第13話 守る存在と守られる存在
〔1〕
「————って作戦で行きたいんだけどどう?」
担任の気まぐれにより編成された即席チーム。そんな中僕たちは自身の持つ超能力を明かし、できることを自己紹介に
以下が僕を除いた3人の特徴になる。
鳥海たじな(不良?女子) 超能力 鉄の錬成(周囲の鉄を利用し、武士や道具を錬成する)
小林田菜(パシリ?女子) 超能力 索敵(領域内の生物の位置を的確に把握する)
そして最後に僕ができることをみんなに説明すると、月山君を中心として作戦を練った。
以下が1年Aクラスに挑む陣形になる。
敵陣地
FW(阿久津)
SF(鳥海) SF(小林)
SB(月山)
クリスタル(自陣地)
戦略としては月山くんがクリスタルを護衛し、小林さんの索敵能力を活かして僕と鳥海さんが敵陣地のクリスタルを全力で破壊する。全体的に攻守バランスの取れた陣営だと思う。
「えーと、阿久津君だっけ?」
すると話しかけてきたのは茶髪のボブ少女。パシリの小林さんだ。もしかして僕に助けを求めているのだろうか、当事者だった僕には痛いほどわかる。こういうのは誰でもいいから話を聞いて欲しいもんなんだ。例えそれが初対面の他人でヒョロちい僕でもさ。
「さっきの話なんだけどさ、本当なの?」
小林は至って真剣な
「月山君が立てた作戦。これアンタの超能力を全面的に信頼して成り立ってるものじゃん?なんていうか今までそんなサイキッカー見たことないしさ、ちょっと不安だったりして」
確かに僕の力は不安定要素が大きく他者からしたら信頼できないのも無理はない。僕と同じ力を持つサイキッカーなどそうそう存在しないと先生もよく口にしていた。
「今は信じて欲しいとしか言えない。実際に試合が始まらないと超能力も使えないから‥‥」
今はこうして信頼を得るしかない。例え信じられないと両断されても。
「まぁいきなりクラスメイトを疑うのも悪いよね。私勝負事になると少しだけ熱くなる口でさ、実は最初アンタがたじなの目を引きたいが為に嘘をついたのかと思ったんだ」
「そ、そんなことしないって!!」
そう言われ反射的に鳥海さんへと視線を移した。彼女は月山君と何やら話をしており、無理やり視線を送ったからか不意に彼女と目が合ってしまった。
「まぁ一目惚れするってのもわかるよ。たじな容姿もいいし可愛いからそこらの男子にモテてたし、私の目の前で告白されてたこともあったしね」
「もしかして鳥海さんと同じ中学だったり?」
「そうそう家が隣でさ昔からよく遊んでたっけ。今も変わらないけど。気になってるだろうから言っておくけど、あの子奥手で男と付き合ったことなんてないんだよ。だから本当に好きならアンタの方から告白して玉砕することね」
先ほどまでの自分の認識が恥ずかしくなる。何が不良とパシリだよ。過去の経験で人を偏見してしまう
「おーいお前ら作戦会議終了な。さっさとコートに集まれ。Aのボンボン共は既にもう集まってる」
〔2〕
1年Aクラス、学園に存在する4つのクラス階級の頂点。いわゆるエリートの優等生たちだ。先生から聞いた話ではDクラスとAクラスの違い、それは使用する超能力の規模と術式の多さだという。学園の方針としてはそれぞれ個人の能力に合わせ、命の危険がないようカリキュラムを組むため設けた制度なのだが。Aクラスが優秀、Dクラスは他クラスの劣等版としての認識がいつの間にか根付いていたらしい。エリート故のエリート主義、そのプライドを誇示するために。
「ったく。模擬試合すんならBかCの連中がいいよなぁ。なんでこんな出来損ないと絡まなきゃいけねぇんだよ」
「そんなの東条先生に聞きなさいよ。私だってこの試合にはなんの意義も感じないもの」
向かいに並ぶ4人の生徒。いずれも肩から腕に赤色のラインが縫われており、Aクラスの生徒であることを証明していた。いずれの男女はどうやら僕たちと戦うことに不信感を抱いており、その不満をわざと聞こえるよう言葉にしていた。
「なんか‥‥怖いね。あの人たち」
