第15話 クラス対抗戦①

 縦180メートル、横100メートルで形成された試合コート。先ほどまで真っ平らだった地面も荒野のごとくく荒々しくなり、所々岩石や砂丘さきゅうが見られた。


「今回のテーマは”荒野”。広がった岩石の障害物や砂埃すなぼこりをうまく活かして攻略してね」


 Aクラス担任東條とうじょうあずさは遠隔えんかくマイクを利用し、グラウンド全体にアナウンスした。他の生徒の面々はグラウンドを広く見渡すことのできるギャラリーにて試合を観戦し、次に出場する生徒達はそれぞれクラスごとに割り振られた控え室のモニターにて見学することになる。


「超能力適正検査とは言ったもののそこまで固くなる必要はないよ。試験でもないしあくまでレクリエーションの一環として試合にのぞんでね。魅ノ島先生、なにかある?」


「特にねぇよ。構わず仕切れ」


 隣の椅子に肘をかけ、如何にも堕落した格好の魅ノ島はあごを動かし東條に向け言葉を返した。

 

「はいはい。それじゃあ位置について‥‥試合会開始!」


 今、戦いの火蓋ひぶたが切って落とされた。Aクラス並びにDクラス計8人は一斉に動き出す。


「少しは自分の生徒に興味を持ったらどう?最低でも1年間はこの子達の面倒を見ることになるんだかさ」


「俺がアイツらに?それはねぇだろ。他人に興味がねぇ俺がどうして率先してガキ共のお守りにつかなきゃいけねぇ。俺はあくまで教員としての事務的な仕事はこなすがサービスは致さない主義だ」


 東條はため息をひとつ吐くとそのまま視線を移さず、グラウンドへと向けた。


—————


———


——


「静かだな」


 室内グラウンドだからか応援も歓声も聞こえない。聞こえるのは砂埃の音と吹き抜ける風の音だけ。敵の気配など微塵みじんも感じさせない。領域の展開はまだいいか、無駄に体力を消費させるわけにもいかないし何より永愛ちゃんとの戦いに向けて温存しておかなくてはならない。


 あの時永愛ちゃんが僕に見せた表情。あれは間違いなく僕に対して何かの感情を抱いている。それがたじなちゃんへの嫉妬か憤怒か、それとも他のなにか。なんであれもう1人の永愛ちゃんが顔をのぞかしているのは間違いない。警戒はおこたるな。


「あぁ?なんだよ1人か」


 敵陣正面より2時の方向。姿を現したのは天海と宇都宮だった。


「そっちのFWはアンタ1人?それともどこかに隠れてたり?まぁどっちでもいいけど」


 さっき小林さんを挑発してた怖い女の人に、金髪のチャラい人。この2人がFW‥‥にしたって無警戒過ぎないか?2人もいるんだから奇襲きしゅうなり錯乱さくらんなりできるだろ?


「天海君、先行きなよ。この子は私がヤるから。終わったら合流しよ」


「おっけー。てか合流する前に片付けちゃうかもだからはよ来いよ」


 そう言って天海は真尋に一瞥いちべつもせず、スタスタと自陣地に向け歩いていった。


「懸命じゃん。1人で2人を止めようとしないところは利口利口」


「こっちにも考えがあります。それに1人で敵陣に踏み込んでくれるのはこちらにとってもありがたいですので」


「それって挑発?煽り?なんでもいいけど調子に乗るなよ底辺がよ」


 紫の光が手中に集まると、ビリビリと音を立てて槍へと変貌へんぼうした。


「それは?」


「超能力”紫電しでん” 術式”精製”」


 電気の力を槍の形に変化させたのか。加工系の術式はたじなちゃんと当てはまるけど、超能力自体が別格。アレに触ればかすりり傷じゃ済まないな。


「触れば火傷やけど。刺されば感電死。でも安心してね?いくらDクラスでも同級生にそんなことしないから」


「お気遣いどうも」


 警戒を解かず、僕は腰にかけた鉄剣を引き抜く。


「何それ剣?てか鉄じゃん。感電したいの?」


「ご心配なく。当たらなければ問題ないので」


 苛立いらだちを隠さず、問答なしにその槍をこちらに向け投擲とうてきすると構わず僕は身をひねって攻撃を回避する。

 

「ハァ!?当たれよもうッ!!」


「胸狙ってきてるじゃないですか。刺されば感電死なんですよね?」


「大丈夫っしょ。死なないって」


「さっきと言ってることが矛盾してますよ」


「うっざいな。細かい男は女子に嫌われるよ?」


 攻撃の手はやめない。先ほどの比ではないが小さな電気の槍を精製しては僕に目がけて飛んでくる。本来であれば鉄剣で切り落としたいところなのだが、感電するのは勘弁して欲しい。


 理想はジリジリと距離を詰め彼女を戦闘不能にすること。FWを脱落させれば攻略はより簡単になる。僕に求められる仕事は選手の脱落とクリスタルの破壊だ。役目を全うするためにもここは引けない。


「無駄に身体能力は高いんだ。ちょこまかちょこまか逃げちゃって。ねぇアンタは超能力は持ってないの?せっかくのサイキッカー同士の戦いなんだから使わなきゃ損じゃない?」


「本来は使いたいところなのですが。僕のは少し特殊なのでタイミングを図っているんです」


 すると彼女はピクリと眉を動かし、暫くすると頬が吊り上がった。


「もしかしてさ君ってあれ?入学式で十席の席に座ってたDクラスの新入生」


「‥‥‥」


 不自然に口籠くちごもると宇都宮は確信し、話を続ける。


「じゃあさじゃあさ天海のこと覚えてない?あ、天海っていうのは私たちと同じチームの金髪の男。見覚えあるっしょ?」


 金髪の男?さっき1人で自陣地に踏み込んでいったあの人だよな?


「‥‥‥あ」


 そう言えば最前列に座っていた僕に絡んできたAクラスの男子生徒。あの人に似てる気がする。


「思い出したっしょ?いやぁまさか君だったなんて超偶然じゃん。これ聞いたら天海君驚くんだろうなーこうやって公式でボコボコにできる機会ができたんだもん。喜ぶに決まってるよね」


 この顔を僕はよく知っている。イジメる標的を見つけ、心躍らせる人間の顔を。


「そうですか。それはよかったですね」


 大事なことは相手の期待している反応を返さないこと。怯えたり、不自然に動揺するのも逆効果だ。


「君、名前は?」


「阿久津真尋です」


 隙しかないな。今切り込んで彼女をノックアウトさせても文句は言わないだろうか。いや、言う隙も与えなきゃいい。そして僕は銀刃を持ち替え、切先を彼女に向けた。


「ねぇどう?私と付き合わない?」


「‥‥‥はい?」


 

 

 

 

 

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