【配信】天瀬家リフォーム(前編)

「主様、お話はもう宜しいでしょうか?」

「うん、大丈夫だよ。天瀬さんも来てもらえますか?」

「わ、私はここからで良いですよ」



 なぜか僕たちから五メートルは離れた位置から話しかけてくる。

 その表情は青ざめたままであった。



「えっと、この家をどう直すか相談したいのですけど……」

「わ、私としては普通に住めたら――」

「今は普通に住めるとも言いがたいですもんね……」

「はい……」



 天瀬さんはボロボロの家を見て思わず苦笑を浮かべる。



「ということだけど、ルシル、僕たちはどんなことができるかな?」

「このゴミ……、いえ、ボロ小屋はほとんど住居としては機能しておりません。柱だけを残して全面改築することを提案させていただきます」

「えっと、それって僕たちにできること……なのかな?」

「もちろんにございます。つきましては虫けら……ではなくそこの人間――」

「な、なんでしょうか?」

「今回の工事、配信させてもらってもよろしいでしょうか? 我々の力を示す良い機会になるかと――」



 確かに建物を建てる魔物たちなんて平和そうな姿だよね?

 さすがルシル。そこまで考えてくれていたんだ……。


 ただ少しだけ気になることもあった。



「それはもちろん。柚月さんは配信者ですから人気が取れそうなものを配信するのは当然だと思ってます」

「その言葉を聞けて良かったです。そういうことですので主様、配信の準備をいたしましょう」

「ここはダンジョンじゃないけど、いいのかな?」

「それはそこのちびトカゲに結界を張ってもらえば問題ありません」



 ルシルの視線はミィちゃんに向いていた。



「ミィちゃん、そんなことができるの?」

「結界か? えいっ、なのだ」



 ミィちゃんが手を挙げて可愛らしい声を上げる。

 ただ、それ以外何も変わった気配はなかった。



「これで大丈夫なのだ!」

「えっと、これ、何か変わったの?」

「壊れなくなったのだ!」

「えっと、あの建物が解体できないと困るんだけど――」

「私めが説明させていただきます。こちらの空間がダンジョンボスの部屋と同様の結界に覆われております。この結界の効果は主にボスが指定した相手以外の侵入禁止、外部からの結界内の攻撃、及び内部からの結界外の攻撃の無効。あとは遮音、遮熱等の効果もあります」



 ダンジョンのボス部屋は一パーティーごとしか入れないという話しはDチューブのどこかで見たことがある。

 ただこの結界がその理由だったということは初めて聞いた。



「あれっ? つまり僕のダンジョンのボスはミィちゃんってこと?」

「そういうわけではありません。ある程度の強さをもった魔物なら作る事ができるんですよ。ただ作るために必要な時間が変わるだけで……」

「あっ、そういうことなんだ」



――つまりミィちゃんは結界を作るのが得意ってことだね。細かい作業は苦手そうに思えたけど。




「これでここはボス部屋ということになりました。ならば配信してもおかしくないでしょう?」

「もう好きにしてください……」



 天瀬さんが焦点の合わない目で乾いた笑みを浮かべながら言ってくる。



「では、持ち主の許可を得ることができましたので、早速建築はいしんに取りかかりましょう」

「おー、なのだ!」

「頑張るのー」

「おー!」

「あ、あはははっ……」



 若干一名、諦めた表情をしている人がいたが、概ねみんなやる気を見せるのだった――。




◇◇◇




「みなさん、こんばんは。柚月八代です。今日はここ、いつものダンジョン……ではなく、僕の専属となった探索者組合の職員さんの家にやってきました」



“こんばんはー”

“あれっ? 今日は外なの?“

“専属って探索者になったのか?”

“これが……家?”



「えっと、僕は探索者にはなってないのですけど、やっぱりインプをダンジョン外に出すのは危険だから、念のためにすぐ連絡を取れるように来てくださったんですよ」



“絶対に悪魔が原因じゃない”

“あの悪魔が一番弱いよな”

“いや、それでも外に出てるのはマズいやつだろw”

“ミィちゃん様が暴れないかとティナちゃんに危険が及ばないか、だな”



「それじゃあ、僕の専属さんに登場していただきます」



 カメラトカゲ君が天瀬さんにスマホを向ける。

 すると天瀬さんはビクッと体を震わせ、緊張でガチガチに固まっていた。



――うんうん、よくわかるよ、その気持ち。僕も最初は緊張しっぱなしだったし。



 今ではなんと、噛むこと無く最初の挨拶することができるようになっていた。

 まだまだ緊張しているのだけどね……。



「た、探索者組合の専属職員のあ、天瀬です」



“緊張してる?”

“かわいい”

“羨ましい”

“でもミィちゃんたちをどうにかできるとは思えないけど?”

“八代たんを懐柔しようとしてるんだなw”

“なるほどw”



「見ての通り、近くに引っ越してきてくれたのはいいのだけど、人の住める引っ越し先は人の住めるような所じゃなかったんですよ。そこで今日は僕たちが全力で天瀬さんの家を改築したいと思います! そのためにこの家の敷地が現在ミィちゃんのボスエリアになってます! 遮音効果もあるなんてすごいよね」



“え゛っ”

“ボスエリア!?”

“改築よりもボス倒さないとやばいんじゃ!?”

“そもそもミィちゃん様が全力を出したら地球壊れちゃうw”

“職員さんの家を焦土にする配信だっけ?”




