◆◆ 008 -怠惰な兄は頑張る妹を応援したい-(2/5)◆◆

「AIもスマホも便利過ぎてかえって害悪だよ。こんなもの無くなった方がいい」


 横目でチリヌードルを見るともう湯気も収まっている。……もったいねぇことしたな、せっかく買ってきてもらったやつなのに。


「今の若い連中は家畜と一緒。与えられるものだけ与えられて、自分の頭で何も考えない。昔は違った。みんな暗くなるまで野山を駆け回り、泥んこになってかーちゃんに叱られて、身体の痛み、親の優しさ、ありがたさを身体で感じて大きくなったもんだ。俺の知り合いもみんな嘆いているよ。ガキどもはみんなネットにかじりつき、俺達の言う事なんか聞こうとしない、ってな」


 俺は南米チリヌードルにフタを乗せる。たぶんこのまま捨てる事にはなると思うが、せっかく作ったんだ、丁重に扱ってやろう。


「お前、聞いてんのか」


 うるせえな、こいつ。


「聞いてますよ、せっかく作ったカップラーメンが無駄になっちゃったんでね」

「そんなんばっか食ってるからまともに人の話も聞けねえんだよ」


 持ち上げて見せたら返って来たものは罵倒。


「お前もどーせパソコン、ネットで世の中の全てを知った気になってんだろ。もっと外に出て世の中、勉強してこいよ」


 唐突に人に家に上がり込んで、一方的にまくしたてるお前こそ、世の中の勉強をしてきたらどうなんだ。

 俺は心の中でだけ抗議の言葉を上げる。こういう大人は山ほどいる。話しても無駄だということはイヤでも思い知らされてきた。適当に流すに限る。


「妹もいるんだろ。お前と同じで怠け者」


 俺の脳髄に何か冷たいものが走った。


「組織の人間と一緒にAIをどうこうやってるみたいだが、バカだよ。俺が言うのもなんだけどな。パソコン、ネットより本をたくさん読んで、テレビのニュースを見て、AIなんかより偉い学者の先生の言う事を聞いてしっかり勉強しなきゃいけないってのによ」


 俺はノートパソコンを音も無く引き寄せ、浮かんだ言葉を打ち込む。


 〝今、目の前に持論を押し付けてくる人がいます。対処法を教えてください〟


【持論を押し付けてくる人との対処法は、状況や相手との関係によって異なりますが、以下の方法が有効な場合があります:


 穏やかに意見を述べる: 相手の意見を否定することなく、自分の考えを穏やかに述べることで、対話を建設的な方向に向けることができます。相手が押し付けがましい態度を取っている場合でも、冷静に自分の立場を伝えましょう。


 聞き手としての姿勢を示す: 相手の意見や持論を尊重し、注意深く聞くことで、相手が自分の立場を理解していると感じることができます。これによって、相手も自分の意見を尊重してくれる可能性が高まります。


 共通の地盤を見つける: 相手との共通の価値観や関心事を見つけることで、対話を円滑に進めることができます。共通の地盤があれば、お互いの意見を尊重しつつ、建設的な議論を展開することができます。


 トピックを変える: 相手との議論が熱くなりすぎたり、建設的な対話が難しい場合は、話題を変えることで状況を和らげることができます。別の話題に移ることで、気持ちを落ち着かせることができます。


 限界を設定する: 相手が話し続けることによってストレスを感じたり、自分の意見を尊重してくれない場合は、限界を設定することも重要です。礼儀正しく、しかし断固とした態度で、話をやめるように伝えることが必要です。


 状況や相手との関係に応じて、これらの方法を使い分けることが大切です。相手との円滑なコミュニケーションを保つために、自制心と柔軟性が求められます。】


「おい、何やってんだよ。お前もやっぱりパソコン、ネットの今どき人間か」


 俺はGPTの返してくれた返答を読み込む。

 答えない俺を、ひげ面は鼻で笑った。

 俺は平静を取り戻し、ひげ面に向かい合う。


「まあ、そうですね。僕らの年代はネット、パソコンが使えなければ世間から相手にされないですから」

「それはお前がガキの頃からちゃんと努力して勉強してなかったからだろ。善意ある大人たちを信じず、どこの馬の骨かもしれないネットの言う事を鵜呑みにしてきた結果だ」


 俺はGPTの回答を横目に質問を返す。


「ネットやパソコンはなさらないんですか?」

「俺は幹部だ。そんな雑用は部下の連中の仕事。俺は〝ここ〟を使って仕事をしているんだ。〝ここ〟をよ」


 ひげ面は自分の側頭部を指さしながら、これみよがしに宣言した。


「優秀なんですね」

「当たり前だ。この組織だって俺は幹部として招かれたんだ。社会に出てからずっと俺は経営者としてやってきたからな。実名は出せないが俺はいくつもの会社でプロジェクトを成功させてきた」

