おわりに

 その後信一郎と孝弘が担当している記事が載った週刊誌が発売される。

歴史と今の部分には第一次世界戦争の時に三島海岸を守り散っていった兵士達の写真が海猫亭より発見されたと書かれていて、春香の家にあった写真と同じ写真が記事に載っていた。その他にも当時の貴重な資料が残っていて歴史の渦に埋もれていた真実を知ることができたと記載されていた。


そしてなんと偶然なのかそれとも志郎達が計ってやったことなのか、春香が借りていた部屋はお世話係の小雪が使っていた部屋だったらしいことが屋敷から出てきた写真とかつての記録により知ることとなる。


それを知った春香は驚きと志郎達に対する想いに胸が温かくなるのと共に嬉しいはずなのに悲しみも溢れ出て涙を流した。


今もこの海猫亭の敷地のどこかに彼等の死体が埋葬されているのだろうと締めくくられていてそれを読んだ春香は涙する。


春香達のレポートも完成しそれが学校で発表されると賞を受賞した。彼女達なりに調べあげた海猫亭の歴史がつらつらと書かれ、最後に第一次世界戦争の時にそこにいた第十三番隊の人達の無念な思いを四人がそれぞれ思い思いに語り合った内容を書き足したのだが、その文章が評価されたらしい。


特に春香は彼等と過ごした海猫亭での日々の事もあり彼等の人柄や志郎から聞かされた話しを基に第一次世界戦争の事についての春香が感じたことを書いた。その文章が一番評価が良かったそうである。その事でまたクラスメイト達からいじめられるのではないかと思っていたが洋子達が「私達皆で話し合って書いた文章なんだから文句あるんなら私達にも言えばいいわ」と言ってくれたおかげでクラスメイト達から何か言われることはなかった。


さらにあれから仲良くなった真一達から連絡があり、自分達も第一次世界戦争の時の海猫亭でのことを作文で書いたのだが、それが学生賞を取ったので見に来て欲しいと言われる。


展覧会会場には小学校から高校までの生徒達が書いた作品が飾ってあって、そこに真一達が書いた「海猫亭で散った十人の尊い命」というタイトルの作文が飾られていた。


彼等なりに資料館や地域の人達から話を聞いたり、戦争を体験した人達の自宅を訪れたりとして調べ上げた第十三番隊の人達が戦った三島海岸の戦いの内容が書かれていて、最後に「僕達が生まれた時はすでに平和の世の中で戦争など知らずに産まれてきた。だから戦争がどういうものなのか全く持って想像もつかないけれど、だけど話を聞いて思うことは二度と戦争を起こしてはならないということ。そして世界から戦争をなくすことが未来を生きる僕達に託された使命なのではないのかと思う」という言葉で締めくくられていた。


あの場所で起こった怪事件の記憶はなくなっていたが、たまたまあの場所で居合わせた八人の人々の心にはしっかりと志郎達の無念さ、願いや祈りが刻まれていて、その思いをしっかりと人々に知らしめることには成功したようである。


それから志郎達がどうなったのかは春香には分からない。でも今もどこかで見守っているだろうと思い彼女もまた新しい人生を歩み始めた。彼等の願い「幸せになって欲しい」という言葉を胸に響かせながら。彼女はこれからも生き続けていくのであろう。

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海猫亭の怪奇 水竜寺葵 @kuonnkanata

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