第14話 クラス対抗戦⓪


「では私たちの陣形はこれで行きたいと思います」


         敵陣営


     FW(天海) FW(宇都宮)


        SF(日ノ森)


        SB(三井)


       クリスタル(自陣地)


 永愛が提案した陣形は言わば攻撃性の高い布陣。自分自身を除いた3人の超能力の傾向けいこうからこのチームは三井の防御系超能力を除き、他は攻撃系の術式を多く保有ほゆうしていることがわかった。考える中で1番これが失策しっさく率の低い布陣だろう。


「あ、あのさ。と‥‥日ノ森さん」


 永愛の顔色をうかがいながら話かけてきたのは先ほどDクラスへの偏見意識が強かったチャラ男の天海てんかいだ。


「どうしました?天海さん。私の考えた策に何か提案があるのなら遠慮せずおっしゃってください」


「いや‥‥そういうのはないんだけどさ。なんていうか‥‥」


「いきなり超やる気じゃんって言ってんの。別にアンタが考えた策に不満はないけどさ、さっきまで興味なさそうな態度取ってたアンタがいきなり仕切るなっての」


 言いにくそうにしていた天海の言葉を切って一言申し出たのは天海ほどではないが同じくDクラスに嫌悪を抱いていた女子生徒、宇都宮さんだ。


「やる気も何も先ほどまで貴方達の話に微塵みじんも興味がありませんでしたので」


「はぁ?それどういうこと?」


「AクラスがDクラスより優れているその話ばかりしていたではありませんか。さっきも言いましたけど差別は嫌いです。アルファベットの順番で一体何が決まるというのですか?実際私はまだAクラスがDクラスよりも優秀だと実感したことはありません」


 宇都宮はくちびるを噛むと、真っ直ぐ永愛の目をとらえて睨んで見せた。


「ならこの試合で証明すればいいじゃん。私たちAクラスがあの出来損ない連中よりも優れてるってことを」


「証明するのは結構ですけど。どうやって?」


 よくぞ聞いてくれたとばかりに鼻を鳴らすと、宇都宮はクリスタル向けて指を刺した。


「私たち陣営のクリスタルに傷一つつけないで圧倒的な実力差でDクラスのメンバーを全滅並びにクリスタルを全壊させればいいの。そうすれば嫌でも私たちとの格の違いがわかるってもんでしょ?」


 確かにそれなら否応にも実力差を見せつけられるかもしれない。ただそれでどうしたのって話だけど。マウントを取ったところでなんの意味もないのに。でもまぁこの試合に意欲的になってくれるのであれば都合がいい。私が自由に動きやすくなるもの。


「それは素晴らしいですね。もし本当にできればそれは確実にAクラスとDクラスの間に実力の壁を作るきっかけになることでしょう。なら私は代々木さんと共に後衛に当たりますので天海さんと共に宇都宮さんは前衛寄りに当たってください。後ろは私が守りますので」


「案外話わかるじゃん」


  そう言うと彼女は私に一瞥することなく、紫色のロングヘアを靡かせながら天海の元へと去っていった。


「あ、あの!日ノ森さん」


「どうしました?三井さん」


 制服の裾を引っ張られるのを感じて振り返るとそこにはこの中で唯一穏健派と言える女子生徒、三井穂波さんがいた。


「その、私はどうすればいい?」


 どう、とは恐らくクリスタルを守る役目において自身は何をすればいいのか聞いているのだろう。援護はいいのか?自分はクリスタルを守るだけでいいのか?色々な考えが頭にぎらせているはずだ、


「三井さんはクリスタルを護衛してくだされば結構ですよ?攻撃はあの2人が仕掛けるでしょうし、攻撃と防衛のラインも私が調整するので細かいことは私に任せてください」


「え、あ、うん。それだけでいいの?」


「それだけと言いますがクリスタルを守るSBはとても重要な役目です。相手の奇襲攻撃にも対抗しなくてはいけませんしね」


 すると途端に三井さんはシュンと飼いなされた犬のように大人しくなってしまった。


「あまり不安がる必要はないですよ。あの人たちのようにAクラスだからとは言いませんが、それなりに超能力は扱えるようなのでそこは信頼してもいいと思います。敵もそこまで積極的に攻めて来ないと思いますから」


「が、がんばる!」


 そう言うと彼女は胸に手を置き落ち着いた表情に戻った。同時にAクラス担任である東條先生より配置につけと声がかかり、いよいよ試合が始まろうとしていた。



〔2〕


「そっか、幼馴染なんだ」


「うん」


 対Aクラスの作戦を確認したあと、小林さんは僕と永愛ちゃんの関係について質問してきた。


「ってことはあの子が君に一方的に片想いしてる感じ?」


「え?」


「だってそうでしょ?たじながアンタの腕に抱きついた瞬間、鬼みたいな形相でこっち見てきたじゃん。しかも入学式みたいなサイコキネシス出しちゃってさ。あれなに?普通サイコキネシスって体内に存在するものじゃないの?」


 一般的なサイキッカーであればサイコキネシスは体内に存在する。だけど永愛ちゃんは身に秘めたサイコキネシスの量が違う。少しの感情の揺れ幅で漏れ出てしまうことがある。それがサイキッカー日ノ森永愛の少ない弱点の一つだ。


「まぁ片思いとか恋愛云々の話はさておいてさ。やっぱあの子はマークしといた方がいいよね。あの量のサイコキネシスだし、SBのポジションだとしてもこっちのクリスタルまで届く威力は出せるでしょ。そう言えば日ノ森さんの超能力ってなに?」


「あ、うん。永愛ちゃんの超能力は—————」


 月山くんの質問に答えようとした瞬間。1年Aクラスの担任によるホイッスルが吹かれる。これは試合開始まで5分前を知らせ、各々陣形につけとの合図だ。


「移動しながら話すよ、SBまでの位置までにはまとめられるから。みんなも聞いてほしい」


「了解」


 

 こうしていよいよ始まる1年AクラスVS1年Dクラスのクラス対抗戦。その火蓋ひぶたが今切って落とされようとしていた。


 

 

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