第7話 芽子ちゃんの気持ち
緊急事態です。
我が偉大なるプロジェクトのブレーン、芽子ちゃんが風邪をひいてしまいました。
お父さんもお母さんも仕事で家にいないし、ここはいっちょ、無職のお姉ちゃんが面倒見ないと!!
「芽子ちゃん、おかゆ作ったよ」
部屋に入ると、芽子ちゃんはまぶたを薄く開いて私の方を見やった。
「助かる」
「具合はどう? 食べれそう?」
「うん」
声が小さい。いつもならもっとお喋りなのに、一言口にするだけで精一杯って感じ。
そうだよね。風邪ひいているんだもんね。
傍に近寄って、スプーンでおかゆを食べさせてあげる。
一口飲み込むだけでもだいぶ時間が掛かっている。こんな弱った芽子ちゃん、すごく珍しい。最後に風邪をひいたのだって、小学生依頼だから。
「あのさぁ」
「うん!! どうしたの!?」
「なんでピリ辛なの」
「さ、さすがに味が薄いと嫌かなって!!」
「なんでピリ辛なんだよ……」
え、だ、ダメだったかな?
おかゆなんて作ったのはじめてだったから、失敗しちゃったかな?
「ふぇぇ、ごめんね芽子ちゃん」
「水」
「は、はい!! 本当にごめんね、作り直すね」
「いいよ。大丈夫」
うぅ、妹の看病すらできない三〇歳なんて、どんだけ情けないのよ私。
そりゃこの歳まで彼女いないわけだよ。
きっとこの地球で最も価値のない人間なんだ。
『宇宙人が選ぶ!! 地球人サンプルにしたい人間ランキング!!』で最下位なんだろうな。
『ミミズが選ぶ!! こいつ俺ら以下じゃね? と思う人間ランキング!!』なら一位かもしれないけど。
芽子ちゃんはおかゆを完食すると、ふぅと一息ついた。
「ちょっと喉が楽になったかな」
それからぐぐっと体を伸ばして、じーっと私を睨む。
ふぇ、目が怖くて視線を合わせられない。
「お姉ちゃんって、いつも空回りだね」
「いっそ殺して……」
「立派な女になるつって地方に勤めてさ、メンタルボロボロになって帰ってきてさ」
「……はい」
「勝手に出ていって勝手に帰ってきて、私相手にもビクビクするようになって」
勝手にというか、転勤だったんだけどね。
「だ、だって芽子ちゃん、髪染めて不良になってたんだもん!!」
田舎特有の狭いコミュニティのせいで人間不信に陥っていた私には耐えられなかったのだ。
可愛い妹がチャラ女になっていた事実が!!
「久々に話しかけてきたと思ったら、オフパコしたいとか言い出すし」
「面目ない」
「昔はもっと普通に構ってくれたし、遊んでくれたのに」
ひぃん、なんかもう涙が出てきた。
妹を看病するつもりが、逆にイライラさせちゃってる。
お母さんの卵子だったころに戻りたい。
そ、それにしてもこんなにネチネチ言ってくるのも珍しい。普段ならもっと攻撃力の高いワードで瞬殺してくるのに。
風邪のせいかな。
「わ、私自分の部屋にいるね。なにかあったらすぐに言ってね」
背を向けて部屋から出ようとしたとき、
「待って」
芽子ちゃんに呼び止められた。
なんだろうと振り返ってみると、芽子ちゃんはベッドで横になり、掛け布団で顔を隠しながら、
「ありがと」
弱々しい声でつぶやいた。
なんとなく、昔の芽子ちゃんを思い出す。
小さい頃から芽子ちゃんは照れ屋で、本音を口にするときはこうやって顔を隠す癖があった。
芽子ちゃんの言う通り、昔はもっとお姉ちゃん出来ていたのにな。
お料理を教えたり、お外の危ないこととか教えたり、おばけに怯える芽子ちゃんと寝てあげたり。
けど、いまでも芽子ちゃんの事は大好きだ。
怖いけど、頼りになる可愛い妹。
「ありがとうはこっちだよ。いろいろ教えてくれてありがとう、芽子ちゃん。えへへ」
「……お姉ちゃん」
「ん?」
「頑張ってね」
「うん!!」
そうだ。協力してくれている芽子ちゃんのためにも、必ずネットでバズってオフパコしてやる!!
そのときには、芽子ちゃんも胸を張って認めてくれるかな?
私の自慢のお姉ちゃんですって。
いまは引っ張ってもらってばかりだけど、いつか隣に立てるように。
「よーし、頑張るぞー、私!!」
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