を付けれず、魔法を打ってきたがまるで痛覚を感じない。



 いずれ親父すら超えて我こそが歴代最強の竜王ドラゴン・ロードになるのだと信じていた。

 こいつに出会う前は────






 ────ドラゴがいつものように暮らしていると、大賢者バベルの塔の方向から突如として火の玉が飛んできた。

 


 舐めらていると思ったドラゴは直接乗り込むことにした。 

 そして出迎えた3人のは大して魔力を持っていなかった。この人間達を見てドラゴは思う。



(親父はなにをビビっていたのだ、この程度の下等生物に)



 ドラゴはそう思ってしまった。

 だからだろうか、ドラゴは強気に出た──生贄をよこせ──と。

 そして目に入ってしまった。

 美しい白髪に、内に秘めるは莫大な魔力。

 


(なんという魔力量! 我を優に超しているぞ!!)



 これほどの魔力量であれば下等生物でも伴侶にしてやってもいいとドラゴは考える。

 だから言ってしまった。



「…なんと莫大な魔力だ。ふん、特別にその娘を差し出せば許してやろう」

 

 

 ドラゴがそう発言した瞬間、目の前に立つ子供から物凄い殺気を感じた。 



(魔力量が急激に増加しているだと!?)



 それはフォルフォートが普段から抑えている魔力をただ解放しただけだった。

 その激しく波打つ魔力はドラゴに猛威を振るう。

 


 突如として上から圧を感じてしまい、ドラゴは地に伏してしまう。

 


「グ……グガ………ッ!!」



 その様子を見ているフォルフォートの瞳はとても冷たく、生かして帰してはくれないと感じる。


 

(なんの魔法だ? 【重力増加グラビティ】か!)



 ドラゴは今起きている状況を【重力増加グラビティ】だと決めつけたが、実際のところは違う。

 フォルフォートが行ったのは、【念動力サイコキネシス】によるものだ。普通の魔法使いであれば、【念動力サイコキネシス】はコップを浮かすことが限界である。

 だがフォルフォートが使うと、その効果はドラゴンすら屈するほどの力となる。



 フォルフォートは次の魔法の準備をする。そこに込められている魔力量はドラゴの全魔力でも足りないほどの総量であるのを感じた。



(このままでは本当に殺されてしまう……! に…逃げなければ!)



 この時のドラゴにはドラゴンとしての誇りなどなく、ただ逃げたいという気持ちで一杯であった。

 だがフォルフォートの魔法により、身動きができない。

 ドラゴとフォルフォートとの実力の間にはとてつもない程の壁があったのだ。

 


(あぁ……今なら分かる。親父がなぜここに手を出してはいけないと口にしたのかを………)



 ドラゴが心の底から後悔をするのをよそに、フォルフォートから放たれた魔法───灼熱の光線が辺り一帯を融解しながら迫り来る。



(あぁ、我は死ぬのか……)



 そう諦めたドラゴの前に何か大きな影が覆い被さる。

 ドラゴはいつまで経ってもやってこない痛みにおかしいと思い、目を開けると、そこには竜王ドラゴン・ロードが立っていた。

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