買い物へ
初めての友達とのお出かけに僕は胸を躍らせていた。
経験はないものの知識としては漫画とかでしっかり学習していた。
「えっと、確か二人で一緒のものを食べたり、手を繋いだり、するんだよね?」
「それどこのカップルだ?」
「えっ? 友達の話だけど?」
「どこの友達が手を繋いだりするんだよ?」
「しないの?」
瀬戸くんの言葉に僕は首を傾げて女子二人に確認する。
「……したいの?」
「瀬戸とはしたくないわね」
あまり否定的な言葉が返ってこなかった。
そのことに更に瀬戸くんが憤慨する。
「だからなんで俺限定なんだよ!? 柚月も同じだろ?」
「別に柚月君なら問題ないよ。椎はどう?」
「……んっ」
椎さんも顔は伏せながらも頷いていた。
「ほらっ、おかしいのは瀬戸君のほうだよ」
「理不尽すぎるだろ、これ!」
瀬戸くんが声を荒げると僕も含めて他三人が笑い声を上げていた。
そのまま僕たちは学校近くにあるショッピングモールへとやってきた。
「柚月君はどんな服を探しに来たの?」
「シャツを長くしたようなワンピースかな?」
ミィちゃんがほしがっていた服を思い出しながら三島さんに伝える。
すると彼女は驚きの声を上げる。
「えっ? ワンピース?」
「うん、そうだよ」
「あーっ、そっか。うん、似合いそうだね」
「……とっても似合うと思う」
三島さんは曖昧な返事をし、椎さんが嬉しそうに頷いていた。
なんでそんな反応をするのかと不思議に思っていると瀬戸くんがあきれ顔で言ってくる。
「まさかそれ、柚月が着るのか?」
「えっ? 僕じゃないよ? うちのミィちゃんが着るんだよ」
「あっ、そうなんだ……」
「……残念」
何が残念なのか椎さんとはじっくり話し合いたいところだったけど、今は服を選ぶ方が大事だった。
「ミィちゃんってどんな子なの?」
「どんな子……か。慌ただしくて、元気いっぱいで、僕も結構振り回されるんだよね」
「そっか、小学生くらいの子なのかな?」
「あ……、体の大きさはそのくらいかも」
「動画見て貰った方が早くないか?」
瀬戸くんが提案してくる。
しかし、僕は高速で首を左右に振る。
「さ、さすがに恥ずかしいよ。こ、今度ちゃんと撮れたときに見せるから……」
「そこまで嫌がるのなら仕方ないね」
「……残念」
「でも、それだとサイズがわからないんじゃない?」
「えっと、僕の上着を着て膝上ほどの長さだったよ」
「それだと身長130cmくらいかな?」
意気揚々と服売り場へ向かう三島さんになぜか僕は手を引かれている。
「さぁ、いくよ!!」
「な、なんで手を引くの!?」
「同性だから気にしないで良いよ!」
「異性だから気にするんだよ!!」
結局そのまま売り場の中へと連れて行かれる。
◇◇◇
三島さん達がワンピースを探して「あーでもない。こうでもない」と話し合っていた。
僕自身もミィちゃんに合いそうな服を探し回っていた。
そんな時になぜか僕の方を見てヒソヒソと陰口を話す声が聞こえる。
何か言いたいことがあるなら直接言ってくれたら良いのに……。
そう思ったが、少女用のワンピースを探す男子学生。
ヒソヒソの対象になっても仕方ない。
こんな時に盾になってくれそうな瀬戸は店の前で待っている。
賢明な判断だった。
「僕も店の前で待って――」
「柚月君、これとか似合いそうじゃない?」
三島さんが服を持ってきてなぜかそれを僕に合わせてくる。
フリルの付いたピンク色のワンピース。
さすがに赤い髪をしたミィちゃんにはちょっと似合いそうになかった。
「……似合いそう」
「ミィちゃんにはもっとシンプルな方が合いそうかな?」
「そっか。じゃあこれは柚月くん用で」
「……えっ?」
なぜか当たり前のようにカゴの中に入れられる。
「いやいや、僕は関係ないからね」
「ミィちゃんと一緒に着て動画撮ると人気でるよ」
「うっ……」
人気という言葉に一瞬釣られそうになるがなんとか耐える。
先ほどの服を元に戻してもらい、今度こそミィちゃんの服を探していく。
◇◇◇
