第48話 永井なる(ゆっくり立ち上がる)

書けない小説家って、この世で最も要らない職業だと思う。


夕方にノロノロ起きて、何をするでもなく真っ黒い画面のテレビを睨みつけながらそう思う。

こんなことをしている場合ではない。私は小説家なんだ。書かないと、お金もやり甲斐も得られない。

分かっているのに、身体が動かない。


せめて、真っ黒いテレビをつけて気分転換するべきなのに、それすらできない。ただ、無意な時間が過ぎる。


現在の時刻は5時37分。

6時までには、何かアクションを起こそう。

絶対に。

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テレビだけでなく、外まで真っ暗になっている。

あれから、何時間経ったのか確認するのが怖い。あれだけの時間があったのに、私はパジャマを着替えることすらできていない。有名なアニメキャラクターが印刷されたこのパジャマで、私はこの先の人生を送るつもりなのだろうか?

もう、自分が分からない。


そんなどうしようもない日々を過ごしていたある日、動画配信サービスのアニメを観ることができた。その日は、少しだけ調子が良かったんだ。


そのアニメは、女の子同士のユルい日常を描いた作品だった。タメになる教訓があるわけでもなく、ただただ楽しい日常が続く。

そんなアニメを観て、私は涙を流してしまった。

感動するとうるさいくらいに宣伝していた映画を観ても泣かなかった私が、日常アニメで泣いていた。

画面に映る彼女達が、羨ましくて堪らなかった。


それから、私はそのアニメを繰り返し観た。

みんな好きだったけど、特に好きなのか派手な見た目をしているけど繊細な女の子のキャラクター。


周りに合わせるのが上手だから、自分の意見を言う機会は少ないけど、主人公と2人になったらおしゃべりになる彼女が、可愛くて仕方なく、勝手に彼女が主役の小説を書く、一応プロの作家がいた。

私だった。

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彼女達のおかげで、近くのコンビニに行く決意をすることができた。


深夜2時だから、人も少ないのでハードルも低い。

10日ぶりの外出でコンビニまで歩くのに体力と精神力を使ったけれど、辿り着いた達成感を考えればお釣りがくる。

さて、大好きなカップ麺を買って帰るとするか。


しかし、気分が上向きになってきた私に、水をかける光景があった。


「あの客マジムカつく。大して金払ってねー癖に調子に乗りやがってよー」

「ね。どうせ童貞だよ」

「あの歳で?まあ、あんだけキモいとその可能性もあるねー」


夜のお仕事をしている方々が、イートインを占拠していた。


別に、あの方々の職業については、何とも思っていない。小説家の方が遥かに謎の仕事なのだから、私なんかが何かを言う資格もない。


でも、あの高い声は、学生時代を思い出して辛い。

せっかく来たけど、到着したことに満足して帰ろうとしたが、そのキャバ嬢集団の中に、隅で居心地悪そうに座っている女性に目を奪われて、見つめてしまった。

悪口には参加せずに、良いタイミングで相槌を打っている彼女から目を離せない。

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『私の為に貢いでくれます?』

『喜んで。1000万でも2000万でも」

「ふふ。なるさん、大好き」

\



「・・・」


自分の気持ち悪さにうんざりしながら目を覚ます。

昨日見たあの美しい人との蜜月を、無意識に望んでいたのだ。


「ん?」


ふと、自分が思った感想に違和感を感じた。


気持ち悪い?

今更じゃない?

私は昔から気持ち悪いし、小説家なんてみんな気持ち悪い。自分の妄想を本にして、読者様の貴重なお金で生かされている下らない存在だ。


そんなしょうがない存在なら。

キャバクラに行くのも、今更恥ずかしがる必要もないだろう。

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