◆◆ 008 -怠惰な兄は頑張る妹を応援したい-(4/5)◆◆
『思えば色々とお二方にはお世話になりました』
お、なんか締めの挨拶っぽい流れ。もしや今回で最終回ってやつなのかな?
『本来はもっと違った流れになる予定だったのですが、何がどうしてこうなってしまったのか』
「なんだよ、台本とか作ってたってのか?」
俺は妹にも視線を向ける。
「うん、まあ……」
妹は指で髪の毛をくるくるして、俺から視線を外す。
なんだ? なんか意味深な仕草だな。
『本当はもっとあなたには怒りを露わにしてほしかったのですよ』
「へー」
何を怒れというのか。いや充分に怒り狂った覚えはあるんだが。うまくやれば妹を作家にできたのかもわからんしな。
「ええんやで、あにぃ」
『しかし、まさかあの患部がAIを使ったビジネスを持ち出すとは思いませんでした』
あー、最初、なんかAIの事、わかってなかったぽいよな。スマホやネットにブー垂れてたし。
「でもうちはAIをビジネスで使うのはええと思うけどな」
「お前、まさか
「アカンの?」
「アカンだろ! 小説家は自分の手で小説を書いてこそ、だろ」
「でもパッと見、文章だけでAIで書いたものか、作家が自分で書いたものかなんてわからないやろ。手で書くか、パソコンで書くか、AIで書くか。手段の違いでしかないやん。だいたいあにぃだって、もうAIで小説書くってそんな簡単にはいかないってわかってるやろ」
こんこんと語る妹に俺の眉間が頭痛で痛い。
『わが国だけでも小説というものが生まれてこの方、1000年以上。その間、表現なんて先人の手によってやりつくされてると言っていいでしょう。100%当人オリジナルの表現なんて存在するとは思えませんね。文字すらオリジナルで書くならまた話は別かもしれませんが』
おお、黒子よ。お前までそんな屁理屈をこねるのか……。
「展開に迷ったときとか、ある表現をどう書いたらいいのかわからない時に訊くのもダメなん?」
それは……。
「別に……いいかもな」
俺はぽつりと浮かんだ言葉を、口に出して妹に伝えた。
「そもそもプロがAI使ったら素人がかなうわけないやん。結局は今までと変わらないんちゃうの。なんでみんな、絵が描けない、小説が書けない。できない人だけがAI使う前提で語ってるのおかしない? それにどうせみんな、中身なんて見ないで名前で買ってるやん。ウチの書いた小説だって誰が好き好んでお金出して読んでくれるの。悔しいけどあのひげ面の言ってることあってるで」
夢も希望もないことをなんでそんな嬉しそうに語るのか。俺は黒子に視線で救済を求める。
『仕方ありませんね、人はみな、情報を読んでいるのですから』
なぜか、そのコメントの下には禿げた眼鏡のおっさんのドヤ顔イラストが映っていた。
「あにぃ、うちは小説を書くのが好きだから書いているんやで。
妹の勝ち誇った宣言。
『ボクサーだってリングに上がる時はセコンドが隣にいますからね。作家だって編集者というセコンドがいて小説というリングに上がるんです』
「せやせや。作者がつらいときは読者だってつらい。そこで読者をノックアウトするために、作者の背中を押す編集者や
ほんとかよ。お前、絶対、適当に聞きかじったことを口走ってるだけだろ。
「でも生成AIで画像がコピーできるって話があるだろ。その辺はどう解決するんだ?」
新しいものはとにかく批判の的になる。そんな言葉が脳裏をよぎる。
「でもその画像の絵柄をコピーする指示をしたのは、それを描かせた本人やろ? イラストの作者表記をしっかりすれば済む話やないの?」
『絵柄問題はAIだけに限った話じゃないですからね。画像を似せて本人に成りすますのが問題なのであって、単純に絵柄をコピーする事が問題なのかどうかはまた別の話でしょう』
「だってうち、かわいい女の子のイラストをパッと見てどこの誰が何を描いたもんなんて、わからんよ。大事なのは誰が描いたか、誰がAIに描かせたかやないの?」
得意げに宣言する妹。
『その点については私はコメントを差し控えたい思います』
じゃあ俺も。
「やな感じ。これだから大人はイヤやわ」
妹はプリプリとむくれてはいるものの、今はもう平気なようだった。
やれやれ。この前、泣きながら部屋に逃げ込んだ時は正直どうなるかと思ったが、いつも通り機嫌直してくれてなんとか一安心だな。めでたしめでたし。
ぎゅるるる。
腹の音が鳴った。
「腹減った」
本来、南米チリのカップラーメンが胃の中に入っていたはずなのに。
「黒子さん、何か食べたいものある?」
『私ですか? 私はもちろん唐揚げが食べたいですね』
おっ、そうだな。
「唐揚げかー、どんな唐揚げが食べたい?」
『それはもちろん一番おいしい唐揚げが食べたいですね』
これはアレだ。定番のいつものアレだな。
俺は無言でChatGPTを妹に差し出す。
妹もまた、無言でChatGPTに質問を打ち込む。
〝唐揚げの一番おいしい食べ方を教えてください〟
【唐揚げの一番おいしい食べ方は、個人の好みにもよりますが、一般的には以下の方法が挙げられます:
できたてを食べる: 唐揚げはできたてが一番おいしいです。衣がサクサクでジューシーな中身を楽しむために、できたての唐揚げを召し上がることをお勧めします。
タレやソースをつけて食べる: 唐揚げには、たれやソースをつけることで味を引き立てることができます。一般的なたれとしては、醤油ベースのタレやポン酢、甘辛いソースなどが人気です。
レモンを絞る: 唐揚げにレモンを絞ることで、さわやかな酸味が加わり、より美味しく食べられます。特に、醤油ベースのたれに合わせて食べると相性が良いです。
おかずとして添える: 唐揚げをご飯やサラダ、野菜と一緒に食べると、バランスの良い食事になります。唐揚げをおかずとして添えることで、食事の満足感が高まります。
お好みのドリンクと一緒に楽しむ: 唐揚げにはビールや炭酸飲料、お茶など、お好みのドリンクと一緒に楽しむのがおすすめです。ドリンクとの相性を楽しみながら、唐揚げを味わってください。
以上のポイントを参考に、おいしい唐揚げの食べ方を楽しんでください!】
『やはりレモンは別格の扱いなのですね』
俺は回答を一読して、心の中でほくそ笑む。なぜなら、一番おいしいであろう、唐揚げの食べ方の記載が無かったからだ。
「何か好みの味付けとかないの?」
『私は味付けの好みなど贅沢は申しません。ただ……』
「ただ?」
『やはり唐揚げはみんなでわいわい楽しく食べるのが一番おいしいのではないかと、私は思っています』
こいつ……! 俺には黒子がその覆面の奥で、勝ち誇った顔を見せているように見えた。
「せやね。うち、ちょっとスマホでデリバリー頼んでくるわ。もちろんお代は組織持ちなんやろ?」
『モロチンです』
「さっすが。じゃあちょっと電話してくる。あにぃ、ここお願いね」
妹は駆け足で居間を出ていく。自分の部屋にでもスマホを取りに行ったのかね。
俺と黒子は二人、居間に取り残される。
『あなたの言おうと思っていたセリフ、取ってしまいましたかね』
「別に。誰が言おうとみんなで食うのが一番うまいって事実は揺るがない」
ちょっとすねてるのは本当だけどな。
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