第52話 永井なる(理想と現実)

サラさんがおかしい。

なんか、ハキハキ喋り始めた。

私の話にリアクションをきちんと取ってくれるけど、なんだかわざとらしい。

何かあったのだろうか?


悪いことに限らない、彼氏ができて明るくなったパターンかもしれない。あのレベルの美人さんなのだから、彼氏がいないと考える方が不自然だ。


サラさんの彼氏か。

どんな人だろう。


なんとなく、神田将暉みたいな人だったら嬉しい。

基本的にやんちゃ系の男性は苦手だけど、神田将暉は平気だ。彼が出ている映画を優先的に観るくらいにはファンだ。

そういえば、私の駄作が映画化するとか嘘みたいな話が出た時に、神田将暉が主演になりかけた時があった。


「そんな恐れ多い!」

「大丈夫です。彼を使えるくらい、アリス先生の作品は売れてるんです」


売れてる。

面白くはないけど、売れてはいる。


学生時代の私がもっとも嫌うタイプの小説家に、私はなっている。


結局、会社の都合でジャニーズの人になったから、神田将暉とは会えていない。


そんなこんなでやる気を無くした原作者の私は企画にロクに参加しなかったので、どう仕上がったのかは知らない。

お金はたくさん入ってきたから、別にクオリティがどうだったかは、今となってはどうでもいい。


「・・・なんか、つまんないなぁ」

\



サラさんが人生に彩りを与えてくれたけど、そんな状態が持続し続けるわけではない。

自分の中のサラさんとは違ったというだけで、自分勝手に失望している自分は、やっぱりクズなんだと、改めて突きつけられた。


安心する夜が終わり、太陽という現実が顔を出す時間帯、このまま家に帰るのは危険だと私の経験が警告してくる。


こういう時のクズの味方は、漫画喫茶だ。

周りは自分に無関心で、店員さんもこちらから頼み事をしない限り干渉してこない素晴らしい場所だ。

この辺だと、駅の方だな。


私は、キャバクラ以外の場所に足を向けた。

\



10冊の漫画を選ぶ。

気になってはいたけど、まだしっかり読んでいない漫画を中心に見繕う。

もう3週目だ。私の中の当たりが結構見つかったので、今日の私はついている。

さて、今回はヤンジャン系を攻めるかな。


流石に9週もしたら疲れた。

12時間パックなので、まだまだ時間はあるから少し休憩しよう。

横になるが、目が疲れているのに全く眠れない。

・・・今は無理だな。

こういう時は、早々に諦めるに限る。

身体を休めるのにストレスを感じていては本末転倒だ。


上体を起こして、ボーっとする。


「・・・」


そういえば、パソコンもあったな。

電源を押してみる。

私がパソコンを起動する時は、小説を書く時のくらいだ。

書いていた頃の癖で、wordを開く。

全くプロットもないし、主人公すら決まっていなかったけど、書き出してみた。


『拝啓キャバ嬢様』


指が勝手に動いたとしか言えないけど、そんな変なタイトルが出てきた。


キャバ嬢が主人公の話。

・・・良いかも。






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