第7話 実技訓練③ 蒼視点

異世界に来てから三日目、昨日の基礎実技訓練を終えて、

今日から職業別訓練に移った。

盾職の基本は味方を守る事、これが中々に難しい。


モンスターの敵意を自分に集める必要があるからだ。

モンスターの敵意を上げる行為としては、

モンスターを攻撃する、味方を回復する。

この行為をした際に、その人物への敵意があがる。

盾職はモンスターの敵意を自分に向けるスキルを大抵持っている。

自分であれば、『挑発』スキルがそれにあたる。

だけど盾職とはいえ不死身ではない。

特にろくな装備も揃っていない今は、戦士とさして頑丈さは変わらない。

モンスターからの攻撃を突っ立って受けるのではなく、

時には攻撃をいなし、かわし、受ける。


今の段階で相手に出来るモンスターの数は限られる。

その為に、釣りという行為も覚える必要がある。

釣りとは複数モンスターの中から少数の敵を誘い出す行為で、

今の自分には該当するスキルが無い為に小石などをぶつけて、

手前にいるモンスターを誘い出すのだが、

これに失敗すると悲惨で複数のモンスターがリンクして一度に襲いかかって来て、

下手をするとパーティが全滅事もある。


それ以外にも味方の技を深く理解して、モンスターの敵意の上がり方をコントロールしたり、

挑発スキルのクールタイム(スキルを使った後に同じスキルが使えるまでの時間)中も、

モンスターの敵意を自分に集める為に攻撃したりと、やらなければいけない事が多すぎるのだ。


盾職の基本戦闘の流れとしては、

①敵の集団から数匹の敵を釣る

②挑発スキルでモンスターの敵意を自分に集める

③挑発スキルから次の挑発スキルまでモンスターの敵意が下がらない様に守りつつ攻撃をしていく。

④味方の攻撃が自分への敵意を超えないように観察してオーバーアタックの場合は注意する


勿論これはあくまでも基本の流れであって、

こちらが気づかない間に敵から不意討ちをされたり、

初手こちらの魔法使いに範囲魔法を撃って貰って、

敵の数を減らすなど臨機応変に対応する必要がある。


盾職の実技訓練はあくまでも人間だが、

先輩は仮想モンスターとなってこれらの行為に指導をしてくれる。

二人の先輩がモンスター役になって、それぞれどの様な攻撃をされたかを宣言する。


先輩二人が立っている、二人の先輩の立っている距離から考えると、

二人はリンクして同時に襲って来るだろう。

先輩二人の周りは誰もいないが念の為に視野が開けた自分の方に釣りをする。


手前の先輩に小石を当てると先輩は、こちらに向かって走って来る。

続いてもう一人の先輩もやや後ろから付いてくる。

先輩の攻撃を盾で受けてもう一人の先輩が近づいたので『挑発』を宣言する。

『ソードスラッシュ』先輩に味方剣士のスキルが向けられた事を宣言された。

先輩はまだ倒れていない。

「敵意自分」と自分にモンスター敵意が剥がれていない事を宣言。


『ファイヤーボール』もう一人の先輩に味方の魔法攻撃が向けられた事を宣言された。

もう一人先輩もまだ倒れていない、「敵意自分」

『ファイヤーランス』もう一人の先輩に続けて魔法攻撃が放たれた事を宣言された。

もう一人の先輩を見ると座り込んだので倒したと判断。

しかし最初の先輩がかなりの速さで自分を抜けていこうとする。

「ちょまっ」

強引に体を割り込んで先輩をおさえる。

「魔法使い下がって、前衛魔法使いフォロー」

俺は味方がいる事を想定して指示出しをする。

「ほらほら、お手てが留守だぞ」

俺はまだ再度挑発が使える時間に達していないので剣で攻撃してモンスターの敵意を高めて行く。

暫らく打ち合った後に先輩が戦闘の終了を告げた。


「ファイヤーボールの直後にファイヤーランスはえぐくないですか?」

「ハハ、たしかにな。

でもいるんだぜ、バ火力にバ回復してくる奴は。

自分だけのパーティなら良いが、波の時みたいに複数パーティで対応する時は混乱するんだ」

「そうですね、他のパーティメンバーのスキルまでは把握できませんからね」

「そうそう、そんでもってそんな奴らに限って、

盾職の攻撃力が低いから自分達が攻撃を抑えないといけないんだって文句を言って来る。

こちとら防具に金つぎ込んでるのに攻撃力までそこまで求めんなっての」

「金かかりそうですね......」

「ああ防具は消耗も激しいからな、後でメンテナンスの仕方教えてやるよ」

「ありがとうございます」

「良いって、お前見込みあるし、俺の助言ちゃんと聞くしな」

先輩の優しさが素直に嬉しかった。


「そう言えばお前のパーティの可愛い子いるじゃん」

「えっと、女の子二人いるんですが」

「座学の方」

「琴音さんですね」

「あれ良い子捕まえたな」

「俺もそう思います、聖女は選ばれたから聖女になれた訳でもなく、

錬金術師は見捨てられたから錬金術師にしかなれなかった訳じゃない」

「やっぱお前センスあるわ、俺ら位の世代になると自ずとわかるんだが、

新人で気付ける奴は少ない。

俺等も下手に波風たてたくないから黙っているが、

今の新人が自分達で気付ける様になるまで守ってやれよ」

「はい、そのつもりです」

「良し、後2セットで午後の実技訓練終了」

「宜しくお願いします」


今で俺が受けた恩は、次の新人が来たら新人に返そう。

蒼は心の中で誓った。

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