幕間(2)

「変身!」


 ついのカダスのホールにてリオが気合いをの声を入れてペンダントを開くと、彼女は光に包まれた。

 着ている服を置き換えるように新たな衣装が現出し、彼女の体を彩っていく。

 光が消える頃には、リオの姿は神性を纏った姿へと変化していた。


「なんか、アタシのとだいぶ違うんだけど……」


 光の中から現れたリオの姿を見て、マリィは若干困惑した声を上げる。

 甲冑部分がかなり主張の強いマリィの衣装に比べて、リオの衣装はドレス部分が主体となっていた。白とピンクを基調とした色合いや、膨らみかけのつぼみを連想させるふわりとしたスカート、白いラナンキュラスを模した胸元のリボンなど、全体に女性的要素が前面に出ている。

 小さな葛藤が始まりつつあったマリィの前に、リオが駆け寄った。


「どうですか、お姉さま! わたしも変身出来ました!」

「あ、うん……おめでとう……?」


 曖昧な返事をしつつ、リオの全身を俯瞰するマリィ。リオはニッグが近寄ってきたのを見て腰を落とし、笑顔で彼女を撫で回す。

 うーんと唸るマリィに、ノードレッドが声をかけた。


「何か気になることがありましたか?」

「いや、気になるところだらけなんだけど……」


 自分の衣装との差異については、纏う神性の違いと言うことで無理矢理納得させたのだが、それ以外にも気になるところがある。

 マリィは逡巡してから、一番気になったところを挙げた。


「リオが変身するとき、ペンダントの操作がアタシと逆なのはなんで?」

「あぁ、それですか。それは、神性の宿し方の違いによるものです」

「宿し方の違い?」


 謎の概念が出てきて、マリィは首をかしげる。

 ノードレッドは苦笑しながら説明した。


「マリィの神性は、ペンダントに宿っています。『窓』を閉じることでマリィに神性の力を移しているのです」

「そう言えばペンダントで出力を絞ってるって言ってたね」


 マリィの言葉に、ノードレッドは頷く。


「ですが、リオは既に体に神性を宿しています。その力を調整して開放するための『窓』を開けることで、リオはその身に神性の力を纏うのです」


 道具としての使い方が違うのですよ、と付け加え、ノードレッドは「パン」と手を叩いた。


「さて、顕現も無事に終えたところで、リオには神器を選んでいただきましょう」

「神器?」

「アタシの大鎌みたいな武器のことだよ」


 立ちあがったリオに、マリィがまたも納得いかない雰囲気で説明する。

 マリィの神器である大鎌は、顕現したときにセットでついてきたものだ。その若干禍々しい形状に拒否感があったものだが、他に武器がないため仕方なく使っている。

 ノードレッドはまたも苦笑しながら説明を始める。


「マリィの神性はペンダントに宿ってますから……」

「分かってる。分かってるんだけどね……」


 遮りながらもまだモヤモヤの残るマリィに、リオはキラキラとした目で言った。


「お姉さまの大鎌、カッコよくて好きですよ?」

「あ、うん……ありがと……」


 釈然としないながらもリオの圧に負けるマリィ。ニッグが足下で「ニアー」と促すのを聞いて、ノードレッドは二人を応接間の奥の部屋へと案内した。

 奥の部屋は書庫になっているが、書棚の更に奥に地下へと続く階段がある。そこは倉庫になっており、多種多様な武器の他、何に使うかも分からないオブジェクトが多数収められていた。


「神器になるものは、基本的になんでも構いません。神性の力を纏わせる依り代ですから、それなりの強度は必要ですが、ここにあるものなら問題は無いはずです」


 説明を受ける間に見て回りながら、普通の剣とかが良かったな、とマリィは心の中で独りごちる。衣装も相まって、大鎌だと死神みたいなシルエットになってしまうのが、彼女としては一番の不服だった。

 ちらりとリオの方を見ると、目移りしているのか色んなものを見ては感嘆の声を上げている。彼女の衣装なら、それこそ魔法少女らしい杖や細身のナイフが似合うだろう。いや、アイドルだからもっとファンシーなものか。

 そんなことを考えていたから、リオの選んだものを見てマリィは吹き出しそうになった。


「わたし、これにします!」


 そう言ってリオが意気揚々と引っ張り出したのは、巨大な両刃の剣だった。同年代の平均身長よりやや低めの彼女だが、その剣は同じくらいの長さがある。

 神性の力がなければ、とてもではないが少女一人の膂力りょりょくと腕力で扱える代物ではない。

 おまけに、大剣の両サイドの腹には砲身が各一門ずつへばりついており、束に引き金が備えられている。各一発ずつしか弾は込められないようだが、隠しようのないトンデモ武器の類いだ。


「リオ……ほんとうにそれでいいの?」

「はい! 女の子が大きい武器を振り回すのって、ロマンじゃないですか? 昔のアニメとかでよく見て、憧れだったんですよー」

「そ、そう……」


 本当にこの子、あのアイドルと同一人物だっけ? と、マリィは二度目の混乱を覚えた。

 ノードレッドはニコニコしながらリオから選んだ武器を預かり、リオの神性を武器に分け与える。ニッグも見守る中、神性を与えられた武器は光を帯びてそのまま虚空に消えた。


「これで、この武器はリオの分け身になりました。魔法少女に変身すれば、いつでも呼び出せます」

「ありがとうございます! これでお姉さまと一緒に戦えます!」

「出来れば戦いは無いに越したことないんだけどね……」


 飛び跳ねて喜ぶリオに、マリィは溜息をつく。

 ノードレッドによると、星の智慧派の動きが活発になっていると同時、銀鍵派も目立つ行動が増えてきたという。これから先、神性だけでなく屍食鬼との戦いも増えるかもしれない。

 あんなおぞましい戦闘は、出来る限り回避したい。


「お姉さま」

「ん?」


 呼びかけに顔を上げると、心配そうな顔のリオと目が合った。


「わたし、頑張ります。お姉さまの負担を、少しでも減らせるように」


 だってわたしはアイドルですから、と謎の理論を唱えて微笑むリオに、マリィは頷いて微笑み返した。





 そして、リオが合流して初めての屍食鬼戦で。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁ!!」


 巨大な剣を振り回して屍食鬼を両断するリオを見て、マリィは「この子、本当にアイドルだったっけ?」と三度目の混乱を味わうのだった。

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