第3話


 それから見せられたのは「生き物に色を塗る」という奇想天外な業務だった。全身真っ白な生き物が土台に現れ、whiteは俺らを見回した。

 

「こいつに色を塗ってもらいまーす」


「いや意味が分からないんですが。ルールとか、もっと詳しく説明してもらってもいいですか」


 生い茂る草木を乱暴に搔き分けて俺は問いただす。


「はあ……」


 whiteは項垂れ、ため息をつく。正直、手が出そうだった。何か解決策はないかと考えていると……。


「私から話します」


 ん?ワープ装置から翼をはやした人間が下りてきた。


「ようこそ、インクワークへ。ここでは皆さん、指定された生き物に色を塗るという仕事をやってもらいたいのです。色を完璧に塗るとその生き物には魂が宿り、現世へと転送されます。ですが、ただやみくもに塗ればいいという話ではありません。それぞれ生き物には、決められた色というのが設定されてあります」


 一匹一匹俺たち全員色が違うのはそういうことなのか。俺は体色が茶色。隣の奴は黄土色。隣の奴は……ん、何色だ?赤と黄色の中間色のような……。まあつまり、茶色を塗るのは俺の仕事、というわけか。

 あとチューブのようなものが全員の頭に付いている。おそらくこれを絞り出し、生き物に塗りかけるのだろう。単純といえば単純作業なのだろうが、精密な作業ともいえる。倉庫の仕分けバイトの成果が発揮されるかもしれない。


「そして皆様にはもちろん報酬もご用意いたします。それはインクです」


「インク?」


「インクというのは、あなた達式神が生きるために重要なものです。あなた達は定期的にインクを口から摂取しなければ萎み、死んでしまいます。なので休憩時間に1つ。就業時間で5つほど差し上げます。多く生き物を塗った方には、ボーナスのインクも差し上げます」


 インクを飲まなきゃ……死ぬ……。


 鼓動が鳴りやまない。なん、で。なんで。なんで死ぬのがそんなに怖いんだよ。だって俺は……。


「女神ちゃん。あんま怖がらさせないでくださいよ」


「……」


 翼をはやした人間は無言でwhiteの方を見た。


「なんです。俺ら式神は、の事にはひるまないんでしたよね。高所から落ちてもこのヘドロがスポンジ代わりになってくれる。殺傷の可能性もゼロ。睡眠さえ不必要。インクを飲まなきゃいけないことぐらいじゃないです?」


「……はい、そうですが。危機感を煽らなければ、人は仕事をしないものでしょう。whiteさん、違いますか?」

 

「ああそうだった。なあお前ら、この仕事に定時なんて概念は存在しねえ。定時っつーのはな、悪だ。あとここで頑張れないのなら、死ぬしかねえ」


「それと私からもう1つ。この仕事がどう地球に影響を及ぼすのかご説明しましょう。whiteさんは、何も色を塗られていない生き物を例として皆さんに提示しましたが、『後塗り』という役割もあなたたちにはございます。例えば、絶滅危惧種の動物に、目立たない後退色を塗り捕食者から身を守る仕事。この行いは地球にとっても、人間にとっても、おおきなプラスへとつながるでしょう」


「そして俺様whiteからもう1つ。生き物を一から作り出すのが俺の役目。白色として転生した俺の役目なんだよ。だからお前ら、色塗りを失敗したら、どうなるか分かってるよな。まあ、そういうことで、色塗りよろしく!」



 ……………………………………………………………………


 

「えーい、お疲れっす!女神ちゃん!日神様ひがみさま!」


 みんなが生き物に色を塗っている中、俺様whiteはインクを飲み干していた。


「ぷはーッ!」


「いい飲みっぷりだね。white君!上も君のことほめてたよ。人選が素晴らしいって」


 口元を緩め、うなずきながら話す日神様。俺様はそれが嬉しくて嬉しくてしょうがない。ニヤケがマジで止まらん。

 だって神だぞ。神様に褒められてんだぞ。


「マジですか?いや本当に、今回の転生者は全員粒ぞろいですよね。前回の役立たずすぎて直ぐにみんな殺しちゃいましたもん」


 俺様whiteはそう言うと、身をよじりながら物真似をする。


「死にたくない、死にたくなーいって。あ、そういえばパープルが死んだときの表情見ました?」


「いや見てないや。え、white君みたの?」


「見ましたよ。マジやばすぎて。あ、この世にあんな顔する人本当に要るんだってなって」


「まじかー、見たかったなー」


「見てほしかったですねー。あれはもう傑作でした」


「ふーん、あ。そういえば。女神ちゃん」


「はいなんでしょう」


「また次の転生者候補が続々と集まり中なんだよ。皆の「色」を確認してほしいんだ」


「はい、喜んで承ります。というか飲み会に仕事の話は持ち込まないように……」


「ごめん、ごめん、トワラン様」


 俺様whiteはポテトフライを放り投げ、口の中へと運んだ。俺様そっちのけで会話をするな。俺は式神の神様なんだぞ。


「ちょ、聞いてくださいよ。トワランちゃん」


「それよりもwhiteさん」


「な、何?」


「ちゃんと現在過去未来多種多様な生物を式神たちに描かせてくださいね。私達は地球の癌である人間に対抗するため、様々な生き物を生み出してバランスをとっているんですから。人を全員殺せばいいじゃないかという層も一定数いますが、もし地球上から人間が消滅してしまえば、インドやアメリカの石油プラント、石油が機能不全を起こし、人間以外の生物にも支障が及んでしまう。だから私たちは人を最小限に殺害するため、蚊や蛇などを生み出し続けているのです。分かりましたか?」


「はーい」


 何が癌だ。勝手に言ってろ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る