◆◆ 007 -嫉妬の世間から妹はAIを守りたい-(4/4)◆◆
「……なんで妹が泣いたか、理由、わかります?」
とはいえ、さすがに今は猫の手でも借りたい。ましてや言葉の通じる黒子いわんや。
『そらぁ、満面の笑顔で擬人化したいって夢を語ってたのに、ただの何の意思ももたない機械ですって遠回しに言われりゃショックだろうよ。大好きなマンガやアニメをただの絵じゃねえか。っていうようなもんだ』
あー……、そういう解釈か。って待てよ。
「世間一般のAIって、意志を持ってることになるのか?」
『AIって人工知能だから、そうなるだろうな。アニメや漫画のAIがみんなのイメージだ』
そんなバカな……ことはあるな。俺も
「ぶっちゃけポンコツだぞ、コイツ。聞かれたこと、そのまま答えるだけなんだから」
『ほう、なんかいい例題でもあるのかい?』
例題。……あれがもしかしたら、そうかもな。
「あるぜ、たぶん」
俺はパソコンをカチカチ操作して、過去の履歴からあるやり取りを探し出した。
〝カップ焼きそばを作る時のボンっと音が立つのは何ですか?〟
【カップ焼きそばを作る際に「ボンっ」という音が立つのは、おそらく沸騰したお湯がカップの内部に入る際に生じる音かと思われます。お湯を注ぐと、熱いお湯が急激に乾燥したインスタント麺や具材に触れることで、蒸気が発生し、その圧力によって音が発生することがあります。この音は一時的であり、焼きそばが調理される過程での通常の現象です。】
俺は黒子さんに読んでもらった。そして、黒子さんはこう言い放った。
『……なんでカップ焼きそばを作る時にボンって音がするんだ?』
そこからかーい。やっぱこの人庶民じゃねーわ。
「カップ焼きそばってお湯を入れて、最後にお湯を捨てるんですよ。で、そのお湯を台所のシンクに捨てる時に熱湯を冷たいシンクに注ぐから、温度差でボコンって音が鳴るんです」
俺は説明しながら、過去の設問の問いかけ自体がそもそも間違っていたことに気づく。
『なるほど、確かにこりゃポンコツかもな』
「ただ、これは俺のそもそもの訊き方が悪いんですよ、間違ってる」
『じゃあ、正しい訊き方をしてみたらどうなるんだ?』
「今、やってみます」
俺はマウスで画面をスクロールする。そして、俺は愕然とする。
『お、これがそうか。準備がいいねぇ』
〝カップ焼きそばを作る時に使ったお湯をシンクに捨てる時のボンと音が立つ現象について教えてください〟
【カップ焼きそばを作る際に使ったお湯をシンクに捨てる際に「ボン」という音が立つ現象は、お湯がシンクに注がれた瞬間に生じる音です。この音の原因は、お湯がシンクに注がれる際に急速に冷却されることによるものです。
お湯は高温であるため、シンクの冷たい表面との接触によって急速に冷え、その際に熱膨張や温度変化による圧力の変化が生じます。この圧力変化によって「ボン」という音が発生するのです。
この現象は一時的なものであり、お湯が冷えるにつれて音も消えていきます。ただし、お湯を捨てる際には注意が必要です。熱湯は火傷の原因となるため、慎重に取り扱いましょう。】
あの
『なるほどな。たぶんChatGPTに限らず、他のAIでもこういうのが出ちまうんだろうな』
「そうですね。要はネットで検索するのと変わらないんでしょ。それがChatGPTなら文章で検索結果を返す。画像生成AIならそれが画像として返ってくるってだけで」
色々間違ってる気はするかもしれんが、俺の体感としてはこれが一番しっくりする気がする。
もっとも言葉にしてみると、それがどれだけ新しいものなのかってのが良くわかる。
今まで検索結果の中から宝さがしする必要があったものが、そうではなくなったのだから、すごい進歩だ。
照明しかなかった家にテレビ、冷蔵庫、洗濯機が一度に導入されるようなもんだ。一気に生活様式が変わる。そらみんな、もてはやすわな。
「……昔、テレビや冷蔵庫、洗濯機が家に来た時ってどんな感じだったんです?」
『そら、みんな大騒ぎよ。便利だからな』
「今のAI騒動みたいに反発する人はいなかったんですか」
『わかりやすい便利さだから、そら反発なんて出るわけなかったよ。ジジイのボヤキと言われたくないけど、昔の製品はスイッチオンですぐ使えたからな。今のスマホなんかはわかりづらくて仕方ない』
