第3話 美々美子、SNSアカウントを作る!!

 最初の動画を投稿した日の夜。

 私はベッドに横になり、天井を見上げていた。


 一点を見つめながら考える。

 このまま、芽子に任せっきりでいいのだろうか。

 これは私が言い出したこと。私が自ら積極的に動くべきなのではないだろうか。


「作ってみよう、アカウント」


 私は現在無職なので、時間ならいくらでもある。

 スマホからトゥイッターと検索し、サイトへ。


 こ、ここからどうすればいいのだろう。


 待て、落ち着くのよ私。

 これでも一応大卒の元公務員なんだから、アカウントを作るぐらいきっとできるわ。


 そんなこんなで数時間後、夜空が少し白んできたころ、私はついにトゥイッターのアカウントを作成した。


「すごい、すごいよ私……」


 自分で自分を抱きしめてあげたい!!

 私だってやればできるんだ。

 なんて、喜んでいる場合じゃないや!!

 まだプロフィールとか、アイコン? ってやつを設定していない。


 えっと、どうしようかな……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目を覚ましたらすっかり夕方になっていた。

 昼夜逆転生活はいつか体を壊すから控えていたのに。


「ただいまー」


 あ、芽子が帰ってきた。

 言おう、一人でアカウント作れたことを。

 きっと褒めてくれるはず。ぬふふ、お姉ちゃんだってやればできるんだぞってとこ見せてやる。


「芽子ちゃーん」


 名前を口にしながら、一階に降りる。


「あ、お姉ちゃん。動画の伸び具合確認した?」


「伸び具合?」


「もー、しっかりしてよ。自分の動画でしょ」


 と悪態付きつつ、スマホの画面を見せてきた。

 はじめて投稿した歌動画の画面だ。

 え、ごめん、どこをどう見ればいいのか分からないや。


「再生数一四六回。コメントは無し、高評価は二」


「それって、低いの?」


「うーん、まあ最初にしては悪くないんじゃない? まだ一日目だし」


「え、じゃあ伸び代あるってこと!?」


「楽観的に見るならね。さて、二曲目の制作に取り掛かろっか。そしたらトゥイッターアカウントも作ろう」


「ふふふ、実はね、あるんだ。アカウント」


「……は?」


 ついに披露する時が来てしまった。

 私は芽子に褒められる未来を想像して、ニヤニヤしながらスマホを渡した。


「見て、お姉ちゃんの頑張った成果を!!」


 アイコンは履歴書でも使った証明写真の切り取り。

 名前は『3み子(白井美々美子30歳)』


 プロフィール欄・女性と関係を持ちたい女性です。ボキャロ動画を投稿しています。埼玉県さいたーま市60番地9ー2に在住。現在無職です。父(高志五四歳)、母(葉春子五二歳)、妹(芽子一六歳)を含めた四人暮らしです。女性専用車両拡大と日本の完全肉食離れを目指し、日本女性の未来党を支持しています。サッカーは大嫌いですが、野球は好きです。慢心チーターズファン。可愛い女性のみなさん、どうか私とオフパコしてください。趣味はサイクリングです。よろしくお願いします。


「どう? きちんと書けてると思う」


 反応を伺っていると、芽子はとんでもなく大きなため息をついた。


「お前さー」


「お前!?」


 じ、実の姉をお前呼び!?


「おめーよー」


 もっと口が悪くなった!!


「わざとなの? プロ炎上師目指してんの?」


「え? え?」


「寿司ペロ人間だってもっとリテラシーに気を使えるよ。知能指数2か? てめーは」


「ひぇ〜、そ、そんなに怒らないで芽子ちゃん。な、なにが悪かったの?」


「全部じゃ!! 頭からケツまですべてが最悪なんじゃこのクソ陰キャ三十路!! なんで素直に本当のこと書いちゃうんだよ!!」


「じ、自己紹介なんだから真実を書かないと……」


「真実を書かない所がネットなの!! ネットは嘘つきしかいないんだから」


「そうなの!?」


「だいたい、真実を書いたって言うけど、趣味のサイクリングは嘘じゃん。してないじゃん。ママチャリしかないじゃん家には」


「これからはじめようと思って……」


「こんな欲望に忠実でリテラシーガン無視のプロフィールはじめてみたわ」


 うえ〜ん、一〇歳以上下の妹にガチで叱られちゃったよ。

 私三〇なのに。すでに二十歳を過ぎているのに。


「消せ、すぐに。出会い系アカウントにしかフォローされていない今のうちに」


「ど、どうすれば消せるの?」


「チッ」


「ひぃぃん!! もうアカウント作成はこりごりだーーい!!!!」

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