第49話 永井なる(混乱)
人生初のキャバクラ。
その大イベントに備えて、とにかく高い服を見繕った。
いつものパジャマで行って追い帰らせたら恥ずかし過ぎる。マナーとして、そして、サラさんの常連客となる者として、ドレスアップは念入りにしたから大丈夫だ。
見るからにオシャレ上級者のお姉さんも、太鼓判を押してくれたし。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。
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「ゔぉおぇぁぇぇ!」
吐いた。
近くにコンビニがあって助かった。
緊張で吐くなんて、久しぶりだ。
ここ最近は、吐くほど何かに真剣になったことがなかった。
「・・・よし」
吐いたら気分も落ち着いてきた。
このまま敵陣に乗り込みたいけど、このクセー口を洗浄する為にドラックストアに行く。
サラさんに、こんな匂いを嗅がせるわけにはいかない。
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「さ、サラさんをお願いします。あ、でも、他の人の接客で忙しそうなら、待ちますので!」
「ありがとうございます。ですが、今偶然サラさんは空いているので、すぐにご案内できますよ」
あんな素敵な人がフリーの時に来られるとは、私にしては運が良い。
黒服さんに案内してもらっている時間、作戦を再確認する。
席に着いたら、この辺のオシャレな店の話で盛り上がる。怖くて実際には行けていないがSNSで雰囲気は掴んだので、ボロは出ないはずだ。
「私達、昔からの友達みたいね」みたいな話になったら、「じゃあ、友達に私からプレゼントです」と言って、シャンパンを注文する。
調べたら、この店のシャンパンタワーの値段は30万円。まあ、そんなに痛い金額ではない。ちゃんと現金を下ろしてきた。
よし。完璧だ。
格好いい上にお金持ちの女性客の完成だ。
「こちらへどうぞ」
黒服さんの声で現実に戻り、サラさんが笑顔で迎え入れてくれる。
あー、可愛い。
こういう派手なドレスももちろん似合うけど、落ち着いた服はもっと似合いそう。
作り物感が拭いきれていない笑顔もキュンキュンする。
これから、この人と話せるんだ。
えっと、まずは何て言うんだったけ?あいさつ?そう、あいさつ。今って朝だっけ?おはようございます?あいさつが終わったら座れば良いのか?どこに?私なんか床で良い。何だったら追い出してもらって道路のど真ん中に座るのも良い。いや、サラさんはそんなことしないか。ごめんなさい。サラさんは優しい人なのき私の勝手な妄想で酷い人にしてしまって、本当にごめんなさい。どうしたら償えるだろう。シャンパン、シャンパンだ。シャンパンを頼もう。誰に言えば良い。サラさん本人で良いのか?シャンパンを頼んだ後はどうする?いや、まずはシャンパンだ。シャンパンシャンパンシャンパン。
「しゃ、シャンパン!」
あ、声に出てた。
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開口一番シャンパンを注文したヤベー客に、サラさんは優しくしてくれた。
なんと、酒が苦手な私の為にリンゴジュースを用意してくれた。
優しい。世界一優しい。
また来よう。
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