幕間(3)
「なんでそう言う思い切った方向に行くのかな……」
「え、えぇ!? おかしい、ですか?」
「ま、まぁ、フランさんにはある意味似合ってますけど……」
マリィが頭を抱え、フランが狼狽し、リオが珍しく引き攣った笑顔を浮かべる。
魔法少女としてフランが神器に選んだのは、巨大なチェーンソーだった。林業用の機種で、本体サイズはリオの身長とほぼ同じ、刃渡りだけで一メートルを優に超える。
それでもフランが持つと普通サイズに見え、マリィは錯覚に頭がクラクラしそうだった。
「て言うか、なんでこんなものがあるの」
「ここが廃夢になるまでは、こうした機械も使われていたのですよ」
幻夢境もかつては緑豊かな土地でしたから、と懐かしむノードレッド。軽率だった、と反省するマリィに「気にしてませんよ」と声をかけつつ、彼はチェーンソーにフランの神性を分けた。
「それにしても、どうしてチェーンソーを選んだんですか? 結構迷いなく行きましたよね」
神性の宿るチェーンソーをしげしげと眺めるフランに、リオが純粋な疑問をぶつける。
「あ……じ、実は私、ホラー映画が好きで……よく見に行くんだけれど……」
「え、意外です。わたしもたまに見るから、もしかしたら何処かで出会ってたかも?」
「せ、背が高いから、いつも一番後ろの席でしか見れないんだけど……」
思わぬ自虐が返ってきて恐縮するリオに慌てて釈明しつつ、フランは続けた。
「特にあの有名なシリーズが好きで……だから、と言うのもあるのだけど……この子自身は何も出来ないのに、持つ人によって、役に立つ道具にも、恐怖の象徴にもなる……そういうところが、とても愛おしくて……」
「道具は持つ人次第……そういうの、ちょっと分かるかもです」
リオが肯定する横で、マリィも頷く。彼女たちが使うマイクも、使い方次第で愛や勇気を広める補助具にも、嫌悪や罵倒を撒き散らす凶器にもなる。
とはいえ。
「でも、純粋に使いにくくない? 特にその格好だと……」
フランの全身を見渡して、マリィは苦言を呈した。
魔法少女として顕現した彼女の衣装は、濃い紫を主体としたゴスロリ調のドレスだ。ドレープの効いた丈の長いワンピースで、スカート部には無数の薔薇模様、腰には巨大な蝶のごときリボンが更に長い尾を引いている。
これで長大なチェーンソーを構える姿は、それこそ悪夢に出てきそうだ。
「え、でも軽いですよ、この子」
「あ、うん……」
片手でひょいと持ち上げるフランに、曖昧に返事するマリィ。どちらかというと衣装に引っかかりそうだなと懸念したのだが、ひとまず黙っておく。
一通り神器の説明を受けてから、フランはそれを収納して変身を解除した。何となく名残惜しそうにしているのを見ないふりして、マリィは尋ねた。
「そう言えば、現実の方は片付いた? 警察の事情聴取、あったんでしょ?」
「は、はい……ほとんど事実の確認、と言うことでしたけど……」
近隣店舗にあった監視カメラの映像や通行人のスマホ撮影から、彼女が男の集団のうち一人を振り払った以外には特に危害を加えてない事は分かっていた。
爆発物が使われた形跡もなく、彼女の指紋や頭髪からも爆薬や爆発
彼女自身も二日にわたる昏睡状態であったため、取り調べというよりは体調を気遣いながらの事実確認が主だったという。
そして、彼女が倒れてからタイムラグがあるとは言え、目の前で四人が無残な死を遂げたことに対する精神的なケアを優先すべきと判断され、入院期間が延びたらしい。
「入院中って暇なんですよねー。ほとんど外にも出れないですし」
「そ、そう……? たくさん本が読めて、私は良いのだけど……」
入院経験者二人の真逆な感想を聞いて、マリィはクスリと笑う。笑えるのは、良いことだ。神性に飲まれてなお、彼女たちは生き残ったのだから。
それにしても、とマリィは思う。
元々は
当初目的は、星の
しかし、ノードレッドは今の状況を明らかに歓迎している。
本当は、彼は種を種のまま回収する気はないのではないか。
隣に立つ彼は、無害そうな笑みを浮かべて二人の少女たちのやりとりを見ている。彼女たちを、心の底から歓迎している。
だが、マリィは彼の本質を垣間見ている。
彼は、目的のためには他の何が犠牲になるのも
もしかしたら、彼は星の智慧派の種を利用して、手駒を増やしたいと思っているのではないか。
当然、そんなことを直接訊くわけには行かないし、訊いたところでやることが変わるわけでもない。
「ノードレッド」
「はい」
低い声で呼びかけるマリィに、柔らかな声音で答えるノードレッド。
自分の中にある想いを確かめるように、マリィはしっかりと言い放った。
「諦めないから。次こそ、種のまま回収してやる」
「……はい」
彼女の決意をじっくりと受け止めるように、彼は小さく頷いた。
リオとフランが、話に花を咲かせている。事件がなければ、彼女たちと出会うことはなかっただろう。だがそれは、決して喜ばしい話ではない。
一歩間違えれば、二人とも失っていた。そういう話だ。
拳を握りしめるマリィの目に、灯が点る。
次こそ。
次こそは。
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