第7話 再びの来訪


 平和に毎日は過ぎていき、星夜祭の前日になった。



 今日は朝だけ店を開け、早々と店じまいとした。多くの店が今日から休んだりするので、お客さん達は皆何も言わないが、グレイさんと過ごす事がバレているので視線が生暖かい。


「ミアちゃん、休みかあ」

「いいなあ、恋人がいると」

「あー。俺も一緒にすごす相手が欲しい」

「ミアちゃん、今日の甘い物は何?星夜祭、楽しんでね」


「皆さん、どうも」


 星夜祭は二日続く。明日の朝から明後日の夜までが一般的だ。だから店を二日と半日休む事になる。


 多くの人が朝からのんびり家族で過ごし、夜は一緒に星を見てロウソクを灯し願いをして吹き消す。翌日の朝に願い事をしたロウソクを家族や恋人、友人と交換をする。交換したロウソクに、願い事をしながら毎日寝る前に少しずつ火を灯す。


 そして、ロウソクが無くなった時に願いは叶う。


 ただし、その願いごとは自分の願いではなく、人の事を思う願いではなくてはならない。


 星夜祭の星は自分の所から相手の所へ幸せを送る星の祭りだからだ。



 ・・・二日を通して行う・・・。



(は!ちょっと、もしかして、一緒に過ごすって、お泊り?)


 私は、ハタっと気づき、顔が真っ赤になる。


(でも、ま、みんながしているイベントだし。ね。ま。大丈夫よ。うん。え。私から誘ったって。変だったのかしら)と、忙しく考えながらメレンゲを勢いよく混ぜる。


 顔を赤くしたり、青くしたりしながら、ケーキの生地を作っていく。パッパッとバニラエッセンスを入れると甘いバニラの香りが少しだけ気持ちを落ち着かせた。


(でも、グレイさんも誘う気だったって言ってたし、変じゃないわよね。あら?私わざわざ仕事先まで押しかけたわ。うわ。恥ずかしい)


 ケーキを飾る為のクリームをカチャカチャと泡立たせていく。


(グレイさん、あれからも忙しいみたいだけど、体は大丈夫かしら。一日に一度は来てくれるけど、食事もお菓子もまとめて持って帰るし、ちゃんとしっかり食べてるのかな。グレイさんに今度野菜のお菓子、作ろうかしら。甘い物ばかり食べて、グレイさんの体が心配だもの)



 ふむ。と、今度はクッキー生地を伸ばしていると、突然おしりと、太ももに小さな手がムニっと抱き着いてきた。



「ミーアーねーさーま!!!!」



「きゃあ!!」



 私がびっくりして振り向くと、下の姉様(エミリア)が赤ちゃんを抱いて立っていた。



「声を掛けて入って来たんだけど、脅かせてごめんなさいね、ほら、みんなちゃんと挨拶して」


「「ミアねーさまこんにちは」」


姉様の一番上の子供、と二番目の子供が言い、三番目の子供は、「あー」と言った。



「リア姉様?どうしたの?びっくりしちゃった」



 私は手を拭きながら姉様に向き直った。



「ふふふ。星夜祭に来たのよ!!ちゃんとホテルも予約したわ。安心して頂戴」


「え?」



(安心って何?)



「もうすぐ、ベラ姉様達とルー兄様達も到着するわ。ただディー兄様達はぎりぎりまで来れるか分からなくてホテルが取れてないの。だからもし来れたらここに泊めてあげて」


「は?」



(泊めるって?)



「さ、お土産がたくさんあるわよ。話は皆、揃ってからの方がいいわね」



(え、いつのまに皆来ることになったの?ベラ姉様達(上の姉様・イザベラ)と、ルー兄様達、そして、ディー兄様達(下の兄様・ディラン)も来るって?うん?泊るの?え、ちょっとまって、達、達って言ったわね)



「リア姉様、えっと、みんな来るの?ここに?えっと、みんなってみんな?」


 私は頭に手を当てながら、何かの間違いであってくれ、と聞くと、姉様は嬉しそうに答えた。



「そうよ~。みんなで集まるなんて母さんの葬儀以来じゃない?出産や仕事なんかで、なかなかみんな揃う事はなかったものねえ。うちが、ちびちゃん合わせて六人でしょ、ルー兄様の所が五人、ベラ姉様が四人で、ディー兄様の所も四人だから全部で十九人ね。で、ミア入れて二十人。まあ賑やかね!!」



 私は気が遠くなりそうになったが、(ああ、もう決定なのね)と理解した。



「わかったわ!!食堂使えばみんなで一緒に過ごせるわね!!ちょっと狭いけど、子供も多いし大丈夫でしょ!!」



(もう知らない。グレイさんにはすぐに電報蝶、飛ばさなきゃ)と、考えながら食材をどんどんテーブルに出して料理の準備をしていった。



「あ、ミアのいい人にはルー兄様が連絡するから大丈夫よ。あら、全部で二十一人だったわ。ふふふ~。楽しみね~」



(もう!姉様達はいつもこうなんだから!!)


 ちょっとぷんすか怒りながら、子供たちの口にクッキーを入れていく。


「はい。あーん」


「おいしい~」と言っては、私の方を見上げて「あーん」と、口を開ける様はひな鳥のようで荒れた心が落ち着く。


 もぐもぐ食べると、「ミアねーさま。また、ちょーだい」と、あーんと口を開ける。これは癖になりそうね。



「ミア、あまりやりすぎないで。ご飯が入らなくなっちゃう」


 困った顔をした、リア姉様に言われるまで私は子供達に餌付けをした。



(とにかくもう、なるようになれよ。みんなに会うのは嬉しいし。こうなったら楽しみましょ。ただ、問題はグレイさんなんだけど・・・。大丈夫かしら)



「わかったわ。とにかく料理をバンバン作るから姉様も手伝って。あと、テーブルも移動させたりしましょ」


 腕まくりをし、クッキーの続きをしようとしているとドアの向こうから声が掛かった。



「おーい。荷物はー?」と義兄様(リア姉様の旦那様)が玄関でうろうろしていた。


「あ、奥を使って下さい。お久しぶりです!」


「おー、ミアちゃん、元気そうだね?」


 挨拶をし、お土産や荷物を奥に置いてお茶を出したりして、義兄様には子供達と遊んで貰ったり、重たい物の移動をお願いした。


 そんな事をしていると、本当に姉様達、兄様達が到着して食堂は沢山の人で一杯になった。


 明日の朝の準備をし、皆は明日の朝にまたくるわ。と言ってホテルに泊まりに行った。


 そして夜にはディー兄様達も来れる事となったと電報蝶が届いた。但し到着は明日の朝になるとの事で、私は一人になった食堂で、呆然としていた。



(いや、嬉しいんだけどね。なんだろ、この気持ち。嬉しいのよ。うん。ただ、びっくりして。だって、今日の朝には今日の夜にこうなるなんて思ってなかったもの)



 よろよろと立ち上がると、濃いお茶を入れ、たっぷり砂糖を入れると一気に飲んだ。



(よし、頑張るわよ!やってやろうじゃないの!突然だって、なんだって、二十一人分の料理位出来るわよ!私は食べ物屋さんなんだから!星夜祭、みんなで楽しむんだから!!!)



 私はふんっと腕まくりするとシチューとゼリーを作り出した。


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