「さすがですね」

「……なんだよ、生意気な若造かと思ったが、意外に話がわかるじゃねえか」


 俺の心無い誉め言葉に、ふんと笑顔で得意げな鼻息のひげ面。

 ……ちょろいな、コイツ。こんなんで社会に出て幹部でやってけるのか。


「ならAIについて訊きたいんだけどよ」

「なんでしょう?」


 俺は視線をモニターに移したまま、ひげ面に横目で返答を返す。


「AIって簡単に他人の画像をコピーできるんだろ? あれでうまいこと金儲けしたいんだよ」

「……生成AIでビジネス、ですか」

「そうそう! それだよ、それ! なんだよ、意外に詳しいんじゃねえか。組織の掌握には成果が必要なんでな。ここらで一発何かしたいんだよ」


 俺はカタカタとテキストをChatGPTに打ち込む。


 〝生成AIって知っていますか?〟


【はい、生成AIについては知っています。生成AIは、人工知能の一種であり、テキスト、画像、音声などのさまざまなデータを生成することができます。生成AIの代表的な手法には、敵対的生成ネットワーク(GAN)、変分オートエンコーダ(VAE)、トランスフォーマーなどがあります。


 これらの生成AIは、例えば文章を自動生成したり、画像を生成したり、音声を合成したりすることが可能です。また、生成AIはさまざまな応用分野で活用されており、例えばクリエイティブなコンテンツの生成、医療画像の生成、自然言語処理の応用などに利用されています。


 生成AIの進化は、コンピュータの処理能力の向上やディープラーニングの発展などによって大きく進歩しています。今後も生成AIの研究と応用がさらに進展することが期待されています。】


 〝生成AIでビジネスをする場合、どういったものが考えられますか〟


【生成AIをビジネスに活用する方法はさまざまです。以下にいくつかの具体的な例を挙げます:


 コンテンツ生成: 生成AIを使用してブログ記事、商品説明、広告コピー、ソーシャルメディア投稿などのコンテンツを自動生成することができます。これにより、コンテンツ制作の効率化やスケーラビリティが向上し、時間と労力を節約することができます。


 画像生成: 生成AIを使用して写真やイラスト、デザイン素材などの画像を生成することができます。これにより、カスタムイメージの作成やデザインプロセスの加速が可能になります。


 音声合成: 生成AIを使用して音声コンテンツを生成することができます。例えば、オーディオブックのナレーション、音声アシスタントの声、カスタム音楽の生成などが挙げられます。


 自然言語処理: 生成AIを使用して自然言語処理タスクを実行することができます。例えば、会話ボットの開発、要約生成、翻訳、感情分析などがあります。


 予測と最適化: 生成AIを使用してデータから予測モデルを構築し、需要予測、在庫最適化、価格設定、マーケティング戦略の最適化などのビジネス上の意思決定を支援することができます。


 これらは、生成AIをビジネスに活用する一般的な方法の一部です。実際には、業界やビジネスのニーズに応じて、さまざまな方法で生成AIを活用することが可能です。】


 さて、訊いてはみたものの、どうするかな。


「どうなんだよ、何かそのパソコンでわからないのか?」


 思わずため息をついた俺を見て、ひげ面は眉間にシワをよせていた。


「画像をコピーするって、そんな簡単じゃないと思いますけどね」

「テレビや新聞だと、それで絵描きやら作家が困る困るって反対運動してるっていうぜ? 俺達だってあんな口だけの偉そうな連中に高い金払って頭を下げるの、バカらしいんだからよ。だったら黙って言う事を聞いてくれるAIに描かせた方がずーっと利口ってもんだ」


 おくびもない本音。よくもまあここまでずけずけと本音が言えたもんだ。


 〝生成AIで他人の画像をコピーしてビジネスは可能ですか〟


【他人の画像をコピーしてビジネスをすることは、倫理的に問題があるためお勧めできませんし、法的なリスクも伴います。特に、個人の肖像権や著作権を侵害する可能性があります。他人の画像を不正にコピーして利用することは、その個人の権利を侵害し、法的トラブルや信頼の失墜、さらには法的制裁を受ける可能性があります。


 ビジネスを展開する際には、法的規制や倫理的な観点を考慮し、正当な手段でコンテンツを取得し、使用することが重要です。代替案としては、ライセンスを受けた画像やクリエイティブ・コモンズの画像を利用する、自社の画像を撮影する、あるいは自社でオリジナルのコンテンツを制作するなどの方法があります。


 倫理的で合法的なビジネスを展開するためには、他人の権利を侵害することなく、正当な手段でコンテンツを取得することが不可欠です。】


 さて、これをどうやって理解させたらいいもんかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る