…………

 彼がいなくなった病室は、無機質な音や薬品の匂い、冷たい温度だけがしんと沈んでいる。

 小さく声を出してみる。その声はどこにも反響せず、布やコンクリの壁に吸い込まれて帰ってこない。世界に私独りだけになったみたいだ。

 そっと、彼が突然握ってきた右手を見る。

 ………………あの時、凄く驚いたな。彼に_____……のかと思った。きっと無意識なのだろうけど、それでも……とても暖かくて安心した。

 彼といれば、きっと大丈夫。

「私は……大丈夫、大丈夫……大丈夫だよ____……ね?」

 微かに震える肩を抱き、小さく呟いたその声さえ、どこからも帰ってはこなかった。

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