第15話(おまけ) 才ある錬金術師の残念な交渉術

 私は砦の売店兼討伐相談のカウンターのお姉さんと交渉をしている。

 と言うのも、昨日蒼君から先輩方が私が作ったポーションを、

 売店に卸して欲しいとお願いされたと聞いたから。

 お姉さんは、詩織さんという名前で蒼君の先輩と同じ時期にこの世界に来た冒険者だと言っていた。


 今は私のポーションの卸値を決めているのだけど、当初は直ぐに決まると思っていたが、

 最初の中級回復ポーションの値段を決めるのに、どうしても折り合いがつかない。

 私が折れれば良いのだと分かっているけど、私にも私のこだわりがあるのだ。

 この戦い負ける訳にはいかない。


「金貨一枚」

「小金貨三枚」


「金貨一枚」

「小金貨四枚」


「金貨一枚」

「小金貨五枚」


「何でですか詩織さん!

 さっきから全然譲ってくれてないじゃないですか。

 こんな時は、少しずつお互い歩みよるものじゃないんですか?」

「いえ、当初決めた値段を理由もなく変えるなんてありえません」


「なあ蒼」

「何だ竜司」

「俺の気のせいかも知れないけど、高い金で買い取ろうとしているのが売店のお姉さんで、

 出来るだけ安く自分の作ったポーションを買って貰おうとしているのが琴音ちゃんみたいにみえるんだが」

「ああ、それであってるぞ」

「普通逆じゃね?」

「琴音さんらしいと言えば、琴音さんらしいですよね」

 売店のお姉さんと良くわからない値切り合戦をしている琴音をみて、

 パーティメンバーが後ろでささやいている。


「はぁ、分かりました」

「分かって頂けたんですね!」

「目を瞑って下さい」

「はい?」

「良いですか、これから話す私の話を想像して下さいね」

「はぁ」


 それはいつもと同じ一日、特別な事など何も無い一日になるはずだった。

 砦で紹介された討伐場所は、ここ数日の間に毎日通った森林。

 出現するモンスターも、最早おなじみのゴブリン。

 順調に討伐をしていき、持ってきた回復ポーションがそろそろ心許なくなって来たので、

 蒼達は砦に帰還する事にした。


「っ、強いモンスターが近づいて来ます」

 大和が咄嗟に叫び声にも似た声をあげた。

「逃げられない、迎え撃つぞ」

 蒼の声に反応し、パーティメンバーが迎撃の体制をとる。

 草むらから出てきたのは、今まで見た事もない豚の化け物、

 しかも胸当てや大きな剣を持って武装している。

「オーク、しかも亜種のオークソルジャーか......」


 蒼は挑発スキルで、オークソルジャーの注意を引きつける。

 オークソルジャーは、スキルによって怒り、大きな剣を振り下ろす。

 手入れもろくにされていない鈍らの剣だが、

 かなりの重量があり巨体から振り下ろされる一撃に蒼も何とか踏み止まるだけで精一杯だった。


『氷縛』

 呪文を唱え終えた詩が、モンスターを拘束する。

 だがまだレベルの低い詩の魔法では一瞬モンスターを止める事しか出来ない。

 それならと竜司が後ろから斬りつけるが、モンスターの払った手で吹き飛ばされてしまう。

 大和は、オークソルジャーが引き連れてきたゴブリン相手に精一杯だった。

 琴音は吹き飛ばされて怪我をした竜司に駆け寄り回復ポーションを飲ませた。


 戦闘は長く続いた、まるで終わる事が無いように思えるほどに。

 だが少しずつではあるが、オークソルジャーの体力を削り何とか戦闘も終わろうとしていた。


「危ない!!」

 繁みに潜んでいたゴブリンの弓矢が琴音を狙って放たれた。

 蒼はオークソルジャーに背を向けて盾で矢を防いだ。

 無防備な背中、その背中にオークソルジャーの痛烈な一撃が叩き込まれた。

「クソがっ」

 竜司のスキルがオークソルジャーに決まり戦いは終った。


 琴音の目の前で血だらけの蒼が倒れていた。

「蒼君、今助けるから」

 琴音は必死になって回復ポーションを蒼に飲ませる。

 だが余りにも酷い怪我の為に回復ポーションでは、蒼は治らなかった。

「そんな......今助ける、今助けるから」

 琴音は、涙でぐしゃぐしゃになった顔で回復アイテム探した。

 そんな琴音の手を優しく包み込む様に蒼の手が止めた。


 蒼は静かに首を左右に振った。

「もういい、もう良いんだよ琴音さん」

「良くない、全然良くない!!」

「君を守る事が出来て良かった」

「私が私なんかがパーティに入ったから」

「そんな事ない、君がいてくれて幸せだったよ」


「竜司、後は任せる」

「ふざけるな蒼てめぇ、お前以外に誰がリーダー出来るんだよ」

「頼むよ竜司」

「......糞」

「嫌だよ、こんなのやだよ」


「ああ、俺の冒険もここまでか」

 少しずつ死に向かう蒼を囲みパーティの皆は泣きじゃくった。


 討伐に絶対は無い、モンスターも生きているのだ。

 自分より強者から逃げて普段の生息場所ではない所に現れたり、

 逆に獲物を追いかけて来たモンスターに、思いもしない遭遇をしたりする事もある。

 もう蒼はそんなに持たないだろう、砦まで戻っている時間などない。


 そんな時だった、まるで神様の助けの様な声が森林に響いた。


「中級回復ポーション、中級回復ポーション売るよー

 女の子を守ってオークソルジャーの一撃を食らった傷も一瞬で完治するポーションだよー」

「買います!!売って下さい!!」


「ええ~、でもお高いよ?」

「いくらですか、いくらでも払いますから売って下さい」

「金貨一枚」

「買った、安いじゃないですか!!」


「はい、では中級ポーションの買取額は金貨一枚で決まりですね」

 その言葉で目を開けると詩織さんが目の前で中級ポーションの買取額を書面に記載していた。

 その他のアイテムの値段は、当初琴音が売ろうとしていた値段よりかなり高い買取額に決まったが、

 最早琴音は、詩織に逆らう事もなく、スムーズに値段が決まっていった。


 全ての買取契約が済み、グスグスと泣きながら琴音はパーティのメンバーの元に戻ってきた。

「ごめんね蒼くん、これからは中級ポーションいっぱい持ってくね」

「......うん、ありがとう」

 蒼は咎めるように詩織を見たが、当の本人は我関せずとばかりに淡々と仕事を進めていた。


 ある昼下がりの、

 才ある錬金術師の残念な交渉術は終った。


 おまけ話 終わり


 ーーーーー

 楽しくかけた作品でした。

 ご愛読ありがとうございましたm(_ _)m

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