第2話
し、んだのか。でも痛みや怖さは続いている。
俺はどうなったんだ。ここはどこ?
天国か、地獄か。それは違う。そんな科学的根拠のないものはこの世にない。生まれ変わり……?ばかばかしい。世迷言を口にするな。妹を現世に残し、俺は死んだのだ。ただそれだけだ。それだけ、なのだ。
そう思った時、知らない人の声が頭の上を通り越した。
「はい皆さん、はじめまして。私は上司のwhiteです。死んでもなお生き続けられる夢の会社、インクワークへようこそ!」
誰だ?恐る恐る目を開けた瞬間、鳥肌が立った。周囲には、得体の知れない化け物がたくさんいて、俺はその中に混じっていた。
ポ○モンに出てくるベトベ○ンのような、粘着性があるヘドロのような姿をしており、一匹一匹体色が異なっている。赤色、紫色、青色……。
頭がパンクしそうだ。死んだんじゃないのか。そもそもここはなんだ。一面を白い壁が包んでいる。
それにこいつらはなんなんだ。
頭が混乱する中、隣の化け物が俺を見て悲鳴をあげる。
「ば、化け物おぉおおおおおおお!」
「は……?」
何を…………え?
なんだ、これ。なんだ、これ。
俺は自分を疑い、目の上の瞼を強くひねった。目をいじめてみたが何も変わらない。
全身を触る。触る度に分かる。
人間じゃなくなったことに。
夢だと疑う余裕さえなかった。
色とりどりの化け物が頭を抱える中、俺はただ頭が真っ白になっていた。髪の消えた頭部を搔いた。
混乱とかそういう次元じゃない。夢だとかそういう次元じゃない。
ただ訳が分からない。体中が震え、自分自身が怖くなる。怖い、怖い、逃げ出したい。
受け入れたくない、夢であってほしい。
夢だとしたら早く覚めてほしい。もしかすると、本当は死を免れて眠りについているのかもしれない。
「まあ皆さん、最初は混乱されていらっしゃいますよね。ですが、こ・こ・は、アットホームな職場ですので、リラックスしていただいて結構でーす」
最初俺が聞いた声はこいつだったのか。名をwhiteと言っていたな。白色のベトベトンもどきだ。
「順序よく説明してあげますと、君たちは死亡して、ここに飛ばされました。化け物へと転生して。ここまでは良いですか、ちゃんとみんな返事してねー」
「いいわけねえだろ。ちゃんと説明しろよ」
一人の化け物が声を震わせながらも口答えする。
「は?部下が上司に対して言う発言ですか。ほんときみは……生前の記憶も覗かせてもらったけど、日本の交通法令などを無視して、違法な暴走行為をする集団だったらしいじゃん。なんとかかんとかーっていうグループだっけ。そういう社会不適合者はそもそも会社になんか入れないからね」
「なんでわかんだよ!部下ってなんだよ!偉そうにすんじゃねえよ轢くぞおっ!」
「あっそ。じゃあ働かずにそのまま死ぬ?」
「は……働く?脳ミソちゃんと詰まってんのか?てめえ」
「脳ミソ詰まってないのは君のほうじゃん。働くか、死ぬか、選択権はどちらかだよー。それを聞いてんの分かる?」
「勝手に決めるな!」
「じゃあ……死ぬしかないか」
「なっ!」
「死んだときさ、どう思った?確か、電車に轢かれてそのまま御陀仏って感じですよね。あなたは運悪く道を踏み外し、自分に向かってくる電車を見てしまった。その時、何を感じました?」
「も、もういい!俺も仕事をやる。仕事をさせろ!」
「圧倒的死への恐怖を感じましたよね。自分も死んだ後に、この肉体を手に入れたのでわかりますよ」
whiteがそう言った瞬間、俺の頭に死の瞬間が流れ込んできた。
妹との会話を終え、妹にイラつきを覚え、横断歩道を左右を見ずに渡った。そして……思い出したくもないあの感覚が俺を貫く。トラックという凶器が、真の臓に突き刺さる。
「じゃあ皆さん、仕事の説明をしていきますね。まぁ見るほうが早いと思うので……皆さん、こちらのワープ装置に移動してください」
俺はなんとか立ち上がり、馴れない体をワープ装置まで運ばせる。抗うことができない。抵抗するとどうなるのか、考えたくもないのだ。
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