第16話 クラス対抗戦②

 TUKIAU?ツキアウ?つきあう?付き合う?へ?この人は何を言っているのだろうか。いや、聞き間違いの可能性もある。もう一度聞こう。


「なんて、言ったんですか?」


「付き合おうって言ったの。聞こえてたでしょ?やらしいなぁ」


 試合中だぞ?いや試合中とかの問題じゃない。こういうのは前置きってのが存在する‥‥よな?あれ、僕がおかしいのか?そういうのに疎いのは知ってるけどいきなり告白するのが普通なのか?


「やっぱそういう経験ない感じかな?」


「いや、別にッ!!そういうわけじゃ!!」


 慌てて動揺する僕に対して、至って態度を変えない宇都宮さん。これが揶揄われているのであれば早く撤回して欲しい。


「冗談、ですよね?」


「冗談じゃないって〜顔もいいし、身長高いし、十席第五席に認められてる強さなら私の彼氏として合格だしね。恋愛はその場のノリが大事だしね」


 うそ、じゃないのか?じゃあなんだ。ほんとに僕のことを好きになってくれたってこと?


「どうかな?私と付き合ってくれる?」


 生まれて初めて人に好きと言われた。蔑み、馬鹿にされ、永愛ちゃんの隣にいることを妬まれ何度死にたくなる思いをしてきたか。

 

 僕も幸せになっていいのかな?


 意識してしているからか、彼女のことを可愛いと思ってしまっている。つやのかかった長い紫の髪に、程よく膨らんだ胸。締まるところはしまって出ているところは出ているし、モデル体型とかいうやつなんだろう。


 こんな綺麗な人が僕のことを好きと言ってくれたんだ。返事は決まっている。


「はい!よろこ———————————」



  “忘れべからず。己に課せられた使命を”



 心臓が握りつぶされる感覚。誰かの手に包まれる感覚。今、自分の命が何者かによって握られている感覚。


 なんだこれ、気持ち悪い。


「ちょ、なに?大丈夫?」


「ご、ごめん。ちょっと気分が‥‥」


 その場で崩れる僕を見下げると、宇都宮はすすり笑った。


「そっか、ふふ。なに、童貞って告られるだけでそんな風になるわけ?ちょー面白いんですけど。安心して全部嘘だから」


 嘘?


「ほんとうはね。一時的にアンタと付き合って日ノ森がどんな顔するのか見たかっただかなのよ。アイツ作戦立てる時1人でお前に突っ込むなとか、天海の2人でかかっても勝てないとかほざいてさ。マジムカついたわけ」


 ‥‥‥‥


「それで聞いてれば日ノ森の奴アンタのこと好きっぽいじゃん?入学式の一見でまさか、とは思ったけどガチだったなんて超ウケたわ〜」


 ‥‥‥‥


「あの顔面とスタイルとしておいてさ、アンタ狙うとかほんと面白くない?そんで考えたのが私がアンタを奪って、ショックを受けているところを天海が漬け込んで今日の夜お持ち帰りってのが私らで立てた作戦だったんだけどこれがさ—————」

 

「もういい。黙れ」


 気怠いを体を起こし、膝をつきながら二本の足で直立すると彼女を睨みつけた。


「は?なにそれ。何逆ギレしてんの?」


「永愛ちゃんはお前らに何かしたか?」


「別に何もされてないかな?今はね」


 これから彼女が何を僕に語るのか嫌でも想像がつく。それがわかっただけで今すぐ彼女をぶちのめしたい衝動に駆られる。


「この学校イケメン多いじゃん?もちろんアンタ除いてね?そんなところにあんなスタイル抜群、顔面レベチの美少女の永愛がいたらどう?ちょっと顔が整ってる子やそこそこ胸の大きい子なんて太刀打ちできるわけないじゃん?だから今のうちにそんな有害因子になるアイツを天海を利用して陥れようとしたのよ。一番関係近いのアンタだし、だから嘘告白したわけ」


 僕と永愛ちゃんは中学を転々としてきた。それは自分自身の立場を守るために。でもどこの学校に行ってもこうして永愛ちゃんをおとしいれる女子や近づこうとする男子はみんな僕を利用しようとする。結果、使い物にならない僕をいじめてその度に毎度暴走した永愛ちゃんがそいつらを撃退した。してくれた。


 転校という一握りの希望にすがってきた僕だけど、やっぱり永愛ちゃんは可愛いからどこに行っても結局変わらない。


 そんな現状を変えるきっかけをあの人はくれた。


 何かを変えたいのなら、その何かを変える努力をしないと何も変わらない。


 待っているだけじゃ、周りの環境が変わることを待っていても自分は変わらない。


 だから。


「強くあれ、ただひたすらに」


 領域、展開。


「さっきみたいにうずくまってくれてれば楽だったのに。どう?自分で死んでくれるなら、試合終わったら1発抜いてあげても————————」


 銀光一閃。鋭い刃より繰り出されたのは岩石をも両断する斬撃。その破片が彼女の頬をかすめた。


「は?これ、血?」


「今のは警告です。次は当てます」


 傷より血が垂れる。そこまでの痛さはないだろうが、格下の相手に傷をつけられるという恥が彼女の怒りを駆り立てた。


「ふざけんなよ!!」


 術式”発散”


 あたり一帯が彼女を中心に無数の電気の矢によって蹂躙じゅうりんされる。岩石を貫き、地面をも砕く。そんな威力の術式が阿久津真尋を戦闘不能にさせる。


 これが宇都宮の脳裏のうりに浮かんだおよそ10秒後の未来。


 何をしようとDクラスがAクラスに勝てることはない。その証明をするはず、だった。


「は?なんで——————術式が発動しない。それどころか領域も展開できない‥‥なんで!?なんで!!」


 1人で喚いているところを構わず。僕は彼女に向け再び剣を振り上げて、下ろした。迫り来る凶刃きょうじんに腐ってもAクラス。優秀なようですぐさま姿勢を低くして回避を見せた。


「今避けてなかったら当たってた!!どういうつもり!?」

 

「どういうつもりも何も。貴方を戦闘不能にするためにやりました」


「女の子の顔に斬撃とかアンタ正気!?当たったらどうすんのよ!!」


 それを言われたらずるい。確かに女の子の顔を傷つけるのは気が引けるが。この女に対してはそういう感情を別にいだかない。


 まぁそっちがそうくるなら。僕はこう返すとしよう。


「今のうちに有害因子を排除しておこうと思いまして」


「は?有害因子?」


「貴方はこの先も僕のように男を誑かし、永愛ちゃんのように自分よりも優れた女の子には陥れようと働くのでしょう。ならば今のうちに排除しておいた方がいいと思いました」


 自業自得だ。人に嫌なことをすればいつしか自分に返ってくる。それを彼女はいつしか力に溺れ、才能に酔って忘れていたのだ。


「っぐす。ご、ごめんなさい。ほんと‥‥ごめんなさい」


 もはや力無く崩れ落ちた彼女は瞳を充血させ、涙を頬に垂らした。


「降参を。でなければ本気で貴方を斬ります」


 最後の情け。当然彼女はそれをないがしろにするはずがなく。戦いの舞台から降りた。



 

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