第12話 サイガイとイッショ

〔1〕


「以上がこの学校のシステムだ。詳細は省いて説明したから気になった点は各自生徒手帳を見ろ」


 怠惰たいだあふれた態度を見せる男。1年D組担任、魅ノみのしま瑛仁えいじがそう告げた。自己紹介は名前を明かしたのみで歳や趣味、所有する超能力に関する情報など一切口にすることはなかった。


「あとはえーと、あれだ。ここにいるお前らは今日初めて顔を合わした奴が多いだろう」


 お?これはもしやあれかな?クラスのみんなが仲良くなれるように何かレクリエーションを行ったりするのかな?きっかけを作ってくれるなんて流石先生!やっぱり外見からの偏見は良くないな。


「仲良くなりたきゃ自分達で時間を見繕ってどうにかしろ。俺はそういうイベントを基本的行わないからな。あまり期待するな」


 ‥‥前言撤回。やはり人は外見で9割方決まります。


 担任ガチャ10等を引いたDクラスの面々はただただ動揺を隠さず、初対面の生徒同士顔を見合わせていた。


「そんな不安がるな。別に今日はさっき伝えた校則と授業の時間割について話せば解散でいいんだが。ここで放棄すると減給されるから最低限担任としての職務を果たそうと思う。ついでに興味もあるしな」


 魅ノ島を除いたクラス内の全員が頭の上にクエスチョンマークを浮かべる中、僕たちの担任は一言。グラウンドに出ろと言って教室から姿を消した。


 本当にこの人先生なの?まるで体が大きいだけの我儘わがままな子供‥‥なんだか不機嫌な時の先生の面影を感じる。

 


 校内に存在する5つの室内グラウンドの一つ。グラウンドαは公立の中学や高校にありがちな砂の地面ではなく、フサフサの人工芝が広がっている。隅にはサッカーやバスケットのゴールなど部活で使用する器具がざらりと並んでいた。やはりこれからクラス親睦しんぼくも兼ねてスポーツ大会でも開催されるのだろうか?


「よし、やろう」

 

 唐突とうとつに吐かれた台詞セリフにクラスメイトは再び首を傾げる。


「あ、あの魅ノ島先生。やるって何を?」


 するとクラスメイトの男子生徒が手を挙げて進言しんげんした。


「何って。お前らサイキッカーなんだろ?ここでやるって言ったら超能力を使った何かだろうが。ここはサイキッカーが己の術式の種類や威力を高めるためのトレーニング施設。お前ら1人1人の超能力を知るのに打ってつけの場所ってわけだ」


「ではあそこにある器具は?」


「器具?あぁ、あれは多分体育の授業や部活の時に使う奴なんだろうぜ。知らんけど」


 あくまで教員を名乗る者が校内の授業や部活に関して無関心すぎやしないか?今に始まったことではないが‥‥


「んじゃさっさと始めようか。できれば定時までに終わらせたいもんだ」


「今日はこの後担任が集まって職員会議があるし、残念だけど終電帰りは覚悟した方がいーよ?」


 ガチャリと音を立て入り口の扉が開くとぞろぞろと数十名の生徒達が現れ、先頭にいる大人なびた女性がこちらに向かって歩み寄ってきた。


「あ?何言ってんだお前。今日はこれ終わったら家で酔い潰れるまで宅飲みって今決めたんだ。勝手に俺の予定を決めるなよ」


「朝の会議来なかったんだから夜くらい顔出しな。腐っても1クラスの担任なんだから」


 魅ノ島は小さく舌を打つと、面倒くさそうに後ろ髪を掻いた。


「嫌だと言ったら?」


「ボーナス減給」


「是非参加しよう」


 一瞬覗かせた殺気も女性のその一言によって消滅した。それはあの無気力な男からは想像つかないものだった。


「てかそれだけ言いに来たのか?わざわざ後ろのボンボンを引き連れて」


「ここに来た理由は君と一緒。わざわざと言うならそれはそっちの方じゃない?超能力適正検査の場所はそれぞれクラスによって分かれているんだよ?知らなかった?知らないよね?だって朝居なかったもんね」

 

「‥‥マジか」


 あれ、もしかしてほんとにこの人ヤバい?



