襲撃者 【ミィちゃん視点】

 八代を見送ったミィちゃんはダンジョンへと戻ってきていた。

 元のトカゲ――ではなくドラゴン姿に戻るとその大きさはすでに体長二メートルほどになっていた。



「ずいぶんと大きくなったのだ」



 本来ならばこの成長速度はあり得ない。

 しかし、それを可能にしているのが八代の愛情……ではなく地上で食べるご馳走の数々だった。



 そもそも魔物はどのようにして成長を遂げるのか?



 人間ならば実際に魔物と戦った結果、能力が向上したり、スキルを会得したりする。

 魔物も同様に人間の探索者を倒したらその経験で能力が上がり成長をすると思われている。



 しかし、実際には違った。



 そもそもなぜダンジョンが現代の地上へ続いているのかを考えると自ずと答えが出てくる。


 魔物たちやダンジョンの主は地上の物を欲している。

 食べ物であれ、武器や防具であれ、それらに込められた地上のほぼ使われずに高純度を保っている魔素を体内に取り込んで成長をするのだ。



 そのためには地上で生活できることが一番効果が高く成長しやすい。



 ただ、魔物が地上に出て来そうになると当然ながら探索者に討伐されてしまうし、魔物が人になびくことはなかった。


 そもそもダンジョンの入り口には結界が張られ、よほど弱っている個体で無い限り外に出ることができない。



 もちろん抜け穴も当然ある。



 地上に住まう人間が外に出ようとした際に結界が一時的に解ける。

 時間にして一分にも満たないほどであるが。



 だから一緒に出ようとしない限り、外に魔物が出るようなスタンピートは起こらない。



 ミィちゃんの場合はトカゲだと思い込んだ八代と一緒に現代へ出てきて、それから一ヶ月間、共に暮らしていた。



 常に上質な魔力を体内に取り込み放題。

 わかりやすく言うなら金属スライムをオートモードで倒し続けている状態である。



 そんなボーナスタイムも真っ青な成長チート状態なのだからすぐにミィちゃんのレベルは最大値にまで上がる。



 魔物の場合は、レベルが最大になると上位種に進化できるのだ。

 これは人間においても同じであるが。



 だからこそミィちゃんの場合は初めて八代と出会ったときにはDランク相当の下級竜であったのだが、二日過ぎる頃にはCランク相当の子竜になり、一週間が過ぎる頃にはAランク相当の成竜となった。

 そこから話題に上がっていたSランクオーバーの火龍となり、今のミィちゃんはそれの更に上。火を司る龍神、赤龍神と呼ばれる種族にまで進化していた。



 ただし種族や能力だけは成長してもまだまだ子供。

 体の成長には時間が掛かりそうであった。



「ここまで成長できたのは八代のおかげなのだ。だからこそ私は私で八代のことを守るのだ!」



 どこからここを嗅ぎつけてきたのか、ダンジョンに侵入してきた探索者が四人。


 能力的にはミィちゃん爪一つ分にも及ばないであろうほどの者達である。

 虫程度の能力。

 八代からの頼みで探索者むしは追い払わないといけない。



「へへへっ、やっぱりこんなドラゴンが当たり前のようにいるダンジョンだったな。しかも人を襲わないとか宝の山じゃないか」

「いいか、山分けだぞ。それでも十回は一生を送れるほどの金が貰えるだろうけどな」



 探索者たちが嫌らしい笑みを浮かべてくる。



 優しく暖かい雰囲気を持つ八代とは違い、嫌悪感すら抱いてしまう。


 こんな欲望渦巻く感情を持つ者達が八代のダンジョンに入ってきただけで嫌気が差す。

 でも、八代の言いつけは絶対である。



 まずは対話する必要があるのだ。



 ミィちゃんはドラゴンの姿から人間の姿に戻る。

 腕を組み、鋭い視線を投げかける。


 しかし、悲しいことに今のミィちゃんの姿はロリ少女。

 髪の毛はツインテールにしてもらっているが、それがミィちゃんのかわいさを引き立て、一切威圧感はなかった。



「本当なら八つ裂きにしたいところだけど、八代は探索者むしが入ってきたら殺し合いはなしあいをしてから追い払えって言ってたのだ。お前たちも運が良かったのだ」



 空中に浮かび、着ている服とツインテールの長い髪をなびかせているミィちゃんを見て、探索者たちはニヤリ笑みを浮かべる。



「まさかすぐに当たりが来るとはな」

「ロリドラゴンなら人を襲うことはない。しかも金になる」

「捕まえろ!」



 すぐさま探索者たちは各々走り出してミィちゃんへと向かう。



 不法を働くような彼らだが、これでもDランク探索者である。

 標準的な探索者レベルでその辺の弱い魔物なら難なく倒せるほどである。



 しかし、相手が悪かった。



「まずはダンジョンが壊れないようにっと」



 ミィちゃんが指を鳴らすとその瞬間にダンジョン内に結界が覆われる。

 これは主にダンジョンのボスが使用するもので、外部に干渉できなくするものである。とはいえ、これを使えるボスも最低Aランク級なのだが、これによって外部空間から遮断され、ダンジョンからの出入りはおろか、内部でどれほど強力な攻撃をしようがダンジョンは壊れないようになる。


 これをいとも簡単に発動してしまうミィちゃん。

 ただ、あまりにも強力なスキルすぎて、探索者たちは何をしたのか理解が追いつかなかった。



「指を鳴らして助けを呼ぼうとしても無駄だぞ」

「はははっ、おとなしく捕まるんだな!」



 探索者の声が響くが、ミィちゃんはまるで別のことを考えていた。



「追い払わないといけないから、消し炭にできないし……。抑えて……、抑えて……。えーいっ!!」



 可愛らしいかけ声と共にミィちゃんの口から魔法を形どる前の魔力による衝撃弾が放たれる。



 ズドォォォォォォン!!



 とんでもない衝撃音と共に土埃が舞い上がる。



「よし、手加減できたのだ!」



 魔法を使っていないのだから死にはしないだろう。

 そう思っていたのだが、最強種レッドドラゴンの攻撃はたかが魔力によるものでも凄まじかった。


 ダンジョンの床は吹き飛び大穴が空き、そこに倒れて意識を失っている探索者たちが見える。



「あわわわわっ。ダンジョンがもっと弱々だったのだ。ど、どうするのだ?」



 ミィちゃんは頭を抱え慌てている。



「そ、そうなのだ。二階層ができたってことにするのだ!」



 そうと決まったらのんびりしている時間はなかった。


 転がっている探索者ごみを外にポイ捨てし、階層の床を魔法で作り直さないといけなかった。


 もしダンジョンを壊してしまったとわかると八代に嫌われるかもしれない。

 それこそがミィちゃんが何よりも恐れることだったのだから――。

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