「そこは同意します。便利なのはわかるけど、操作手順が複雑すぎる。覚えられない」
『カップラーメンが受けたのもお湯を注いで3分待つだけだからな。まあゆくゆくは、その辺はAIも頭の良い人が改善してくれるだろうよ』
そんなものなのだろうか。まあもしかしたら気づかないうちに色んなところでAIは導入されていくのかもな。スマホとかネットの広告のおすすめとか特にそういうのありそうだし。
「そういや何で400円だと思ったんですか、カップラーメン。普段食べないにしても、いくら何でも高過ぎですよ。一食分のちゃんとした食事の値段に近い」
『そら、あんちゃんには当たり前でも、俺の中では画期的な発明品だしな。それに手軽でも腹いっぱい食える食事の値段って言ったら、そんくらいだろうって思ってよ』
まあ確かに200円のカップ麺一個じゃ腹はふくれない。いくら俺でも食事代だったら400と言わず500円は欲しい。
「それも一緒に説明すれば笑われなかったのに」
『そう言ってくれると嬉しいがな。みんながみんな、あんちゃんみたいに話を聞いてくれるわけじゃない。世の中、うらみつらみがごまんとうずまいているんだぜ』
そんな殺生な。
グルグルグル、とカップラーメンの話に釣られてか、腹が鳴った。
と、ふと俺の中にある設問が浮かび上がる。
「唐揚げってどんな風に食べるのが一番おいしいと思います?」
これもまたお決まりの質問。
『唐揚げか』
「唐揚げです」
しばし思案する黒子さん。果たしてどんな調味料が出てくることやら。
『これは唐揚げに限った話じゃないと思うがな。食い物ってのは、腹減ったときに食うものが一番うまいってのが相場じゃねえかな』
……そうきましたか。
「いや、そうじゃなくてですね。唐揚げには何をかけるべきかって皆さんに訊いてるんですよ」
ここは俺なりに空気を読んで、相手を持ち上げる。
『唐揚げなんて何かけて食ってもうまいもんだ。なんせ唐揚げだろ?』
言ってることはわかるんだけども、今の俺には反論、議論、討論するほどの体力、気力は無い。
『うかない顔だな、あんちゃん。俺もな、若いころは色々あった。カッとなってケンカもしたし、いわれのない事で人から色々言われたりもしたんだぜ』
さいですか。
「じゃあ、俺は今、どうすればいいんですかね」
『人生、どうにもならないときはただ黙って歯をくいしばる。そして、お天道様に顔向けできるよう胸を張るもんだ。義理と人情、そして、一番大事なのはやせ我慢』
苦難に立ち向かう、マンガの主人公かな?
「無理ですよ、俺はそんな辛抱強くない」
『自分の事ならそうかもしれねえがな、人間、誰かのためなら意外と我慢できるもんだ。お嬢ちゃんのためなら、あんちゃんも頑張れるだろうぜ、きっと』
黒子さんの顔は見えない。声もたぶんタブレットのマイクからの発声だから感情はこもっていない……、はずだ。けど、黒子さんからは笑顔で優しく語り掛けられている気がした。
「買い被りすぎですよ。
『そうかい。ま、兄妹ってのはケンカしながら仲良くやるもんだしな』
どこのネズミとネコなのか。
思わず、ハハッと笑ってしまう。
「どうです? カップラーメン作るから食べていきませんか」
なんだかんだで少し気分が晴れた俺は、立ち上がる。
『嬢ちゃんはいいのかい?』
「そのうち腹が減れば機嫌直して、部屋から出てきますよ」
『あんちゃんはなかなかできる兄ちゃんだな』
「……ま、仲は悪くないです。なんだかんだ一晩経てば元通り。心配ご無用です」
俺は素直に、思ったままの言葉を口にした。
007 -嫉妬の世間から妹はAIを守りたい- 了
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【】内 ChatGPTとのやりとりより引用
ChatGPT
https://openai.com/blog/chatgpt
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お読みいただきありがとうございました。
本作品は次回で最終回となります。
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