第42話 長いラブレター

『本日のゲストは、5年ぶりの新刊発表が話題になっているアラキタアリスさんでーす!」


お。

始まった。


テレビに映っているなるさんは、初めてキャバクラに来た時のような表情をしていた。どうしたら相手に気に入ってもらえるのかを必死で考えている顔。

頼むぞ詐欺師。

あんたの差金なんだから、巧いことなるさんの好感度を上げてくれ。

\



あの日、突然現れた詐欺師は、10年以上続いている日曜朝の情報番組の本を紹介するコーナーにアラキタアリスの新作をねじ込んだと言ってきた。

もう、その企画は通っており、1週間後にはテレビ局にきてほしいとのこと。

この詐欺師、テレビ業界にもコネがあるらしい。


固まっているなるさんに代わり、私が丹波さんに出版社を通しての出演か確認したら、それはもう元気に「はい!」とのお返事が。

お金のためならなんでもやる詐欺師と、アラキタアリスの素晴らしさを広めるためだったら喜んで泥水を飲む丹波さん。


あ、これは敵わないと悟った。


さらに、決まってしまってから断ったらテレビ局に迷惑がかかる状況に追い込まれたなるさんは、真面目な性格から、断ることができなかった。


こうなることを見越して事後報告を選んだのだろう。

本気になったそのペアに、私如きが立ち向かえるわけがない。たぶん、この2人を結びつけたのは、私という共通点があったからだろうから、責任はあるが、無理なものは無理だ。

できることといったら、テレビでの振る舞いを一緒に考えるくらいだ。

\



後日のキャバクラにて。

ナナさんは別のテーブルについている。


「下手に素人がキャラを作るよりも、素で臨んだ方が受け入れやすいかも」

「えー。大丈夫かな?」

「大丈夫です。テレビ局の人も、素人にそんな期待してないですよ」


サラッと失礼なことを言ってしまった私に、楽しそうな笑みを向けてくれる。


「そう言われてたら、気楽に思えてきたよ」

「よし!いってらっしゃい!」


わざとテンションを上げて戦場へと見送った。

こういう時は、勢い以上に心強い味方はいない。

\



幸いなことに出演部分は、VTRのみて、スタジオに行く必要はなかった。

何やらオシャレな部屋で綺麗なお姉さんにインタビューを受けているなるさんをテレビで見る。


やっぱり、なるさんはインタビューをするより、されるほうが似合う。


インタビュアーの女性タレントが質問上手で、喋りやすい空気を作ってくれていたため、順調に進んでいく。


『アリス先生に最も影響を与えた人は?」


太宰治とか答えておけば、賢そうに見える簡単な質問。でも、なるさんの答えは頭悪そうなものだった。


『友達のキャバ嬢です』


呆れもあったけど、その何倍も嬉しかった。


『この小説は、彼女への感謝を綴った作品です」

『大切な人なんですね』

『はい。極論、彼女にさえ読んでくれれば、私は満足です』

\



そんな、なるさんの控えめな発言と反して、本が売れない現代では信じられない部数が売れた。


キャバクラでも、あの小説の主人公が私がモデルということがバレて「サラちゃんへの長いラブレター、面白かったよ」と嬢とお客様両方にイジられる。

まあ、あんな熱烈なラブレターをもらったのだから、これくらいの羞恥は我慢しよう。

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