第41話 宣伝には痛みが伴う
本を一冊世に出すためには、それなりの時間がかかるらしい。
文章を書き上げて「はい終わり」ではなく、誤字脱字のチェックや宣伝がある。
特に、アラキタアリスの新作となれば、出版社も宣伝に力を入れる。SNSやテレビ、文芸雑誌などをフルで活用して、読者の期待を煽る。
「そんな大したもんじゃないんだよ・・・」
出版社が宣伝に命を燃やしている一方、作者様はキャバクラにきていた。
「新境地とかに辿り着いてないし・・・。読者の心を救うつもりで書いたわけでもない」
なるさんが、こうして分かりやすい愚痴を吐くのは珍しい。よっぽどのストレスなのだろう。
「大丈夫ですよ!なるさんの過去作全部読みましたけど、あのクオリティだったら、文句言う奴なんていませんよ!」
「そうかなぁ・・・」
半年ぶりのご来店を誰よりも喜んだのはナナさんだ。
ほぼ毎日「なるさん、もう来ないのかな」と言っていたので、インタビューなどで会っていた私よりも感激度はずっと上だった。
ズルをして会っていた私は、隅で大人しくしていよう。結局、ナナさんをインタビューに召喚するという目論見も宙に浮いたままだったし。
「で、いつ出るんですか?」
「さぁ」
「『さぁ』って・・・」
「1.2ヶ月のズレがしょっちゅう起こるから」
具体的な日にちが決まっていないというのは、割としんどい。
早く済ませてしまえれば楽になる。でも、自分ではどうにもできない範囲の話し合いにより、それはできない。
さらに、個人でできることは、もう終わっているときた。そりゃキャバクラで愚痴りたくもなる。
「丹波さんは何してるんですか?」
一応、私も質問してみた。
全く喋らないと、オーナーに怒られる。
怒っても怖くないけど。
「私をテレビやらYouTubeやらに出そうとしてる」
「・・・」
丹波さんの思惑は分かる。
なるさんは、30代前半とは思えないほど若く見えて、可愛い。
こんな見た目の小説家だったら、ゲストで出したい番組は多いだろう。
テレビ離れと言われているが、今も尚影響力がある。出る番組さえ間違えなければ、売り上げも伸びるだろう。
問題は、なるさんの性格だ。
「出るわけないでしょうに。怖いもん」
ため息をついて、そう言うなるさん。
まあ、無理して出て変に炎上するよりもは、最初から露出することを諦めるのも一つの手だ。というか、今までのアラキタアリスは、ずっとそうしてきた。
丹波さんは、なんでこのタイミングでその方法を打診したのだろう?
「お。あなたがアリス先生?」
仲良し3人組に割って入ってくる第三者。
私の周りでこんな空気の読めないことをするのはあいつしかいない。
振り向くと、案の定詐欺師が立っていた。
「ウチの番組に出て下さい」
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