第16話 けんか

「昨日、送りはしないって言ったよね」


 いつも通りに送りの話をすると、ままがお姉ちゃんに言った。口を挟んだ。


「ゆるゆるしてから降りてきても間に合ってるでしょ?」


「早く降りてきて、どうするか私の前で決めて」


「どうして? 毎日、送り迎えして間に合ってるでしょう」


「送った後に早くしなさいって怒ってるの」


「それは送りがなくても起きてることでしょう。ぎりぎりで間に合うのがお姉ちゃんなんだから」


「お姉ちゃんに話してるの」


「もうやめよう。歩いて電車に乗っていく」


 こんなやり取りがあって、ぼくは久しぶりに電車に乗るべく歩いた。朝夜の楽しい時間が台無しだ。怒んないでねって、お姉ちゃんに言われたし。


 どうして楽しい時間を一方的にしないなんて決めるのだろう? 確かにゆるゆる降りてきているけれど、送る時間の前にご飯を食べ終えてくれる。ご飯が間に合わない時はトイレをすませてくれている。いつもにこにこ送ってくれていて、すごく嬉しかった。


「とまぁ、こんなことがしょっちゅうあってね」


「ままさんは朝、みんなの支度が忙しいからの。しょうがあるまい」


「それはわかるんだけど、みんながにこにこ楽しいのにどうして水をさすんだって思ったんだよね。それからしばらくしてひかるが来てくれて、本当によかったよ」


「そなたら、そのようなケンカばかりしておるのではないか?」


「うん。誰も悪くないやつ」


「そなたもままさんもお姉ちゃんも妹ちゃんも、全員が我慢してはならぬ」


「そうだな」


「きちんと話したかの?」


「言ってないことある」


「時間をつくるんじゃ。そなたらは家族であり、今日も共に暮らしておる」


「うん」


「わらわの昔話じゃ。忘れてくれてかまわない。大好きな兄ぃがいてな。もう会えぬ」


「うん」


「最後にけんかしたまま別れての。わらわの決断じゃから後悔はせぬ。兄ぃも望んでおるまい。それでも笑顔であれたら、と思うのじゃ」


「後悔はせぬ、それでも笑顔であれたら。そうだな」


「まだできるうちにしておくのじゃ」

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