第6話 入学式 後編①


「あ、あれ?今、俺たち超能力使ったよな?」


「結構威力出したと思うんだけど‥‥なんで?」


 先ほどまでの轟音が嘘のように静まり返るアリーナ。眼前がんぜんで繰り広げられた怪奇現象に会場内全員がが動揺し、そしてその多くは何が起こったのか理解できずにただ舞台中央を凝視ぎょうしするしかなかった。


 舞台上にいる彼らを除いては。


「超能力を掻き消した」


「しかもこの人数。あの子がやったん?」


 十席の”七”と”六”の席次を与えられた男女2人が会場に渦巻くカオスに似合わない口調で話を交わしていた。


「無意識‥‥ではないね。明らかに彼女、永愛ちゃんの方向に使っていた。細かな事はよくわからないけど、サイキッカーの中じゃ相手の術式を飛ばす奴なんてザルにいる。驚くことでもないよ」


「それは相手が1人の場合だけでしょ?てかなにちゃっかり名前呼びしてんの?マークすんの相変わらず早いねー」


「まぁでも見た感じあの2人デキてるよね?いいねぇ楽しくなりそうだ」


 下品な水音を立てながら舌舐めずりをすると男は口角を釣り上げた。


「宏輝‥‥またそうやって他人の女を寝取るんだ。キモッ」


「お前だってあのヒョロ彼氏いいって思ってんだろ?いいんだぜ?俺のおこぼれ貰っても」


「別にあんな奴タイプじゃないし、私彼氏とかいらないから」


「ったく。ギャルのなりして硬派なんだもんなぁすみれちゃんは」


——————


———


——


「アレを見ても驚かねぇのな先輩ら。俺なんか自分の術式吹き飛んで焦ってるってのに‥‥よし、ちょっと尊敬してやる」


「貴方も超能力使ってたんです?有象無象と一緒に掻き消されててざまぁなのです」


 上品に口元を手で隠すと「ププッ」と煽るように含んで笑った。


「うるせぇな。テメェだって術式を展開しかけたんじゃねぇの?」


「残念ながらそれはあり得ないのです。それに掻き消されたのは術式ではなく領域ですよ?」


「あぁ?何言ってんだテメェ‥‥」


 ガンを飛ばす及川にお構いなく、メルロは淡々と自論を述べる。


「超能力は発動者が領域を展開して初めて成立します。領域には個人によって範囲があり、決められた範囲内のみ超能力の力は有効なのです。そしてこれは反対に言えば領域内にて術式を行使しなければ超能力は発動しない。日ノ森さんが超能力の攻撃を受けなかったのは会場内にいる全員の領域が掻き消され、術式を最後まで発動することができなかったから。それだけなのです」


「じゃあなんだよ、アイツは日ノ森が狙われるその瞬間に俺を含めた会場内全員の領域を掻き消す超能力を行使した。領域を掻き消すのがアイツの超能力‥‥?」


「根本的な視点が違うのです。見るべきは彼の潜在的に持っている才能。領域内のサイコキネシス量にあります。サイコキネシスは超能力の元素、これが領域の密度と広さと超能力の規模に比例します。おそらく彼の身に秘めたサイコキネシスの量は会場内全員の超能力を掻き消すほどのサイコキネシス量を身に秘めている。たった1人の領域が強引に掻き消したというのが真相なのです」


 ただ実際そこまで莫大ばくだいな差がない限り領域が掻き消されるなんてことは起こり得ない。Aクラス10人分の密度の領域がようやくDクラス1人の領域を掻き消せるくらいだ。それをDクラスの生徒が千人規模の領域を掻き消すことをやってのけた事実。メルロや及川を含めた十席の連中を驚かせるには十分だった。


「阿久津真尋‥‥おもしれぇ男じゃねぇか。この学校で俺様を楽ませてくれんのはメルロを含めて10人もいねぇとタカくくってたが期待できそうだ。お前もそう思ってるだろ?」


「はい。そうですね」  



 



 

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