第5話
休憩時間が与えられることとなった。一人一人自分の色と合ったインクをwhiteから手渡され、俺はそれを口から飲む。
「ぷはあ……」
地べたに座り込み、もうひと押しで完成するヒグマを見上げる。でけー。俺こんなでかいやつを短時間でここまで塗ったんだな。腕を左右に振り、ストレッチをする。頭を動かし続けたため頭が痛い。首を両手でほぐしてやる。
「なにさぼってん、茶色」
「え、休憩ですよね」
いつの間にいたのだろう。背後にはwhiteがいた。そんで俺に反対してくる。
「休憩?一匹も塗り終わっていないのに?」
ぽかんとした。よくわからなかった。
何を言っているんだ。ともならなかった。あまりにも次元が違いすぎて。
この世?にこんな人がいるのか。
「労働基準法で定められてるじゃないですか」
「違う。休憩時間をとれないのはお前のせい。あとここカンブリア紀なんで労働基準法とかないから」
「はい、今なんて言いました?不公正ですよ、さっきまであなたどこにいたんですか。俺達のことを監視もせず。大問題ですよそれ」
「とにかくいまからやれ」
「……は?」
「それ以上抵抗すると死ぬよ」
「死にたくはないですよ。でもきちんと、労働基準法に基づいてみんなを労働させてください。もちろん……上司も」
その時だった。ブルーの声が後ろから響いてきた。
「上司さん、俺が茶色さんに続き塗らせますんで。勘弁してやってください」
「なんで?」
「死にたいんですか」
ブルーは耳元で囁く。whiteは「ちゃんとやらせろよ」ときつく言い放った後何処かに消えていった。
「あなたはいいんですか。ここで生きていくうえで、あんな奴がいたら障害にしかなりませんよ」
「死にたくないんですよ。俺はごみ収集車に巻き込まれて死にました。手が切断された感覚、今でも残っているんですよ。死が迫ってきて、でも誰も助けてくれませんでした。みんな巻き込まれるのが嫌だから……。茶色さんはトラックにはねられたんでしたか?」
「はい、妹と電話した直後に」
「妹はどうでもいいです。トラックにはねられる直前、あなたは感じたはずですよね。死の恐怖というのを。あなただけじゃない、みんな死の恐怖を背中に背負っているんですよ。身勝手な考えで、俺たちを危険にさらすのやめてもらっていいですか。何度も言いますけどもう、死にたくないんですよ。せめてそれ完成させてください」
ブルーはもうすぐ塗り終わるヒグマを指差す。なんだよ。なんなん、だよ。俺が悪いのか。違うよな。それに妹はどうでもいいって、どうでもよくないだろ。俺はブルーに突っかかろうとした。でも行動には至らなかった。
その瞬間、黄土色くんの絶叫が後ろから聞こえたからだ。
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