第6話
駆け付けた時には、もう黄土色くんは死んでいた。体は溶け、原型などほぼ残ってはいない。
「え」
「だって色塗り間違えたでしょそいつ。だから塩を混ぜたインクをそいつに飲ませてやった」
は?こいつは何を言って……。whiteという心真っ黒野郎は何を言ってやがんだ?
「う、噓だ……」「死なないって言ってたじゃないか!」「あ、あ、あああああ!」「いやだいやだいやだ」
あれ。みんなの反応がおかしい。
Whiteはみんなを脅し続ける。
「君たち、全然色塗り終わってないよね。だから俺様whiteからルールを1つ追加します。今後、色塗りを間違えただけではなく、就業時間までに最低五匹の生き物をぬりおわらなければ、インクをあげません」
「へ?」
whiteの発言にみんなの思考が止まる。インクを補給できない、それはつまり死を意味するのだ。
「いまから五時間。それで塗り終わらなかったもんはじ・えんど!頑張れよお前ら!」
俺はブルーを見た。あのブルーも小刻みに体を震わせている。あの暴走族も、ほかのやつらも、黄土色を見ながら身震いしている。俺も怖くなってきた。黄土色はどんな苦しみで最期を遂げたのだろうか。塩を体内に混ぜたことで、水分が体外に排出されてしまいこうなったのだろうか。
まるでナメクジだ。
ん、なめくじ……。
なんで、なんでだ。死より怖いものがあるじゃないか。勝手に化け物の体にさせられ、その構造はまるでなめくじ。怖すぎる。
どんなからくりを使ったんだ。神様だからそんなことが可能なのか。
考えていると、ふと現実に戻される。肩をポンポンと叩かれたからだ。
「茶色さん、動揺するのはわかりますけど、五匹塗らないと死ぬんですよ。とりあえずあのヒグマ速攻で塗って、次塗らないと」
「……ああはい」
俺は速足でヒグマの元に戻り、チューブからインクをだした。ぶちゅう!
ああ、ああ、ああ。
塗った。塗った。とにかく塗った。塗って塗って、塗りたくって、頭が狂いそうなほど塗った。
チューブが届かないときは動物の体によじ登り塗る。足の裏側を塗るときは慎重に動物を横倒しにする。
塗れ、塗れ、塗れ、塗れ……。
塗るんだ。塗らなければ死ぬんだぞ。まだヒグマしか完成していないじゃないか。あと三匹塗らなければいけないんだぞ。
塗れよ、塗れよ!
心では塗らなければだめとわかっているのに、上手くチューブが進まない。これは【効率】とかいう問題じゃない。体が拒否しているんだ。
死を恐れているはずなのに、怖いはずなのに、なんでなんだ。
諦めているのか。もう塗るのは間に合わないと。それもあるのかもしれない。でも、でも……。
俺の体は金縛りのように全く動いてくれなくなった。
あと一時間程度しか時間がないのに。
「茶色さん!」
この声はブルーだ。終わったのだろうか?俺は真顔で訊いた。
「五匹塗ったんですか?ブルー君」
「いいえ」
「え?」
真顔が崩れた。動かなかったはずの体があっけなく動いた。
「なんで、ですか?」
「ばかばかしいなって思いまして。多分ですけど、この仕事、死んだ人に手当たり次第転生させているわけじゃなくて、なんか選別基準があるんでしょうね」
「ん?」
「[死]に対してかなりの恐怖感を覚えた人間、とか。かなりざっくりですけど。死んだ時のエピソードを茶色さんや俺、元暴走族も、かなり細かい所まで覚えているじゃないですか」
「死ぬことすら気付けずに死んだ人間はそもそもここに転送されない……」
「踊らされてたんですよ俺ら。あのwhiteとかいう上司から。死んだほうがマシという事実に気づかされないため」
その時だった。茂みからあの声が俺の耳に突き刺さる。whiteだ。
「何やってんだ。お前ら、塗れてねえじゃん!死にたいのか!特に茶色!お前は生前から使えんなあ!妹はお前のこと気にかけとったらしいけど、俺だったらもう縁切る。使えん人材をいくら育ててもどうせ使えないんだから!ハハハハハ!」
「はい」
俺は食い気味に答えた。
「もう……そういうのいいんで、殺してください」
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