地獄

青年が目を覚ますと、そこは異様な場所だった。


真っ白な部屋に机が一つ。そこに30過ぎの、紺のスーツを身につけた若い男が一人。


その男は怖いくらい小綺麗で、髪も整い、髭も剃られ、どこか品のある男だった。


その男の前に青年は立っている。


「ここは…。」


青年がふとつぶやく。


「地獄だよ。」


青年のつぶやきに対して、品のある男が言った。


「地獄?」


「ああ、地獄だ。僕はシャルドノワール。大魔王だ、よろしく。」


男は機械のように喋りながら、机の前にいる絶に手を伸ばした。


絶はそれを無視した。


すると男は出していた手をスッと戻すと、机に無造作に積み上げられた大量の紙から一枚を選んで取った。


「神谷絶。17歳。死因、脳死。」


男は手に取った紙を読み上げて言った。


「君は、自分がどのようにして死んだのかわかるかい?」


「さぁ、知らないね…。」


青年は気力のない声で男の質問に答えた。


「君は臓器を全て摘出されて死亡したようだ。」


「ふ~ん…。」


男の言葉に対し、青年は興味なさそうに返事をした。


男はそれを見てどう思うもなく、ただ紙をじっと見つめている。


「どうやら君は生前、数多くの悪事を働いたようだ。だから罰を与えなくちゃならない。」


「罰?」


「罰だ。贖罪の為の。」


男はそう言って机にあった万年筆を掴み、さっきまで見ていた紙に何かを書き始めた。


「君は命をあまりにも粗末にした。故に君には不死という罰を与える。」


「不死?」


「君の肉体と精神は、如何なる事があろうと、絶対に潰える事はなくなる。」


男は喋りながらまだ紙になにかを書いている。


「そしてもう一つの罰。死の力という罰を与える。」


「死の力?」


「死を集めるための力だ。贖罪の為にね。」


男は紙をもう一枚取り出し、そこにも何かを書き始める。


男は機械のような口調で絶に言った。そして万年筆を置き、その横にあった判子を取り、それを持っていた紙に押した。


「君はこれから別の世界で、別の人生を歩んでもらう。」


「別の人生?」


「贖罪の人生。君の新しい人生さ。」


男は最初の紙を取り、それにも判子を押した。


「贖罪って、俺に何をしろってんだ…。」


絶は覇気のない声で男に言った。


「僕の為に働き、そしてワールドゲームの勝者になる事だ。」


「ワールドゲーム?」


「世界をかけたゲームさ。プレイヤーとトランプのカード。君はそのトランプのカードの一枚になってもらう。君には別の世界に行って、そこにいる全員を殺してもらう。」


「それがあんたの言う贖罪ってやつか?」


「そうだ。贖罪が終われば君は解放される。」


「フッ…、俺があんたの言われた通りにすると思うか?」


「するさ。君はね…。」


男はそう言って、机の前に立つ青年に紙を渡した。


青年が紙を見ると、そこには何も書いていなかった。


もう一度顔を上げると、そこは見知らぬ森の中だった。

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