第2話 居候

「ただいま」


「お邪魔します」


「えっ? ぱぱ」


「ぱぱ、ぱっぱー」


 がちゃっとリビングのドアを開けると。


「おかえり、ずいぶんと早かったね」


 ままが目を丸くしている。


「ひかるが送ってくれたんだ」


「お初にお目にかかります。ひかると申します、よしなに」


「ひかるん?! 着物、きれい!!」


 お姉ちゃんが飛びついた。


「うむ、自慢の一品じゃからの、これ妹ちゃんや。食べるでないぞ」


 妹ちゃんは興味津々である。


「ダッシュしてたらさ、光の繭に閉じ込められたんさ。そしたらね、ひかるがいて。魔法が使えてさ、時を止めたり移動したりできんの。それで帰ってきたんだよね」


「雅な格好だけど、魔法が使えるなんて。でもこんなに早く帰ってくる方法なんて、ほかにないもんね」


「ままさんや、見せてしんぜよう!」


 お姉ちゃんと妹ちゃんが光の繭に包まれて、ふわふわと浮いている。きゃっきゃっして喜ぶ2人と、冷然と降ろしてと告げる大人2人。


「す、すまぬ。そなたらへの配慮にかけていたの」


 しょんぼりするひかるに、お姉ちゃんと妹ちゃんがよしよしと励ましている。子どもよりの感性を持っているなぁ、ひかるは。


「それでひかるさんはどこに住んでいるの?」


「わらわの住まいか」


「もしかして迷子なんじゃない?」


 目元をふせて言葉を継げないひかるに、ままが言葉を重ねた。


「ご明察。わらわは気づいたら、この世界にいての。途方にくれておったところに、走るそなたがおったのよ」


「それじゃあ、きたばっかじゃん」


 右も左もわからない中、初めましてがぼくだったわけだ。幸運である、との言葉はひかるに向けての暗示でもあったのかもしれない。


「ぱぱ」


「はい」


「たぶん、ひかるさんはいい人な気がするん」


「ぼくもそう思います」


「女の子4人で寝るから、ぱぱは一階で寝てね」


「はい」


 それしかないけど、娘たちと寝れないのはつらいなぁ。


「ぱぱ」


 妹ちゃんがよちよちしてくれた。しかし、お風呂までも女の子4人となり、楽しそうな声を聞きながら、ぼくはご飯を食べた。大好き、ぎゅっぎゅっと抱きしめてから、おやすみなさい。一人で眠るのは、何年ぶりだろう。

 子ども達が眠った後に、ままとひかるが降りてきた。


「今後の話をしましょうか」


「わらわは魔法があるゆえ、どうにかなろう。時々、遊びに来させてもらえたら嬉しいがな」


「女の子一人で放っておけるかよ」


「そうね。何かお手伝いをしてもらいましょうか」


「よいぞ」


「ぱぱの送迎と、私の話し相手になってくれればそれでいいわ」


「話し相手とな」


「えぇ。ぱぱも私も両親が頼れないから、結構、抱え込みがちだったの。ひかるが話し相手になってくれたら嬉しいわ」


「心得た」


「ひかるは、ぱぱ方の親戚ということにしておきましょう。ぱぱは関西出身だから、ここでは都合がいいだろうし」


「わかった」


「それから病気になった時が心配ね」


「わらわは丈夫で元気が取り柄である。病にかかったことなど記憶にないゆえ、安心せよ」


「記憶にない、ねぇ」


「なんじゃ、ままさん」


「なんでもないわよ」


 あれこれ二人で話しているのを見ながら、俺は安堵した。楽しそうだったから。


 俺たち4人家族に、1人居候が加わった。

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