「八代ー、もう壊してもいいのか?」

「そうだね、そろそろ始めようか。でも手加減を――」

「えいっ、なのだ!」



 ドゴォォォォォォォン!!



 ミィちゃんの一殴りで一面の壁だけではなくその衝撃で床が吹き飛び、他の壁や天井も吹き飛んでいた。



“手加減w”

“一撃だったw”

“建物が古かったのか。ミィちゃん様がすごかったのか”

“両方だろw”

“頼む相手を間違えたんじゃないか?”



「ミィちゃん?」

「て、手加減はしたのだ。ち、ちゃんと残してるのだ」



 確かに建物の一部はしっかり残っていた。



「うん、よく頑張ってね。偉いよ」

「えへへっ、頑張ったのだ」



 ミィちゃんの頭を撫でてあげると彼女は嬉しそうに目を細めていた。



“絶対に褒める所じゃない”

“褒めるべきは生き残った柱だなw”

“初見です”

“今来た。地球破壊計画?”

“似たようなものだ”



「ルシル、解体はこれでいいかな?」

「大雑把なトカゲらしい雑な解体ですが、問題ありません。次に取りかかりましょう」



 ルシルが軽く手を振るとダンジョンに住んでいたトカゲ君達が姿を現す。

 最初はみんなミィちゃん同様に手のひらサイズだったのだが、みんな体長一メートルほどの大きさまでに成長していた。



――やっぱりダンジョン生息のトカゲは成長が早いみたいだね。



 そんなトカゲ君達はルシルの指示を受け、ミィちゃんが壊しもらした壁などを丁寧に取り外していき、瞬く間に骨組みだけの姿になっていた。

 しかし、重要な構造部材であるはずの骨組みも白アリなどの被害があり、いつまで持つかわからないような状況だった。



“トカゲ君たちの方が活躍してるなw”

“でも下働きのトカゲ君たちも危険度S下位ほどあるんだよな”

“ドラゴンだもんな”

“一家に一匹欲しくなるな”

“辞めておけ。次の日には家がなくなってるぞ”

“ボロボロだな。建て直した方が早くないか?”




「次はティナだったね。大丈夫?」

「もちろんなの。頑張るの!」



 ティナが僕の胸ポケットから降り、建物の方へと近づいていく。



「酷い状態なの。今治してあげるの」



 ティナが骨組みに触れた瞬間にぼろぼろだった骨組みがまるで新品の木材へと姿を変えていた。



「あと少しなの……」



 新しくなった骨組みにもう一度触れると、次の瞬間にその建物の外壁や床、天井が出来上がってしまう。



“マジかw”

“人が治せるのは前に見たけど建物も直せるのか”

“木の精霊だもんな”

“逆のこともできたはずだぞw”

“一瞬で建物の倒壊w”

“ティナちゃん、欲しいね”



「ふぅ……、疲れたの」

「お疲れ様。こんなにすごいこともできるんだね」

「お兄ちゃんのために頑張ったの」

「ありがとう。あとでたくさん美味しい水をあげるからね」

「うん、よろしくなの」



 ティナが僕の胸ポケットへと戻っていく。



「嘘……、もう外観が出来上がったなんて……」



 一瞬のうちに新築同然の家が完成してしまい、天瀬さんは口をぽっかり開けたままだった。



“大丈夫、俺たちも同じ気持ちだw”

“むしろこれが一般的な反応”

“八代たんが平然としてるから俺がおかしいのかと思ったよ”

“そもそも自宅の敷地に厄災級の魔物たちがうじゃうじゃいるんだぞ?”

“そこは魔王城かなにかかな?w”



「あとは内装だね」



 内装は細かい作業が必須になる。

 どうしても大雑把な作業が得意なミィちゃんや魔法が強すぎるティナだとうまく作ることができない。


 それを解消してくれるのがルシルだった。

 彼はしっかり別の解決方法を考えていたのだ。



「ルシル、内装の方は任せたよ」

「かしこまりました。虫けらの人間主様のペットにふさわしい装飾を施させていただきます」

「いやいや、本当に普通の住居で良いからね!? あと、天瀬さんはペットじゃ無いよ」

「下僕の間違いでしたか。申し訳ありません。では早速取りかかります」



 ルシルが軽く頭を下げると再び手を振る。

 すると、小さな葉っぱ達が地面を移動してきた。



「ねぇ、ティナ。あれって――」

「みんな精霊の子なの」



――やっぱりティナと同じ葉っぱくんなんだ。自分で移動できたんだね。



“精霊があんなに……”

“ティナちゃんが八代たんに懐いてるし集まってきたんだな”

“あんな風に動くんだな”

“初めて見た”



 集まった葉っぱくん達はそれぞれ小さな建具とかを作り始め、次々に出来上がっていった。

 しかし、できた建具は外に置かれたままだった。


 それを取り付けていくものがいない。

 いったいどうするのだろう?



 そんなことを思っていると僕の隣を子供くらいの大きさの小さな悪魔ゴブリンが通り過ぎていく。



「今の魔物ってゴブリン!? ど、どこから現れたの!? み、みんな、逃げて!!」



 僕はビクッと肩を震わせて大声を上げていた――。



“ゴブリンまでいたのか?”

“いや、見たことないな”

“みんな=ゴブリンたち”

“Dランクのゴブリンがどう転んだらSSSランクのミィちゃんに勝てるのかw”

“でも、八代たん、今までで一番焦ってるなw”




――――――――――――――――――――――――――――――――

今回も長引いてしまい前後編に分かれちゃいました。

後編は夜に更新予定です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る