第5話

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 駅に到着すると、ようやく紬さんを見つける。だけど紬さんは既に改札口を通って、自分が乗る電車の方へと歩いていた。


 電車通学でもなければ、普段、電車を乗らない俺は慌てて、券売機を探す──券売機の前に来ると、俺は迷う。


 どの券を買えば良いんだ? くそっ、こんな事ならどこに住んでいるか聞いておけば良かった! どうする……どうする……まごついている間に後ろに客が並ぶ。


 とりあえず中に入れば何とかなるだろ。俺はそう思い入場券を買って直ぐに退く。改札口を通って直ぐに紬さんを追いかけた。


 キョロキョロ辺りを見渡しても紬さんはもう見える範囲に居ない。俺は紬さんが向かった方向に向かい目の前にある階段を上った──。


「くそ……何番線だよ?」


 いくつも下りる階段があって、どこに進めばいいか分からない。俺は──時間が無いから、一か八かで手前の階段を下った。


 階段を下ると息を整えながら、辺りを見渡す。空いている時間で良かった。チラホラと帰るために待っている同じ高校の生徒がいるだけで、ほとんど人が居ない。だから紬さんは簡単に見つかった。

 

 だけど……線路を挟んで向かい側に居る。しかも無情な事に電車は紬さんの前を通り、止まろうとしていた。


 乗ってしまえば多分、間に合わない。紬さんの前に三人、並んでいるとはいえ、チャンスは今しかないだろう。だから──。


「紬さん、待って!!」と、俺は大声を出し呼び止める──が、タイミングが悪かった。


「間もなく4番線に電車が参ります」


 そうアナウンスが流れ、俺の声と被ってしまった様で紬さんは動きを止めない。紬さんの前の人が電車に乗り、紬さんも乗ろうとしている。これが最後のチャンスだ。俺はスゥ……っと、精一杯、息を吸い込む。


「紬さん、好きです!! 俺と付き合ってくださいッ!!!」


 俺が周りの目を気にせず告白すると、更に追い打ちを掛けるかのように、4番線の電車が通り過ぎ、視界を遮る。これでは紬さんがどうなったのか分からない。


「くそっ……」


 俺はゆっくりと移動をして窓から紬さんを確認した──が、見える範囲に紬さんは居なかった。


「遅かったか……」


 ザワザワと周りが騒がしくなる中、俺は項垂れながら、階段に向かって歩き出す──恥ずかしいし……悲しいし……感情はもうグチャグチャだ。


 そんな時、一本の電話が掛かってくる。こんな時に誰だよ……と思いながら徐にズボンから携帯を取り出す。着信画面が見えた瞬間、俺は固まった。


「紬さん……なんで……」


 ビックリしている間も電話は鳴り続ける。ヤベっ、このままじゃ切れちゃう。俺は慌てて電話に出た。


「はい……」

「どこに行こうというのだね? ナナシ君」


 え……? ナナシ……? そのペンネームを紬さんに教えた覚えはない。


「せっかく電車に乗らなかったのに、勝手に帰られては困るんですけど?」

「あ、ごめん。えっと……」

「とりあえず合流して話そうか?」

「あ、うん」


 俺は電話を切って、直ぐに階段を駆け上る。チラッと時間を見たらまだ10分はあった。

まだいける。


 俺が上がり終わると、紬さんは待っていてくれて俺に近づく。


「いきなりだったからビックリしちゃった」

「ごめん……」

「うぅん、大丈夫」

「あ、あのさ……ムードも何もないんだけど……ちょっと時間が無くて、その……告白の返事、聞かせて貰って良いかな?」

「なにか訳ありの様ね」


 紬さんはそう言って優しく微笑むと「もちろん良いですよ。こちらこそ宜しく」


「え……」


 あっさりと良い返事が返ってきて、脳みそが追い付かない。嬉しい気持ちはもちろん感じているけど、フワフワと宙に浮いているような不思議な気分だ。


「紬さん、本当に良いの?」

「うん、本当に良いですよ」

「あ、ありがとう」

「ふふふ……もうちょっと話がしたいから、近くの公園で話さない?」

「あ、うん、良いよ」


 俺がそう返事をして歩き出すと、紬さんも合わせて隣を歩き出す。


「あ! そういえば紬さん、用事があるんじゃ……」

「あぁ……大した用事じゃないから大丈夫、大丈夫」

「そう……なら良かった」

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