「気にしない気にしない。この学校そういう差別意識が根強いって入学前にも聞いてたしね。気にした方が負けだってたじな」
その言葉が気に食わないとばかりにAクラスの髪を金色に染めた男が噛みついた。
「あぁ?そうやって自分の非力さから逃げてなんになるんだよオイ。1人で絶望しとけよ。自分の超能力の弱さを認めて俺たちに跪いとけばいいんだよ。それも女ならな」
「は?」
小林はありったけの嫌悪を見せると金髪のチャラ男を睨んでみせた。
「ちょっと。女だからって差別するのやめてくれる?しかもDクラスの女と同じにされるとか屈辱なんですけど」
「弱い女って言ったろ?安心しろAクラスに選ばれた以上お前は強者だ」
「ふん。当たり前じゃない」
早速対立が生まれている。小林さんなんてもうさぞご立腹だ。早く試合を始めろと
「なんかナルシストが多いんだねAクラスって。鳥海さんは怯えてばっかだし。君もそうなの?」
と、至って通常運転の月山君は緊張を感じさせず、軽く質問を僕に投げかけた。
「あ、あの金色の人は別に‥‥というよりも」
そう。別にあんな男は対して怖くないし、試合が始まればどうとでもなる‥‥はずだ。問題はその隣だよ。
「てか永愛ちゃんもそう思っしょ?」
チャラ男は腕を永愛の肩に回そうとするも、素早い動きでその腕を払った。
「気安く触らないでください。私、そうやって人を能力で差別する人嫌いなんです」
「そう言わずにさぁ〜どうよ?模擬試合終わって放課後になったら
耳を澄まさずとも聞こえる大きな溜息をあからさまに吐くと、永愛は静かに
「聞こえませんでしたか?貴方のことが嫌いなんです。それと名前で呼ばないでください。鳥肌が立ちます」
「‥‥は?ちょっと可愛いからって調子に乗るなって——————」
入学式ほどの比ではないが当たりの人間を威圧させるほどのサイコキネシスを体から放出させると、殺意を覗かせた。
「口で喋るのも面倒ですね。いっそ貴方をここで殺‥‥し、て‥‥‥」
「ちょっと!!鳥海さん!?な、なななにしてるの!?」
永愛のサイコキネシスに驚いた鳥海は途端に隣にいた僕の腕に抱きついてきた。その
「へ?‥‥阿久津君?————あ、ご、ごめん!!!!ほんとに‥‥その、つい!!」
いやあの、その‥‥嬉しい、嬉しいんだけど!今じゃない‥‥本当に今じゃない!!
最悪のタイミングだ。目の前に永愛がいる時にこんなラッキースケベを発動させるなんて‥‥ほんとどうかしてる。
「まーくん?」
「違うんだ!永愛!!これは——————」
何を言えばいい?どうすればこの誤解を‥‥ってさっきからこんなことばっかじゃないか!!いや、今はそんなことはいい。とりあえずこの場を切り抜ける策を。
「よかったじゃん!!阿久津!!」
「へ?」
小林さん?何がよかったというのだろうか。わからないとは思うがこの状況は本当に最悪で。
「入学初日に初恋相手に抱き付かれるなんて。よかったね!」
よかったねよかったねよかったねよかったねよかったねよかったねよかったねよかったねよかったね。僕の脳内でその言葉が延々と繰り返される。
「永愛、ちゃん。これはその‥‥えっと、ほんとに」
「そっかまーくん。そうなんだね。その子おっぱい大きいもんね。大好きだもんね」
「適当にこなしてまーくんと早くお家に帰ってイチャイチャできればいいと思ってたけど、ちょっとだけプラン変更かな。まーくんを誑かす女は早いうちにヤッておかないとね」
永愛は優しく僕と、そして鳥海さんに微笑みかけると
「行きましょう皆さん。勝つのはAクラスです」
永愛ちゃんが今何を考えているのかはわからない。けれど今まで考えたことがなかった。もし永愛ちゃんが僕の敵になったらどうなるのか。
守ってくれていた対象が倒すべき相手になる。たった今、永愛ちゃんの怖さを本当の意味で理解した瞬間だった。
「ど、どうしてこうなった」
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