数枚服を選び終えたあと、僕はお金を払うと紙袋を抱きしめながら帰宅の途についていた。
「な、なかなかの値段がするんだね……」
意外と高額を払うことになり、僕はただただ苦笑を浮かべるしかなかった。
「でも、柚月ならすぐに稼げるんじゃないのか?」
「そ、そうだね。何かバイトを――」
「何を言ってるんだよ、Dチューバーさん。お前には配信の収益があるだろ?」
「僕なんてまだまだ全然だよ。ただ遊んでただけの配信だし、そもそも僕は昨日始めたばかりだからね?」
「そうなのか? あれだけ人気あるのに大変なんだな」
「人気なんてないよ。もっともっと頑張ってミィちゃんの生活費を稼がないとね」
「そっか……。お兄さんしてるんだね。手伝えることがあったら言ってね」
「……んっ」
三島さんと椎さんが優しい声を掛けてくれる。
「ありがとう、みんな」
今日仲良くなったばかりの僕をここまで気遣ってくれるなんて、僕は友達に恵まれたなぁ……。
嬉しい気持ちのまま、家へと帰ってくる。
◇◇◇
玄関入ってすぐのところでミィちゃんが正座をしていた。
目に涙を浮かべて顔色は真っ青。
そのただならぬ様子に僕は何かトラブルがあったのだと察する。
「ど、どうしたの、ミィちゃん」
「わ、私は頑張ったのだ。
ミィちゃんがチラチラとダンジョンの方を見ている。
ガタガタと震えるミィちゃん。
「その……、ちょっとやり過ぎちゃったから直そうとしただけなのだ。だからその……、嫌わないで欲しいのだ。八代と一緒にいさせて欲しいのだ」
ミィちゃんが何を怯えているのかわかる。
ちょっとダンジョンで暴れすぎて中をぐちゃぐちゃにしちゃったのだろう。
それで怒られて追い出されると思っているのかもしれない。
だからこそ僕は優しい笑みを浮かべながら言う。
「大丈夫だよ、僕はミィちゃんを追い出したりしないからね」
「ほ、本当なのか……?」
「うん、もちろんだよ」
「あ、ありがとうなのだー!」
ミィちゃんは喜び、僕に向けて飛び込んでくる。
「ぐふっ……」
みぞおちにまともに突っ込まれた僕は思わず意識を手放しそうになる。
「だ、大丈夫なのか……?」
「う、うん、大丈夫大丈夫。それよりもダンジョンをお片付けしないとね」
「はい、なのだ」
「そうだ、せっかくだからそれも配信する? 『ダンジョン、綺麗にしてみた』なんて動画はみたことないもんね」
「そ、それなのだ! やるのだ! すぐにやるのだ!!」
「はいはい。とりあえずミィちゃんは服、着替えないとね。これ、ミィちゃんへのプレゼントだよ」
僕は持っていた紙袋をミィちゃんに渡す。
そこには数枚のワンピースなどが入れられていた。
「ほ、本当にもらってもいいのか? わ、私はとっても悪いことをしたのだ。それなのに……」
「ミィちゃんがもらってくれないと僕が困るよ。頑張ってみんなで選んできたんだからね」
「わ、わかったのだ! 早速着替えるのだ!」
ミィちゃんがその場で着替えようとするものだから、慌てて奥の脱衣所へと連れて行く。
そして、すぐに着替え終えて僕へと見せに来る。
「ど、どうなのだ?」
不安そうな表情を見せるミィちゃんに僕は笑顔を投げかける。
「うん、とっても似合っているよ」
赤髪のツインテールと赤いワンピースがとても良く映えていた。
その言葉を聞いたミィちゃんは笑顔を見せる。
「嬉しいのだ! それじゃあ、早速お片付けライブなのだ!」
――――――――――――――――――――――――――――――――
八代の設定変更に伴い、一話から本文を修正させていただきました。
一度読んでいただいた方にもあまり違和感がない用に変更点を書かせていただきます。
主な変更点は以下になります。
・八代が探索者になる部分を削除
・収益化の条件部分を排除
・それに絡む全体の本文修正
・八代はダンジョン育成の費用を稼ぐためにライブ配信を行うようになる
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