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電車は
乗降を済ませ、電車は駅を経った。
右に団地、左に祖父が最後を迎えた病院を見ながら、スピードを上げて急な坂を下って行く。その先にあるのは、びわ湖ホールの最寄り駅の石場駅である。「一音入魂!」と背中に書かれたTシャツを着た、県立高校の吹奏楽部の女子高校生四人組が降りて行った。すぐにドア操作を行って、運転士は電車を発車させた。
湖岸道路と並走する。道路を挟んで右側、地方銀行のビルが見えてきた。
「じいじ、あれ、なに?」
車窓の外の風景に興味津々だったあの当時の僕は、五階建ての銀行のビルを初めて見た際、祖父に首を傾げて聞いた。
「びわこ銀行やで」
ビル屋上に設置されていた赤文字の看板を祖父は指差していた。
二度の吸収合併を経ているため、今では「びわこ銀行」という会社名は、過去のものになっているが、ビル自体は当時のまま。中学生から高校生までの間、大津市に住んでいたので、このビルの前を何度も通ったが、それまで、そんな会話を交わしたという記憶を思い出したことは、今まで一度もなかった。忘れていた。
(今までほとんど気にしてへんかった銀行のビルだったのに)
視界に捉えることができなくなっても、僕は窓の外にそのビルを確かめようとした。
島ノ関駅を出て、三十秒ほどしか経たないうちに、電車はびわ湖浜大津駅に到着した。
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