第4話 芽子ちゃんのSNS講座!!
「てなわけで、作り直すよ。アカウント」
「はい!!」
あれから二週間、私は二個目の曲を発表した。
最初の曲と同じような、単調で愚痴っぽい歌。
タイトルは『お茶の淹れ方教わってないもん』。
教わってないことで怒られる理不尽さを歌詞にしたのである。
社会人時代の経験が活きたわけだ。怖かったな、あのときのお局様。
それで、あらためて正式にSNSアカウントを作成することになったわけなのです。
今度はハイパースペシャルネット中毒現代っ子の芽子ちゃんのアドバイスに従うので、前回のような失敗は犯さないはず。
ていうかアレなんだね。いまの子供ってみんな暇さえあればすぐネットの海にダイブするんだね。
SNSで繋がったり、動画を視聴したり、買い物したり、検索したり。
スマホは現在人の新たな内臓だって芽子ちゃんも言ってた。
私なんか暇なときはずっと『三億円宝くじが当選したら妄想』してるのにね。
ちなみに、絶対にヘリコプターを買うってのは決めてます。この夜景を君にプレゼントするよ。ってやりたいので。
まあそのプレゼントする相手がいないんですけどね、あはは〜。
「まず覚えることは二つ。承認欲求をコントロールすること。ネット上でのキャラを確率すること」
「承認欲求を……コントロール?」
「原動力にも成り得るけど、ときには身を滅ぼす爆弾にもなる。それが承認欲求。ネットで失敗する人のほとんどが、これに負けちゃうの。……ま、いま言ってもピントこないか」
「うん。で、ネット上でのキャラって?」
芽子ちゃんが懇切丁寧に解説してくれた。
素の自分を出して成功する人は多くはない。ネットの有名人は基本、人から『ウケる』キャラを演じているらしい。
おもしろ発言ばかりする人。専門知識を書き込む人。わざと人を煽って注目されようとする人。えっちな絵や動画を投稿する人。等など。
そのなかでさらに、ポジティブな人、ネガティブな人、流行に敏感ですぐに自分の得意分野に結びつける人。斜に構えた発言をする人。みたいな、細かなタイプに別れていく。
「お姉ちゃんが目指すべきは、少しオシャレな陰キャのボキャロ投稿者」
「陰キャって、根暗な人ってことだっけ?」
「そう。ネットにいる人でね、ボキャロが好きな人は基本的に陰キャなの」
なんかとんでもない差別発言をしている気がする。
「そして陰キャは陰キャが好き。なんでかわかる?」
「同じタイプだから?」
「だいたい正解。正確には、似た匂いをしている変な人が好きなの」
「変な人?」
「おかしなことを言ったり、やったりする人。俗に言う『おもしれー女』ってやつかな。そういう人をアイドルのように崇拝するんだよ。『こいつすげー。でも、こいつ俺と似てるし、気が合いそう。リアルで会ったら絶対恋人になれるわ』って思い込んで」
「俺って……。私がイチャイチャしたいのは女の子だよ!!」
「些細な一人称の差でしょ。気にしないで」
んー、芽子ちゃんの言うことを真に受けるなら、ボキャロ動画を投稿しながら、SNSで面白いことを書き込まなくちゃいけないのかな。
難しそうだな。私の人生、ミミズよりつまらないし。
「手始めに、人付き合いは苦手ですとか、一人の時間が好きです。みたいな感じでいればいいよ」
「それで、陰キャ扱いになるの?」
「そんなもんよ。……でもさ、私思うんだよね。本当に人と関わるのが苦手な人もいるけどさ、だいたいの人間は自己顕示欲っつーもんを持っているんだよ。チヤホヤされたい。輪に入りたい。面白い認定されたい。みたいな。でもそれができないから、『一人が好き』とか言って現実から目を背けて、人と仲良くする努力もせず、自分の精神を守っているんじゃないのかな。本当はただ、人の輪に入れず友達もいないだけなのにね」
「……陰キャさんに恨みでもあるの?」
「あはは」
そんなこんなで、無事アカウントは完成した。
アイコンは動画で使用された芽子ちゃんのイラストの切り抜き。
プロフィールも、ボキャロを投稿していること、新人であること、引きこもりであることを全面に押し出した文章になっている。
あ、ただの引きこもりじゃなくて三〇歳無職恋人なしなのは内緒にしたよ。
明かした方が陰キャっぽい気がするんだけど、後々判明したほうが話題になるらしい。
「さて、ここから本格的に始動していこう」
「はい!!」
「返事だけは立派だね」
「ひぃぃん」
「とりあえず一曲目、二曲目の宣伝をしながら日常ツイート。ちょっとずつフォロワーを増やしていきます」
「なるほど……」
「そのあと、歌詞もメロディもこれまでとはレベルが違うガチな曲を発表します」
「え、そんな簡単に言われても」
すでに自分のなかの全てを出し切っているんですが。
私の人生二曲に収まるレベルなのに、これ以上歌にすることはないよ!!
「そして記念すべき三曲目を投稿したら……」
「と、投稿したら?」
「神絵師にファンアートを描いてもらいます!!」
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