第47話 詐欺師 2

最早私は、付き合う人間を「使えるか否か」でしか評価できないのかもしれない。

そんな自分を気持ち悪く感じながらも、改善しようとするような倫理観は、もう壊れてしまっていた。

この人生は、私がどれだけお金を稼げるかのゲームでしかないと割り切る。


さて、今日も景に仕事をしてもらおうかな。


電話やLINEよりも、キャバクラに客として行って頼んだ方が断りにくいとズルいことを考えて、景の職場に定期的に通っている。


ああいう商売も、そのうち企画しようと思っているんだけど、客としての居心地が妙に良いので、ビジネスの場とするのは、もう少し先にしよう。


しかし、その日は景がいなかった。

なんだ、無駄骨だなと苛立っていたら、ダンディなおじ様に声をかけられた。

お。キャバクラでナンパとは度胸あるな。断るけど。


「サラちゃん推しな方のようなので、気になって見つめちゃいました」


度胸がある上にユーモアもあるときた。

ちょっと遊んでみるか。


「お!おじさんも!?見る目あるな!」

\



聞き上手ってのは、もっと評価されていい才能だと思う。

私みたいな持論を語りたくて仕方ない人間からしたら、1人は側に置いておきたい。


「若者の読書離れとか、車離れとか言うけどさ、何を若者のせいにしてんだって思うのよ。離れていったのは、時代の流れに対応できなかった業界人のせいだろうってさ」

「返す言葉もございません」


聞けば、おじさん・・・丹波さんは大手出版社で編集者をしているそうで、若い人が小説を読んでくれないとか甘えたことを言うものだから、つい言い返してしまった。

普通、この世代のおじさんって、反論されたら威圧感という武器だけで戦場に出るものだが、丹波さんは違った。


「そうですよね。対策を練るのが遅すぎたんだ・・・。そのせいで才能が埋もれていく・・・」


なんか、ブツブツ言い出したのはキモかったけど、私の話をちゃんと聞いてくれていた証拠でもあるので多めにみることにする。


「あの、どうしたら本がまた売れる様になると思いますか?」


しかも、こんな小娘に敬語で意見を求める。

プライドは無いのかと怒る人もいるだろうが、そのプライドが何の役に立つのかを教えてほしい。

こうして、自分にはない考えを得ようとするのを邪魔するプライドなど捨ててしまえ。


「ずぐには無理だろうねぇ。でも、今でも若い人の為に書いてる才能ある人がたくさんいるから、商品は揃ってる。後は宣伝だ。私の体験談じゃなくて悪いけど、ある絵本作家と芸人を兼業している変人は、ネットで全ページを無料公開した」


「あぁ。有名な方ですよね。彼の著書は今でも飛ぶ様に売れます」


「うん。あの芸人は、『人は得体の知れないものにはお金を払わない』っていう、考えてみたら当たり前なことを証明した。あいつみたいに、小さな革命を起こし続けるのが、本の未来につながるんじゃない?」


割と格好いいことを言った自信はあるが、丹波さんは冷静な顔をして、何かを考えている。

相手に考える隙を与えないのが詐欺の基本だが、この人が考えた結果どんなことを言うのか少し興味が湧いたので、少し待ってみる。


「あの、私の担当している作家の内の1人がアラキタアリスなんですけど」

\



私は運が良い。

新しい金蔓とコマを同時に手に入れられた。

一応、アリス先生の小説を読んでみた。


「売れる」


感想は、それだけ。

おそらく、景をモデルに書いたんだろうことは分かるし、文章が巧いことも分かる。

でも、心は動かない。


私は金が好きだ。

金は私を裏切らないから。

期待通りの価値を貫いてくれるから。

だから、価値が移ろう小説という文化に、興味が持てない。


私は今日も金の為に人に会う。

誰のことも特別視せずに、金を稼ぐだけの人生。

こんな人生を、アリス先生は憐れむだろうか。

金に執着の無い天才様は、そんな私も小説で救おうとするだろうか。

もし、そうなったら救われたふりをして、更に金儲けをしよう。

もし、機会があれば聞いてみたい。

アリス先生。

小説如きで救われる人間って、本当にいるの?

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