第4話

 結局、何か良い案が浮かぶ所か、何も進展がないまま、数日が経過する──ここまで来ると半ば諦めていたけど、まだチャンスはあるかもしれないと放課後、俺一人しか居ない静かな教室で自分の席に座り、漫画の続きを描いていた。


 本当は家に帰ってやった方が効率は良いのだけど、親が宿題やったのか!? とか言われるのが煩いから、短時間だったらこっちの方が集中できていた。


「あ……」


 その甲斐があってか、俺はあの日、忘れたシナリオを思い出す。やっと……やっと思い出した! 気持ちが高ぶり、更に集中力が増して、無我夢中で描いていく。


「──こんにちは」


 漫画を描くのに集中していると、いきなり後ろから女子が声を掛けてくる。俺は慌てて後ろを振り向いた。そこには何と……大西 紬さんが立っていた。


 紬さんはニコッと微笑むと「あ、こんにちは。というより、こんばんは、なのかな?」


 ビックリし過ぎて、言葉が浮かんでこない。何故ここに紬さんが……?


「そんなのどっちでも良いかぁ。あなたが二年A組の高木 源也君?」

「え……あ、うん。そうです。何でそれを?」

「だって……行き成り電話してきて自己紹介されれば、どんな人か気になるじゃない? だから友達に教えて貰った」

「あ……ごめん」

「うぅん、大丈夫だよ。それより──」


 紬さんはそう言って俺の横に来ると、漫画の原稿をジッと見つめる。


「あ! ダメ!」


 俺は思わず大声を出し、急いで漫画の原稿を体で隠した。


「どうして? プロ並みに上手に見えたけど?」

「ごめん……どうしてもこれはダメなんだ」

「そうなんだ……残念!」

「ごめんね」

「うぅん、大丈夫──あ。私、忘れ物を取りに部活を抜け出してきただけだから、そろそろ行くね」

「あ、うん」

「じゃあ今度、ゆっくり話そうね」


 紬さんは小さく手を振ると、教室を出て行く。俺はまだ今の出来事が信じられなくて、ドキドキと心臓を高鳴らせて見送っていた。


 ※※※


 それから更に数日が経ち、期限の日の放課後を迎える。あれから俺と紬さんは出会ったら挨拶を交わす仲へと発展していたけど、恋人同士になれるほど距離は縮まらなかった。

 

 紬さんは今頃、部活だろうし、2時間程でどうこう出来る訳が無い。俺にしては良くやったよ。そう自分に言い聞かせて漫画の原稿を諦めて、帰るために廊下に出た。


 さて、次はどんな作品にしようかな……と考えながら、家に向かって歩き続ける──。


「あ……」


 気分転換に違う作品の事を考えたからか、何故か失ってしまった作品に役立ちそうな事ばかりが浮かんでくる。


「くそぉ……」


 俺は急いで鞄からノートと筆箱を取り出すと、アスファルトの上に座り込んで忘れない様に書いていく。一つの案から沢山の案が生まれてきて、驚くほど書いている手が止まらない──。


 俺……こんなにもこの作品が好きなんだな……更にこの作品への愛着が深まり手放したくない気持ちが強くなる。


 俺はノートに浮かんだ案を書き終わると、直ぐに鞄にしまい込み、学校に向かって走り出した──。

 

 2時間でどうこう出来ない? 何を考えてんだ。まだ時間が残ってるじゃないか! 全てを出し切っていないのに、諦めるな! 諦めるんじゃない、俺ッ!!


 ──学校に着くと、まず俺は体育館に向かった。体育館ではバレーボール部とバスケ部がまだ練習していて、俺は辺りを見渡した。


「あれ……いない?」


 バレーボールの練習しているはずの紬さんが見当たらない。仕方がないので俺は近くに居た女子バレーボール部員に近づき「あの……大西 紬さんは今日来てないんですか?」


「あぁ。大西さんなら、今日は用事があるからって早めに帰ったよ」

「帰った……あ。ありがとうございます」


 俺は御礼を言って、体育館を後にする──帰ったならここに来るまでの間、何でスレ違いにならなかった? もしかして寄り道してたのか? だったら走ればまだ間に合うかも? 俺はそう考えながら、駅に向かって全力で走り出した。

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