第37話 夕暮れの紅に

 夕焼けが燃えていた。


「ぱぱ、だっこして」


 いつのまにかはっきりと話せるようになった妹ちゃん。お姉ちゃんは小学生だ。


「いいよ」


 だっこすると、やわらかくてあたたかい。オムツも外れて、トイレも自分で行けるようになった。もう幼稚園生である。


「大きくなったの。まだまだこれからじゃが」


 ひかるが目を細めている。ひかるが来て2年が経っていた。各地を回る彼女に、予定が合えば一緒に出かけた。この世界は美しくて新しいことにあふれていると体験できた。


「ただいま」


 ままとお姉ちゃんが帰ってきた。仲良く2人で買い物をしてきた。今では、ひかるの旅以外で、光の繭を使った移動はなくなった。


 夕飯を食べたあと、空を見ると満月だった。


「今夜はスーパーブルームーンだそうだ」


「そうじゃったの」


「いくのか」


「もう挨拶もすませたからの」


 彼女は笑って、カバンを掲げた。ままの手作りで、中には子どもたちの手紙と絵が入っている。


「ありがとう」


「そなたも一端の物書きであろう」


 おかげさまでメシが食べられるようになった。


「ありがとう」


「ありがとう」


「それじゃあ、また」


 月の光に包まれるように、ひかるは消えていった。

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いとおかし @hayasi_kouji

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