第6話 はじめての承認欲求

 三曲目のイメージがわかないまま、時間だけがすぎていく。

 勇利くんがネットに上げてる漫画は何作品か読んだし、感動もしたけど、いまいちインスピレーションは湧かなかった。


「ふぇ、自分が情けない」


 なにかヒントが欲しくて、動画投稿サイトにある過去の曲を聴いてみる。

 ふと、画面をスクロールしてみると、


「な、なにか書いてある!!」


 なんと、なななんと、私の曲にコメントが付いていたのだ!!!!


『クセになってリピートしてます』


 はわ、はわわ〜。


「芽子ちゃーーーーん!!!!」


 自分の部屋を飛び出し、妹の部屋へ!!

 すでに深夜のため、芽子ちゃんはぐっすり眠っていた。


「大変、大変だよ!!」


「んー、うるさいなあ。私はお姉ちゃんと違って学校に行ってるんだから寝かせてよ」


「だ、だけど!!」


「てか、バイトするなりハローワーク行くなりしないの? いつまでニートでいる気?」


「と、とうぶんは働けません。地方の役所仕事で理解したのです。私の繊細な心は労働に耐えきれないって!!」


「繊細なんて綺麗な言葉使わないで。ただのメンタルザコ女でしょ」


「は、はい……。私はただのメンタルザコ女です」


「税金の催促の手紙、また来てたよ。三〇歳のくせに」


「はっ! また延納手続きしないと!! ……って話が逸れてるよ芽子ちゃん!! コメント!! コメントが付いたんだよ!!」


 寝ぼけ眼の芽子ちゃんに例のコメントを読ませる。


「ほ〜、よかったじゃん。しかも肯定的」


「でしょ? 女の子のアニメのアイコンだし、きっと書いてくれたの女の子だよ!! オフパコできるよ!!」


「気が早すぎるでしょ。セックス興味津々中学生かよ。……てか、男でも美少女キャラをアイコンにするから」


「え? そうなの? なんで?」


「男に聞きなよ。ま、でも本当によかったじゃん。この人の期待に応えるためにも、三曲目、早くしないとね」


「う、うん!! がんばる!!」


 自室に戻って、何度も読み返す。

 うひ、うひひひひっ!!

 すんご〜〜く嬉しい!! 血がたぎる!! ニヤニヤが止まらない!!


 あ、そうだ。コメントに返信しないと。

 でもいまは深夜だし、迷惑になるから明日にしよう。


 と、とりあえず、SNSで報告だ。

 トゥイッターを開いてみると、さらに驚くことが発生していた。


 フォローされていたのだ!!

 しかも同じアイコンの人。

 名前は『cocchi』さん。コメントくれた人と同じ名前!!


「コッチさん、でいいのかな?」


 アカウントを覗いてみる。

 どうやらアニメソングとか、ボキャロソングが好きらしい。

 年齢とか性別は、判断できない。


 フォロー返したりお礼を伝えたいけど……深夜だから明日にする。

 どうせ一日中家にいるしね!!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから二日後。


「コメントがない……」


 コメントが来なくなってしまった。

 フォローも増えないし。

 cocchiさん以外私のことを誰も見てくれないの?

 ていうかcocchiさんだって、最初は私の呟きにいいねしてくれたのに、してくれなくなった。


 飽きられちゃったの? 私はもう昔の女なの?


「うぇぇ、寂しいよ。コメント欲しいよ」


 は、はうわっ!? 

 まさかこれが噂の……承認欲求!?


 ついこの間までは知らなかった感情。

 なまじ認められてしまったから、多幸感を刺激されてしまったから、これまで味わったことのないご褒美が忘れられなくなってしまったよ。


 こんなことならネット活動なんて始めなきゃよかった!!


「三曲目はまだできてないし、これじゃあコメントもフォローも増えないよ〜!! どうしたらいいの〜〜!!」


 いいね欲しいフォロー欲しい高評価欲しい。

 いいね欲しいフォロー欲しい高評価欲しい。

 いいね欲しいフォロー欲しい高評価欲しい。

 いいね欲しいフォロー欲しい高評価欲しい。

 いいね欲しいフォロー欲しい高評価欲しい。


 ぬわ〜〜ん!! 誰か私を見て〜〜!!


「そうか!! 別に曲を作らなくても、面白いつぶやきをすればいいんだ!!」


 面白ツイートでバズってる人だっているもんね!!

 よ、よーし。


『コンドルが、めり込んでたww』


 ……………面白すぎる。

 もっと、もっとつぶやこう。


『ヤバい寝過ごした!! うわ氷河期終わってるじゃん!!』


 私、天才か!?


『内臓が、あるぞう!!』


 うおおおおおおおおッッ!!!!

 この調子で面白ツイートしまくってやるぜえええええええっっっっ!!!!




 半日後、計二〇〇を超えるツイートは一切バズることはなかった。

 おまけにネット上での方向性が『激寒親父ギャクキャラ』へとブレてしまったことで芽子ちゃん大激怒。一〇以上歳が下の妹にガチビンタされてしまったのでした。


「だから承認欲求をコントロールしろって言っただろうがよ!!」


「ひぃぃん!! で、でも他人から認められるの気持ちよかったんだもん!! 芽子ちゃんだってきっと虜になっちゃうよ!!」


「私はあんな無様なアピールしなくても周りからチヤホヤされるタイプの人間だから」


「そんなのズルいよ!!」


 cocchiさん、あなたに人生をめちゃくちゃにされて、こんな女になっちゃったよ……。


「ふぇええん、もう承認欲求はコリゴリだよ〜〜!!」

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