復帰
<王都のギブソン侯爵家本邸>
「再婚なんだからこんなに豪華にする必要ないだろう」
「何を仰いますか。旦那様は再婚かもしれませんが、マリー殿は最初で最後の花嫁姿なのですぞ」
夜会の日にプロポーズしてからというもの、トントン拍子で結婚の準備が整ってゆくのだが、ロシターだけでなく、使用人誰もが最高の結婚式にしましょうと鼻息が荒い。
「息子の結婚式より豪華にしてどうする。義娘に申し訳が立たんではないか」
「若奥様からも派手にやれと厳命されてます」
おのれ……義娘まで
「それに、陛下もご参列なされるのです。陳腐な式を行っては、侯爵家の沽券に関わります」
そうなんだよ、ブライアンが来るとか言ってるんだよ。身内だけで祝うから絶対来んな、呼ばないからなと言ったんだが、アイツめ、マリー経由で招待状を手に入れおった。何が友人代表です! だよ。いつの間にか仰々しい式が組まれているし、絶対恥ずかしい話を披露する気満々ではないか。
「旦那様、奥様のドレスの試作が届きました。今から試着されるそうで、旦那様のご意見も伺いたいと」
「おおそうか。分かった、すぐに参る」
式の内容にはゴチャゴチャ注文を付けたが、ドレスだけは別。マリーの気の済むまで納得行くデザインをと、金に糸目はつけないよう申し付けてある。
「エド様!」
「……」
「エド様?」
「…………可愛い」
私の目の前には天使がおわします。
純白のドレスに身を包んだ、その名はマリー。
「エド様、そんな……年甲斐もなく恥ずかしくなるではありませんか」
うん、そうだな。恥ずかしいな。ならば結婚式は止めよう。
「旦那様、何を仰いますか!」
「ダメだロシター。こんな可愛いマリーは私以外に見ることは許されん」
「逆ですよ。皆様に奥様の美しい姿と、お二人の幸せな姿を見せないといけないんですよ」
えー、ヤダ。
「旦那様って意外と純情なのね」
「こんなに愛されてるなんて、幸せですわね」
そうだろう侍女達よ。もっと褒めろ。
「いや旦那様、褒めてませんからね。とにかく! 結婚式は予定通り挙行します。お前たちも妙なところで感心してないで、奥様の着替えを手伝わんか」
とまあ、こんな感じで粛々と準備は整えられ、晴れて結婚式を経て、正式に夫婦となった。
◆
「……以上が概要なのですが、ご意見をお聞かせ願えませんか」
おかしい……こんなことは許されない。
結婚式は参加者の都合もあって、都で盛大に開いてもらった。というわけで、さっさと領地に戻ってマリーと毎日のんびり暮らすはずだったのに……
「エドワード様?」
「うむ。隠居の身ゆえ、あまり期待されても困るのだがな」
「少しご意見を頂戴する程度で構いませんので……」
「仕方ないのう。ちょっとだけだぞ」
アイツらめ、ホクホク顔で帰っていきおった。私が手を貸した分、アイツらの評価は少し割り引くよう人事担当に言っておかないとな……
私は今、王宮で若手官僚の相談役のようなことをさせられている。何故かと言うと、ブライアンが領地に帰してくれないのだ。
ようやく隠居生活にも慣れ、のんびりスローライフというのを満喫し始めたばかりであったが、結婚したことで社交界からお呼びがかかるようになった。
私ではなく、マリーが。
隠居の後妻ではあるが、仮にも侯爵家である。それに彼女自身が国王陛下の覚えめでたいという話が、あの夜会の一件で広く知られ、交友を持たんと願うご婦人方から、お茶会の誘いが数え切れぬほどやってきたので、このまま彼女を交友関係ゼロで領地に閉じ込めるのも忍びないと、適度な範囲で参加して交友を深めるべきだという息子の進言もあり、未だに都に留まっているのだ。
既に邸は息子の代なので別邸で暮らしているが、マリーは息子の嫁とも馬が合うようで、頻繁に本邸にも行っている。こうなると私一人がヒマになり、仕方ないので国王の招きで王宮に行き、彼の話し相手になっている。もっとも、結婚してからの方が夫婦の時間が取れないとは本末転倒ではないか。などと愚痴を吐くのがメインではある。
「先輩、だったら空き時間だけでいいので、後進の指導をしてくれませんか」
見かねた陛下が、若手官僚の知恵袋兼ご意見番という仕事を勧めてくる。
「私、隠居ですよ」
「いいじゃないですか。どうせヒマなんでしょ」
言い方に悪意しかない。上手いこと言って、良いように使おうとしてるだけじゃん。
「マリーはちゃんと侯爵家のために社交に精を出してるんだから、主人がダラダラしていては……ね」
「言い方は好かんが、そう言われては断れませんな」
そしてあれよあれよと再びの都暮らしは2年の歳月が流れた……
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