第51話 永井なる(無自覚)
「なるさん!先週ぶりです!」
今日も今日とて、サラさんに貢ぐ。
私のしょうがねぇ映画の話をニコニコ笑って聞いてくれるサラさんに癒されていたら、他のキャバ嬢の方が話しかけてきた。
ちょっと前に、客に罵詈雑言を浴びせられていた人だ。
せっかくの貴重な時間を邪魔してくる声を止めるために、お金を渡してみた。
ああいう、客という圧倒的に優位な立場で大声を上げる人には、自分より「偉い人」に弱い。
「偉い人」ってのは、お金を持っている人を指す。
100万ちょい渡したら、帰ってくれた。あんな端金で引き下がってくれる程度のクズだったので楽だった。
だから、私からしたら特に良いことをした感覚は無い。
「私、今暇なんですけど、ちょっとだけご一緒して良いですか?」
えー。
ヤダなぁ。
でも、この人がサラさんと仲良しだったら、サラさんからの好感度が下がってしまうかもしれない。
サラさんをチラッと見る。
変わらず美しい。この人に嫌われたくない。
「5分!5分でいいから!」
「は、はい。もちろんどうぞ」
なんか、すごいグイグイくる。サラさんは落ち着いて話をするタイプだけど、この人はいわゆる陽キャだ。
悪い人というわけではないことは分かるけど、少し緊張する。
私の好きな映画を観てみると言ってくれたが、私と違って忙しいだろうから、リップサービスで言ってくれたのだろう。
っていう予想に反して、本当に見てきてくれたらしい。映画や本をおすすめして、実際に観てくれる人は中々いない。
キャバ嬢って、サラさん以外も凄いのだなぁと、当たり前なことを思う。
「主人公の子、気持ちは分かるけど、あそこで助けなかったのは残念だったなぁ。けど、後悔してて、根本的に真面目な子なんだなって、胸がギューっててなりました」
結構しっかり観てくれた様で、興奮した様子で感想を伝えてくれるナナさんは、ちょっと可愛かった。
私は、自分の考察を話すのは恥ずかしいから、DVDに収録されていたメイキング映像で知った情報を伝えてみた。
「中学生のオーディションで受かった子、役名をそのまま芸名にしたんだって」
「え!そうなんですか!?それは映画ファンからしたら嬉しいですね!」
打ったら打ち返してくれるナナさんと話が盛り上がり、サラさんを見ると、少し、ほんの少し寂しそうに見えた。
私ごときがサラさんに嫉妬されているなんて、自意識過剰も良いところだと思う。でも、その顔を可愛いとも感じてしまった。
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