第15話 婚約者

 ぴんぽーん。


「はい」


「初めまして。私、みっく、と申します」


「どのようなご用件でいらしたのですか?」


「こちらにひかるという女性がいらっしゃいませんか?」


「ひかる、さん、ですか。いませんね」


「そんなはずはありません!」


「えっ!? どうされたのですか」


「どうもこうも、あぁ、すいません。取り乱しました。また出直して参ります」


 コーヒーを淹れて、椅子に腰掛けて飲む。読みかけの本を手に取る。


「そなた、なぜ、言わなかった」


「身内をしらねぇやつにバラさねぇよ」


「そのしゃべりかたは似合っておらぬ」


「やっぱり?」


「うむ」


「まぁ、会いたい人だったらひかるがカットインしてくるだろうとも思っていたから」


「なるほどのぅ」


 扇子を口元に当てて思考する姿は浮世離れしている。


「みっく。先ほどの者の名前じゃ」


「どんな関係か聞いても?」


「わらわの許嫁じゃな」


 危うくコーヒーを吹きそうになった。


「会った方が良かったかな?」


「どうかの。おいかけてくるほどじゃから、まぁ、恋慕の感情は抱いておるんじゃろうな」


「あまりいいやつじゃないのかな?」


「思い込みが激しいのよ。わらわが旅に出たくなった理由の一つでもある」


「しかし、特定されるの早いな」


「わらわの魔力は特殊でな。誰でもわかるのよ。隠す方法もあるのじゃが、する予定はない」


「どうとでもできるんだな?」


 ひかるはあでやかに笑った。


「こんにちは」


 突如、背後から聞こえた声に飛び上がる。


「これ、無礼であろう」


「姫様、申し訳ありません」


「すまぬ。優秀ではあるのだが、少々、茶目っ気がおさまらぬでな」


「そ、そうなんだ」


「わたくし、ふっさと申します。以後、よしなに」


「はい」


「わらわのそば付きよ。信はおける。今後、このようなことはさせぬゆえ、この通りじゃ」


 拝まれるが、そこまでではない。不法侵入だとか、そんなのが通じる相手でもなさそうだしな。


「今度は、チャイムを鳴らすように」


「心得ました」


「ふっさは魔法の極地にある。わらわもそれなりにな。ゆえに誰が来ようと安心してほしい」


「原因はひかるだろ?」


「うっ、そうじゃな。いつでも去る心構えはできておる」


「そんなことしたら、ぼくが悪役になるよ」


「すまぬ」


「いいや、ありがとう」


「礼を言うのはわらわじゃろう?」


「ひかるが来てから家が明るいよ。だから、ありがとう」


 ひかるはそっと微笑んだ。

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