第43話 綾川静
妹のお友達が小説家らしい。
コミュニケーションが苦手なあの子に、仲が良いお友達ができたと聞いた時は嬉しかった。本音をATフィールドばりに閉ざしている景は、知り合いはいるけどお友達はいなかった。
今までも、嫌われているわけではなかった。ただ、景が人間に興味が無かっただけ。期待していなかっただけ。
話せば分かり合えるという人のことを、宇宙人のように感じていたと思う。それは、景自身が生きてきて使った言葉の半分以上が嘘だったからだろう。
特に、キャバ嬢になってからは、本当のことを言う機会は激減していた。本音を言う必要がないからだ。
かく言う私も、社会人になってからは、自分の意見は無くなった。
私の思うことを話しても、仕事が円滑に動くわけではない。だから、決められた仕事を粛々とこなす。
これが、私が私を守るために考えたルールだ。
しかし、この間景と会った時は、久しぶりに、本当に久しぶりに人の悪口を言った。
<悪口=本音>
この式が頭に浮かんだ。
悪口って、基本的に嘘では言わない。
あの人のことが嫌いっていう話をしている時が、皆最も生き生きしている。もちろん、私も。
しかし、福祉業界で働いていると、ちょっとしたことでも虐待と認定されてしまう。
例えば、敬称を省いて利用者さんを読んだら、「精神的虐待」らしい。
そんな強い言葉を使われると、馬鹿に見える。
人権を尊重するために作ったルールなのだろうが、そんなことで虐待されたとは、本人達は思っていないのではないかな?
偉い人が勝手に決めた虐待の目安は、どこまで正しいんだろう?
って感じの愚痴が、福祉職の人間同士は1番盛り上がる。でも厄介なことに、私はそういった会話に入るのが下手だ。
心を殺すことに慣れてしまった私は、軽い冗談も口にできない。
そんな私の中に溜まっていたものを、景は吐き出させてくれた。
原因は、この小説の作者。
じゃあ、お手並み拝見といきましょうか。
\
「はっはっは」
そっかそっか。
こんな面倒な人に懐かれるとは。
景も大変だねぇ。
何だか、無性に景に会いたくなった。
今度の姉妹デートは、本屋に誘ってあげよう。
アラキタアリスと行ったことがあるみたいだけど、気まずそうな表情を見てみたい。
私は早速、愛する妹に電話をかけた。
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