〔2〕


「はーい、ではこれから1年AクラスVS1年Dクラスのクラス対抗模擬試合を始めまーす」


 広大なグラウンドに立つのは8名の生徒達。勇猛果敢、勇気凛々としたその風格はまさにこの熱い展開に相応しかった。


 この場にいる2人を除いて。


「ど、どうしてこうなった?」


 遡ること15分前。グラウンドに入ってきた生徒がAクラスだと知ったその時から僕の運命は決まっていたのかもしれない。


「えーと、どうすればいい?」


「どうすればいいって。今からグラウンドΔに移動するしかないでしょ?」


「この学園馬鹿広いの知ってんだろ?今から移動すれば20分はかかる。却下だ却下」


 二度腕を振ると魅ノ島は女性から出された提案を否定した。


「でもそれしか方法なくなーい?言っとくけど放課後の会議までには報告書を提出しなくちゃいけないからねー」


「めんどいなぁ‥‥あ、ならこうしようぜ」


 と、この勝手な担任による提案にて実現したのが1年Aクラスと1年Dクラスによる模擬試合だ。試合と言ってもオリンピックにも認定されているメジャー競技であるターコイズ・ロワイヤルを行うらしい。


 ターコイズ・ロワイヤルとは通常9人と9人同士が互いのクリスタルを破壊し合うスポーツである。サッカーと同じでクリスタルというゴールが敵陣地の最奥に存在し、各選手が超能力を行使こうしし時間内で如何にクリスタルを削るかが勝敗の決め手となる。ポジションも存在しクリスタルを直に守る役クリスタルキーパー(KK)が1人。迫り来る相手サイキッカーを排除し、クリスタルを護衛するサイキックブロッカー(SB)。中盤に位置し攻守をバランスよく行う役センターフィールダー(SF)。相手のクリスタル破壊を中心に行う役フォワード(FW)だ。


 ここまでのポジションはそれぞれサイキックを使用できる領域に制限がある。例えばFWはSBの位置まで下がってサイキックを使えないし、逆もまた然りだ。SFに関しては色々と複雑なため後日紹介するが基本的に中盤から動くことはできない。ただ唯一SBからFWの領域までサイキックを行使できる役がある。それがフリーター(FR)。このポジションがチームの要となり、敵味方含めて戦況を大きく左右させる。

 

 大まかに説明したが以上がターコイズ・ロワイヤルのルールになる。ちなみに競技名の由来だがターコイズというイギリスのサイキックフットボーラーが考え生み出したからというのが1番有力な説だというが、諸説あるらしい。


「ルールは知ってるな?これから適当に名前を呼んでいくから呼ばれた奴は前に出ろ。ポジションはチーム内で話し合え」


 それで呼ばれたのが僕と席が隣になった眼鏡くん。そして———————


「うわぁ、さっき見てた人だ」


「田菜ちゃん。シーッだよ」


 先ほど一方的に不快な思いをさせてしまったお二人さんと一緒だ。


「今回は4人の特別編成で行うからポジションはKKとFRを抜きにして決めろ。役の人数は特に指定しない」


 こんな遮蔽物しゃへいぶつ一つないグラウンドで試合をするのであれば多分勝負は一瞬で着くと思うけど‥‥考えていても仕方がない。とりあえず今は先程の誤解を解き、この子達とコミュニケーションを取ることだけを考えよう。


「あ、あのよかったらこれから作戦会議をしようと‥‥」


「キャッ!!」


 と真尋が一歩歩み寄ったその瞬間。たじなは体をひねって田菜の後ろに下がってしまった。


「え、えぇ‥‥」


 うそ‥‥そんなに嫌?あの時そんな気持ち悪い目で見てました?


「あの‥‥」


 ダメだこうなったららちが明かない。まずはさっきの誤解を解くことが最優先だ。この場合席を間違えていたなどといってもきっと都合のいい言い訳だと思われる。多少盛っても好意によるものであったと言えば男の子なら仕方ないね〜の範疇はんちゅうで助かるはずだ。


「じ、実はさっき2人を見ていたのはその‥‥君が‥‥つい可愛くて、一目惚れしてしまったんだ。不快にさせてしまって本当にごめん!」


「あ、そ、そういうことだったんだ‥‥不快なんてそんな、全然大丈夫だから!」


 あれ?思っていた子と違うな。もっと不良っぽい子かと‥‥でもこれで誤解は解けた。ようやくマイナスからゼロに好感度をリセットすることができたようだ。


 ここからだ。ここから僕の高校生活が始まるんだ!


 意気揚々させる真尋。しかし彼は知る由もない。一方その陰でありったけの殺意を漏らしながらこちらに微笑む彼女がそばにいることを。



 

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